第1話 酒カスエルフを拾いました
深く考えずに笑える異世界コメディを目指してみました。
よろしくお願いします。
死んだ。
いや、本当に死んだ。
たぶん過労死だと思う。
最後の記憶は会社だった。
深夜。
誰もいない事務所。
パソコンの画面。
大量の未処理メール。
そして。
「……ちょっとだけ寝るか」
そう思ったところまでは覚えている。
その次には――。
「ようこそ!」
知らない白い空間にいた。
「異世界転生です!(ぱちぱち)」
目の前には神様っぽい女がいた。
軽かった。
ノリが。
なんか軽かった。
「もっとこう……あるだろ。神様っぽい威厳とか」
「ああー、最近そういうの流行らないんで」
「そうなの?」
「そうなんです(ニコッ)」
そうなのか。
そうか。
そうなのか…?
「あ、じゃあ転生特典とか?」
「ありますあります、ありますとも」
神様はニコニコ笑った。
「じゃじゃーん、あなたには特別に【庇護者の加護】を授けます!」
「おお」
なんか強そうだ。
「困っている人が見つかりやすくなります!」
「うん」
「困っている人に好かれやすくなります!」
「うん…?」
「放っておくと罪悪感がすごいです!」
「待て」
なんかおかしい。
「助けると少し運が良くなります!」
「いや待て待て待て」
俺は手を挙げた。
「それ能力じゃなくて呪いみたいじゃないか?」
「そんなことありません!私の加護そのものです!でもでも、そうとも言います!」
「言うんだ」
「私の世界の、困ったちゃんを助けてくださいね!」
神様は爽やかな笑顔だった。
ぶん殴りたい。
---
そして気が付いたら転生。
十八歳くらいの体になっていた。
場所は知らない街。
異世界だ。
本当に異世界だった。
「……さて」
とりあえず生きていく方法を探そう。
幸いなことに言葉は通じる。
服もある。
多少の所持金もある。
(これに関しては助かった)
なんとかなるだろう。
そう思った。
思ったのだ。
「うっ……ぷ……」
変な声が聞こえるまでは。
「……?」
路地裏だった。
嫌な予感がする。
前世で培った危機察知能力が警報を鳴らしている。
関わるな。
逃げろ。
見なかったことにしろ。
そう言っている。
「うぷっ……おろろろろ……」
「よし、帰ろう」
即決だった。
聞かなかったことにしよう。
なんたって異世界初日だ。
面倒事は避けたい。
俺は踵を返した。
その瞬間だった。
ズキィッ!!
「うぐっ!?」
胃が痛い。
けっこう痛い。
ブラック企業時代の月末みたいな痛みだ。
「な、なんだこれ……!?」
冷や汗が流れる。
息が苦しい。
頭痛までしてきた。
そして理解した。
「あのクソお女神様……!」
庇護者の加護だ。
絶対そうだ。
助けろってことだ。
放置するなってことだ。
「異世界初日から!?」
ふざけるな。
せめて三日くらい待て。
俺にも心の準備がある。
しかし胃は痛い。
我慢できないことはないが痛い。
「くそっ!」
俺は路地裏へ向かった。
そこにいたのは。
「……エルフ?」
金髪だった。
長い耳だった。
文句なしの美人だった。
ただし。
ドブの横で吐いていた。
「うぷっ……」
「まじかよ最悪だ……」
異世界初日に出会うエルフがこれか。
もっとこう。
神秘的なやつとか。
森の守護者とか。
そういうのじゃないのか。
「おい」
肩を揺する。
「生きてるか?」
「ん……」
エルフがゆっくり目を開いた。
綺麗な緑色の瞳だった。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
幻想的だった。
「お兄さん誰ぇ……?」
台無しだった。
完全に酔っ払いの声だった。
「旅人だ」
「旅人かぁ……」
「そうだ」
「あ…飲む?」
酒瓶を差し出された。
「飲まん」
「いいお酒なのに」
「昼間だぞ」
「関係ある?」
「あるよ!」
なぜないと思った。
「お前何してるんだ」
「飲んでた」
「見ればわかる」
「じゃあ聞くなよぉ」
うざい。
異世界初日に出会う相手じゃない。
絶対違う。
もっとイベントがあるだろ。
勇者とか。
王女とか。
運命とか。
「名前は?」
「フィーネぇ……」
「そうか」
「お兄さんは?」
「ヒロ」
「ヒロかぁ……あんまり聞かない名前だぁ…」
フィーネは俺の腕にしがみついた。
「お金貸して」
「は?」
「酒代、お家まで取りに戻るのめんどいよー」
「知らん」
「けち」
「会ったばかりだぞ」
「細かいこと気にする男はモテないぞぉ」
「そのセリフ、路地裏でキラキラしたものを出してる奴が言うな」
すると。
フィーネはなぜか真顔になった。
「私はモテるぞ」
「何が」
「モテる」
「……」
「それはもうすごくモテる」
「そうか…」
「昔は」
「過去形じゃねえか!」
ダメだ。
完全にダメ人間だ。
会話するだけで疲れる。
しかし。
胃痛は消えていた。
加護が満足したらしい。
助けた判定になったのだろう。
「じゃあな」
俺は立ち上がった。
「帰る」
「えー!!」
「えーじゃない」
「お腹すいた」
「知らん」
「死ぬ…お腹すいてしんじゃうよ…これは…」
「死なんだろ」
「ん、たぶん死なないけど」
「死なないのかよ」
フィーネはへらへら笑った。
そして。
「ねえ」
「なんだ」
「お家までおんぶして~~…」
「嫌だ」
「即答!」
「当然だろ」
異世界初日。
転生一日目。
宿も決まっていない。
知り合いもいない。
なのに。
なぜ俺は。
酒臭いエルフに家まで運んでくれと頼まれているんだ。
「……」
「……」
数秒沈黙した。
フィーネが上目遣いになる。
そして。
「じゃ、知り合ったお祝いにお酒飲みにいこ?」
「いかんわ」
俺は頭を抱えた。
嫌な予感がする。
ものすごく嫌な予感がする。
たぶん。
このエルフ。
俺の人生をめちゃくちゃにする。
そんな確信だけはあった。
酒カスエルフ、登場。
次回はたぶんさらに面倒になります。




