新入社員
ここはあやしい研究所。決してふざけている訳では無く、研究主任の『綾四井』が運営する研究所だからこんんな名前になっているのだ。なぜ平仮名にしたのかは誰にも分からない。
今日、そんな研究所に新人がやってくるらしい。
書類があちこちに散らばり、光が差し込む窓もなく、ただコーヒーを淹れる匂いが漂う薄暗い部屋の中、二人の男女が話していた。
男の方は重度の猫背に、所々茶色く鉄臭くなった白衣を見に纏い、いかにも健康的な食事が取れていないような細い手足を持ってした。しかし、彼の側に立てかけてある赫く蠢いている大剣には妙な威圧感が感じ取れる。
女の方は長く伸ばした髪が一つにまとめられているが、前髪の少し右に複数の目が浮かび上がっている。さらに言えば目元はクレヨンで塗ったように、黒く塗りつぶされ見えなくなっている。身体つきは男よりも健康的であるが、それでもどこか不健康さは拭えない。
「松田君。今日新人が来るらしいよ、何日耐えると思う?」
「綾四井さん、冗談でもそんなこと言わないでください。こうゆうのは黙って残り続けてくれることを願うんですよ。」
松田と呼ばれる女が主任である綾四井に呆れたように言い返す。だが松田は内心間違いでもないのが残念だと思う。
(先月の子は二日で植物状態になっちゃたしなぁ。ただでさえ人手不足なのに…………)
そんな会話をしている矢先、ドアが開かれ、入って来た男は元気よく挨拶をする。
「今日からよろしくお願いします!私は阿柱と申します!!」
第一印象は元気の良い好青年であり、別に細くはないが筋肉質でもない体が目に付く。そしてキリッとした太い眉毛が特徴的な男できりっとしているものも、どこか自信なさげに見える。そんな男であった。
「よろしく。」「よろしくね。」
「はい!」
阿柱は二人の異質な見た目や得物に驚きを隠せてはいないが、冷静さを保ち緊張の面持ちで返事をする。
「では、松田君。研究所の案内を頼むよ。」
松田はギョッとした顔で綾四井を睨みつける。
「ええ?そこは研究主任である綾四井さんがやるべきでしょう?こんな下っ端に任せないでください。」
「断る。第一に松田君は第二級監視人だろう?どこが下っ端なんだね。」
「こういう時に限って、階級の話を始めるんだからいつまd…」
「あ、あの……」
二人が口喧嘩を始めようとした矢先、阿柱が気まずそうに声をかける。それを聞き、松田は思い出したように顔をハッとさせ案内を始める。
「ああ、ごめんなさい!阿柱さん…だったね、じゃあ案内を始めるよ。」
こうして新入社員の案内が始まった。
◆
「まずはここ一階、エントランスや会議室、休憩所などがあるよ。トイレは突き当たりを右ね。」
阿柱は頷く。特に驚くようなことはなく、強いていうならばウォーターサーバーの中身がエナジードリンクらしき緑の液体に置き換わっていることを除けば、清潔感のあるよくある研究所や会社の一階だと認識できる。
「2階は研究員や監視員の住居スペースになっているよ。阿柱さんは、え〜と……1、2、3、4、うん。005号室が部屋割りだよ。家具はベットと小さめの冷蔵庫だけだから欲しいものがあるなら上に連絡したり、家から持ってきてね。」
「あ、私は元々実家住みなので。必要な物の荷物はそろそろ届くと思います。」
松田は注意喚起をしたが要らぬ心配だったと少し安心した。前回の新入社員はそのことを知らず焦って引っ越し作業をした、のにも関わらず退職してしまった。
そんな過去がある松田にとっては二度手間はごめんなのだ。
「ん。そうね、それは良かったわ。」
005号室の中は殺風景な部屋に、ポツンとベットと松田の膝上ほどしかない冷蔵庫が鎮座している。窓は小さくあるが、曇り加工がされており外からも中からも見えなくしているようだ。
「この研究は本当に守秘義務が付きまとうから欲しいものは明後日までには買っときなよ。エロ本とか、業務に支障がいったり、無駄な出費は承認されないからね。」
「え、いや。いりませんからね?!エロ本なんか!」
「ほんとかなぁ〜。」
そんなやり取りをしていると阿柱はふと気がつく。この研究所は外見からは2階しか存在していなかった、そのため研究所と名乗っているからには、肝心の研究室はどこにあるのだろうかと。
「お姉さんにはわかったわ、阿柱さん。今、研究室はどこにあるんだろう?と思ったね?」
「え、あっ、はい。」
松田はにんまりと笑って振り返り、下を指差した。
「それじゃあ、案内するよ。地下の研究室にね。」
詳しい設定は第二話から。




