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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
決勝トーナメント

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88話 辺境自治学院 決着

歓声は、起きなかった。


誰も、拍手を忘れていた。


観客席を満たしていたのは、興奮ではない。


恐怖。


そして驚愕。

自分たちは今、とんでもないものを目撃してしまったという、本能的な理解。


実況席も沈黙している。

いつもなら勝者を讃えるはずの実況官は、マイクを握ったまま口を開けずにいた。

解説者もまた、資料を閉じる。


そこに書かれた戦力評価など、もう何の意味も持たない。


S級指定魔物。


その怪物を、叱りつけ。

怯えさせ。

まるで飼い犬のように従わせる、一人の少女。


そんな存在を評価する尺度など、この王国には存在しない。


静寂だけが、競技場を支配していた。


そして試合は、そのまま流れるように進んだ。


次鋒。

三鋒。

副将。

大将。


結果だけを見れば、それはあまりにも一方的だった。


辺境自治学院も決して弱くはない。

むしろ全国でも上位に入る実力校。


だが彼らは理解してしまった。



審判の旗が振り下ろされる。


「勝者――アーカム魔術学院、エルディア選手!」


歓声。

どよめき。

悲鳴。

そのどれとも違う熱狂が、競技場を包んだ。

実況も困惑を隠せない。


「しょ、勝負ありぃぃぃ!!

予選通過得点、歴代最高得点校アーカム、その先鋒は、S級魔物を従える死霊術師でしたぁぁぁ!!

決着――!!

五勝〇敗!!

アーカム魔術学院、一回戦突破ぁぁぁぁぁっ!!」


役目を終えたミノタウロス・オメガがエルディアの影の中に沈んでいく。


ただ歓声の中、エルディアはかなり不満そうだった。


「ねえ、オメガ。てめーあとで、教育的指導な。」


「ぶも。」


「は?力加減がむずいです?

なま言ってんじゃねー。」


「ぶもぉ……。」




アーカム控室


「勝ったよー」


エルディアに戦いの余韻など、欠片もない。


「勝ったよー、じゃないでしょう!」


リシェルの声が裏返る。


「何なんですかあれは!?

S級魔物ですよ!?飼い犬みたいに従えるとか、そんな話、聞いてません!

どこで従えたんですか!?!?」


「先輩達も知ってるでしょ。ダンジョン深層で焼肉したでしょ。その残り。」


「……は?」


「焼き肉にして食べた、オメガの骨だよ。」


「……」


話を横で聞いていたリリアの表情が、すっと真顔になる。


「待って。エルディア。時系列、整理させて。」


「うん。」


「確かに私達はダンジョン内でキャンプを行い、焼肉を行った。

ミノタウロス。討伐依頼で解体して、みんなで焼き肉にして、骨は記念に残しておいた。

そして、骨を蘇らせて、今のオメガにした。」


「正解。」


リリアはこめかみを押さえた。


「ねえ!!正解、で片付く話じゃないんだけど!?」


「でもやっちゃったし。

それに勝ったでしょ。ちゃんと。


「さすがにこれは、リシェルより先に私が倒れるから!!!

次からは、ちゃんと事前に教えて!!」


「はーい。」


「絶対報告する気ないでしょ!!」


「牛じゃなくて豚だったら豚骨にしてたかなあ……」


「聞けや!!

話を聞けや!!!」


ディオンだけは、依然として試合場の方――正確には、対戦相手だった辺境自治学院の選手たちが退場していく様子を、じっと見ていた。


「……エルディア。

今日の一戦で、お前の名前は完全に王国中に知れ渡った。良くも悪くも――目立ちすぎた。」


ディオンの声が、わずかに低くなった。


「気を付けた方がいい。」




大会運営本部、掲示板前。


競技場の外通路に、人だかりができていた。

対戦表の張り出された掲示板の前――普段なら選手や関係者がさっと確認して去っていくだけの場所に、今日はやけに人が滞留している。


「……おい、見ろよこれ。」

「アーカムの欄、注釈がついてる。」

「マジかよ。あの死霊術師、次戦出ないのか?」


『アーカム魔術学院所属選手エルディア、および使役個体ミノタウロス・オメガについて、危険性評価完了までの間、大会運営規定第十七条に基づき出場を一部制限する。詳細は各校責任者に別途通達。』


淡々とした文面。そこに並ぶ二つの紋章――査問会だけでなく、監査院のもの。


「査問会だけじゃなくて、監査院まで出てきたのか……。」

「それって、つまり――」

「本気ってことだろ。国が動いたんだよ。」


聖フィリアの制服を着た生徒たちも、その掲示の前で足を止めていた。


「……嘘。次の相手、出てこないの?」


「わからない。でも、これ見る限り、少なくとも今回は。」





――噂は、本人よりも先に、競技場中を駆け巡っていた。

控室、少し遅れて。


リリアが息を切らして飛び込んできた。


「みんなみた!?掲示板!!」


「待って、リリア先輩。私は今それどころじゃないの。

いかにミノタウロスを、エイジングビーフにするかという、恐るべき課題があってだね。」


「査問会と監査院、連名の告示!!騒ぎになってる!!

エルディア出場制限だって!」


「……?

ミディアムレア?」


「なんで肉から離れないの!!」


リシェルが眉をひそめる。


「おかしくはありませんか。

本人に話を通す前に、先に外へ貼り出すなんて……」


「おそらく、順番の問題じゃない。」


低い声で言ったのは、ディオン。


「これは、お前個人への話じゃない。競技場中――いや、大会に関わる全員に対して、『大会はこの件を本気で扱っている』と知らしめるための、示威行為だ。」


控え室の外、掲示板の前ではまだ、人だかりが崩れずに残っている。

エルディアという少女の名前が、良くも悪くも、王国中の口に上り続けていた。


案の上、控室の扉がノックされる。

扉を開けた先にいたのは、大会の係員。


同様の通達が書面にてもたらされた。



「『つきましては、当該個体の危険性が正式に評価されるまでの間、大会におけるエルディア選手の連続出場を控えるよう、ここに通達する。』」





王都、査問会本部は揺れていた。


「三十年前を、思い出せ。

あの時も、始まりはこうだった。一人の少年が拾った魔物を育てた。誰も彼を止めなかった……その結末を忘れた者はここにおるまい。」


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