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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
決勝トーナメント

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86/167

85話 一回戦、辺境自治学院

決勝トーナメント1回戦。


王都中央大競技場の空中に、新たな資料が投影されていた。


「決勝は、予選とは形式が異なります。

一試合につき、各校五名を選出。

競技内容は、勝ち抜き戦です。」


「予選が"総合得点方式"だったのに対し決勝は純粋な、学院対抗戦形式というわけだな。」


実況と、さらに解説。


予選とは違う、決勝特有の張り詰めた空気が、会場全体を包んでいた。

観客席は、予選以上の熱気で埋め尽くされている。


――先日、突如として現れた"謎の学院"。その姿を一目見ようと詰めかけた観客も、少なくない。


「本日より、決勝トーナメントが開幕いたします!」


朝の澄んだ空気。

そこに実況官の声が高らかに響く。


「第一試合、《アーカム魔術学院》対《辺境自治学院》!」





競技場の視線が、一斉に、アーカムの選手席へと集まっていた。


リシェルの声が、震えている。


「私たち、今、"優勝候補"として、見られているんですよね?」


「そうなるな」


 ディオンが、満員の観客席を見上げながら、静かに頷いた。


「昨日まで、誰も名前すら知らなかった俺たちが、だ。」


「重い……重すぎます……」


リシェルが、頭を抱える。

その隣で、リリアだけは、意外にも、楽しそうに笑っていた。


「まあまあ、いいじゃない。ここまで来たら、やることは変わらないでしょ」


「予選までは"挑戦者"だったんですよ?

負けても『よく頑張った』で済んだんです。

でも今は、勝って当然って思われてる。

……胃が痛いです。」


「ははっ。リシェルらしい。気負いすぎ。」


リリアが思わず吹き出した。肩をぽんっと叩く。


「私達の中身は昨日と何も変わってない。

名前が変わったわけでも、急に強くなったわけでもない。

昨日と同じ私たち。だったら、やることも昨日と同じ。」


「その通りだ。

すでに俺たちは王国中を騒然とさせた。こうなったらやるだけだ。予選一位だろうが、弱小学院だろうが関係ない。決勝は一戦ごとの勝負。昨日の結果は、昨日で終わり。今日、勝った者が強い。」


ライゼルトのその言葉に、リシェルも、深く息を吐いた。

震えていた指先が、ゆっくりと止まる。


「……そうですよね。」


リリアが笑う。


「その意気。その意気。」


「リリアのその前向きさ、時々羨ましいです。」


「褒めたってなにも出ないよ。リシェル君。」



エルディアは映像板に映し出された自分たちの学院名と、対戦相手の欄を、静かに見つめていた。


(アステルのいる王立グランディアは別ブロック。順当にいけば決勝であたる……)


魔の森。

あの、圧倒的な星の裁定。

数千の星槍が、エルディアを、貫かんと降り注いだ。


(あの時、アステルとは痛み分けになった。

今度は、痛み分けはない。

勝つ。

勝って全てを手に入れる。)


――誰もが越えられる冬を手に入れるんだ。


エルディアの呟きの奥には、すでに静かな闘志の火が、灯っていた。



「エルディア。考え事?

第一試合、始まるよ。」


「狙うは優勝」


「もち。

ここまで来たら優勝以外ない」


リリアからの言葉に対するエルディアその返答には、いつもの飄々とした軽さは確かにあった。


だがその奥には、火傷するような熱。



「行くぞ」


ディオンの声に、アーカムのメンバーは、静かに頷き合う。


決勝、初日。

アーカム魔術学院の、新たな戦いが――今、幕を開けようとしていた。




先鋒。

エルディア。




「さあ。アーカム魔術学院の先鋒が姿を現ました!!

確認しておきましょう!!

予選通過点数36万点とは、王国魔術祭における歴代最高記録を、実に20倍以上、大幅に更新しての数値であります!!」


観客席が沸く。


「そんな学院の先鋒!!エルディア!!

彼女の、全校ランキングは、なんと!!」


一瞬、間が空いた。

そして続く。


「――脅威の20,700位!!!」



ん?






