研究所
「それじゃあ、案内するよ。地下の研究室にね。」
松田にそう言われ案内されたのは地下への階段。随分と深いようで、薄暗いのも相まり底が見えなかった。だが松田は当然のように歩き出す。それは阿柱にとって異質に思えた。
「え、あ…あの。エレベーターとか使わないんですか?しかも随分薄暗くて、こけそうですけど……。」
「エレベーターはこの研究所には存在していませんよ。確かに時間はかかりますがそちらの方が安全なのでね。」
松田はそう言って上を見上げる。阿柱も同じように上を向くとそこには『火気厳禁』と描かれた四角い物体が同線に繋がれていた。
「爆弾です。」
「え!?なぜこんな所に?」
阿柱は困惑と不安、そして疑問を混ぜたような顔をして松田に問いかける。それに対して松田は淡々と説明をし始める。その姿は先程の気さくな雰囲気と打って変わり、真面目にそして冷徹な雰囲気を纏っていた。
阿柱はそんな松田の雰囲気の変わりように少し恐怖を覚える。
「面接段階ではまだ詳しくは説明されていませんでしたね。この研究所…というか研究を進めている元締めの会社は政府には秘密にしている新たな技術があるんです。ところでその元締めの会社は何か、知っていますか?」
「え〜と、大量にエネルギーを生産しこの国全体に供給している事ぐらいしか……。」
「はい、表向きはそうです。ですが、その大量のエネルギーはどうやって生産されているのか?それは先ほど言った新たな技術に関わってきます。」
「その、新たな技術ってのは?」
阿柱は恐る恐る問いかける。そして、長い階段はまだ続いている。
「『不完全可能性抽出機構』我々はそれを『鏡』と呼んでいます。鏡はありとあらゆる世界の可能性、個人の可能性、生物の可能性、事象の可能性を抽出し、それをこの世界に持ってくる技術です。
別世界の可能性には膨大なエネルギーを宿っています。そしてその可能性を刺激するとエネルギーを得られる。しかし、刺激すると不安定な可能性はあらゆる攻撃や歪みを発生させ危害を加えてきます。会社はそれらを『空想態』と呼んでいます。
そんな、危険な刺激を与える仕事をするのが我々監視者なのです。」
「可能性…?」
「もし、私が核汚染によってDNAが書き換えられ未知の化け物になった可能性。宇宙人が侵略して人体改造された可能性。はたまたその宇宙人によってもたらされた病原菌によって体が変化する可能性。阿柱さんの家族が殺されこの世の全てを殺そうとする殺人鬼になった可能性。
可能性によって持っているエネルギー量や、刺激による反撃の苛烈さは変わりますけどね。そしてそれがこれらの爆弾と繋がってきます。
実は空想態は刺激による反撃の苛烈さが大きいほど産出するエネルギー量も比例して大きくなるのです。さらに攻撃の苛烈は空想態を収容する収容室を脱走して行われる物もあり、もし脱走して地上にでも出れば世界は大混乱になってしまいます。
私たちの研究所は危険な妄想態ばかりなので、もし不慮の事故で脱走した場合の保険ということです。
さて、階段はまだ半分ほどありますけど何か他に質問はありますか?」
説明をしている時の深刻な雰囲気とは一変、初対面の接しやすい雰囲気へと松田は変貌した。阿柱は話に聞き入っており残りの階段の長さなど気にしていなかったが、ふと下を見てみると底の方に僅かに光が見えていた。
阿柱は質問はあるかと聞かれ、部屋に入った当初から気になっていたことを質問する。
「で、では松田さんのその目とか目元は一体……?」
松田の目は黒く塗りつぶされており、前髪の右側には六つほど金の目が浮いている。松田はそれに関して日常になっていたが、確かに一般人からすると、突っ込みたくなるような外見であることを思い出す。
「ああ、これね。これは空想態を刺激することよってその空想態の欠片のような物が刺激者に埋め込まれるんだ。埋め込まれるとその空想態の能力が一部使えるようになるけど、同時に使うと自我が侵食されちゃうんだよね。
随分前だけど、私より二年早くこの研究所にいた先輩がその欠片によって侵食されて死んじゃったんだ。その頃は欠片の危険性も明確になっていなかったから。」
阿柱は悲しそうな松田の顔を見て、気まずい話題を提示してしまったと焦り、慌てて話題を切り替えようとする。
「あ、いや。では、さっきの二級監視員とはなんなんですか?」
「それね。え〜と、この研究の元締めの『三日月』っていう企業で使われている独自の職員階級というのが一番わかりやすいかな。一級から八級まであって、数字が若いほど偉いって感じかな。
ちなみに一級以上の上層部はAからJだったけな?その、アルファベットが割り当てられるよ。」
「それなら松田さんはめちゃくちゃ偉いじゃないですか!……そういえば綾四井さんはどこの階級なんですか?」
「彼はね…特別一級っていって、何か他の一級監視員とは違うらしいけど、私も詳しくは知らないんだ。ごめんね。」
松田はそういって手を合わせ下を出し、てへぺろという擬音語がとても似合うポーズをした。……目元は塗りつぶされているが。
そんな話をしていると階段に終わりが見え大きく重厚な金属製の扉へと辿り着いた。
「おっと、そんな内についたね。ようこそ収容フロアへ。今はちょうど休憩時間だからみんなを呼んで、プチ歓迎会でもしようか!」
「そんな!いや、普通に雑務とか集中力を途切れさせても悪いですし……とにかく、大丈夫ですよ!」
阿柱は焦ったように遠慮をし始める。それに対して松田は優しく微笑みかける。
「あいつらも私も集中力のしの字もないから大丈夫だよ!遠慮せず、遠慮せず〜。」
松田はさっと阿柱の後ろに回り、物理的に背中を押す。
「ええっ?!ちょ、ちょっと…!」
金属製の扉は手をかけずとも自動で開き、その先には階段の薄暗さとは裏腹に、明るいまさに研究室という部屋が広がっていた。
雑多に置かれている覚書、大量に積み重ねられているプレパラート、顕微鏡に常人にはなんのために使われるのか分からない機械、飲料用の書かれたビーカーなど整理整頓が追いついていないことが丸わかりである。
「さて、歓迎会を始めましょうか。」
プロジェクトムーンって言う韓国企業のゲームはどれも面白いぞ…………