予選で歴代最高記録を叩き出した"謎の学院"の先鋒。

誰もがその名を知りながら、誰もその実像を知らない。


エルディアは、緊張感の欠片もない足取りで、あくびを噛み殺しながら歩いてきた。

観客席のざわめきが一段階大きくなる。


がやがや


空気が止まる、という表現では足りない。

観客の理解が一拍遅れたまま、全員が同じ一点で固まった。


実況席も例外ではない。


「……ちょ、ちょっと待ってください!!今の……

はい、えーと、確認します……確認中です……」


実況はさらにもう一度、言葉を失う。


「……これは……」


マイクの向こうで、明らかに一度息を飲む音が入る。


「……確認するが、その数字は全国ランキング20,700位ということか?

その中の最下位である20700人中の20700位を意味しているのか?」


全国、20,700位。


それは文字通りの、最下位。

圧倒的な最下位。


「この国には、およそ100近い魔術学校があり、その総生徒数は20000人ほどだ。

これを統一した基準でランク付けしたものが全国ランキングとなる。」


「なるほど。

つまり、学院ごとの順位ではなく、全国すべての生徒を順位付けした仕組みであるという事ですね。」


「その通りだ。

資料によれば、アーカム魔術学院の全校生徒は3学年で450人程になる。エルディアはそこで450位。

この点数内訳は、全校ランキングに反映される。

つまり20700位というのは、その共通した基準で算出されたランキングとなる。」


「信頼に足る数字というとですね!」


「うむ。」


次の瞬間。


「全国最下位!?」

「聞き間違いじゃないよな?」

「実在してんの!?!?」


ざわり、と波が立つ。


だが何よりも観客一同は思った。


なぜ説明した。ばれちゃうじゃん。


(余計ひどくなったぞ。)

(フォローのつもりか!?)

(完全に追い打ちじゃねえか!!)


がやがや。


ざわめきが競技場を包む。

歴代最高得点。なのに全国最下位。情報量が多すぎる。


エルディアだけが、小さく首を傾げていた。




《辺境自治学院・先鋒視点》


控室。


青年は静かに手袋を締め直した。


辺境自治学院、三年。

ガルド・フェンリス。


魔物討伐回数、四百七十一。

王国北部では、その名を知らぬ者はいない。

卒業後は騎士団入りが約束されている実力者。


だが。


「相手は……アーカム、か」


予選順位一位。

三十六万点。


ガルドは肩を回して深く息を吐く。


迷宮の攻略と、対人の一騎打ちは性質が違う。

相手が何人いようと、環境がどれだけ有利だろうと目の前の一人を崩す技術はまた別だ。


一対一なら、負ける理由はない。


「行ってこい」


学院長の声。


「はい」


青年は立ち上がった。



歓声が波のように押し寄せる中、実況の声のトーンが一段跳ね上がっていた。


「さあ、辺境自治学院より参りますは――ガルド・フェンリス選手!


堅実な魔術で派手さはありませんが、基礎の完成度は学生離れしています。

これまで公式戦で先鋒を務め、敗北したのは、わずか二度。

一騎打ちでは、今大会屈指の実力者と言っていいでしょう。


その名は北部だけでなく、中央でも轟いております!」



ガルドは深く息を吸うと定位置へ立つ。

静かに杖へ手を添えた。


第一試合場、中央。

両校の先鋒が、向かい合った。


ガルドは相手を一目見て、わずかに眉を寄せていた。


想像していたよりも、ずっと小柄で、ずっと軽装だった。

噂に聞いていた"化け物じみた戦績"とは、あまりに不釣り合いに見える。


「……お手柔らかに。」


エルディアが、あくびを噛み殺しながら軽く手を上げた。


ガルドは油断せず、静かに構えを取った。


四百七十一体の魔物と渡り合ってきた経験が、警鐘を鳴らしている――目の前の"軽さ"を、鵜呑みにするなと。


審判が、高く右手を掲げる。


「――試合開始。」




エルディアは、小さく杖を持ちげた。


「はじまったね。

さあ、お披露目といきますか。」



ぶおおおおおおお!!!!!!!!!


会場は完全に固まっていた。


アンデッドになった、ミノタウロス・オメガがその威容と晒していた。


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