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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国大会

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82/168

81話 予選終わり 発表

優勝を確信した空気の中で、アステルだけが、静かにお茶を口に運んでいた。


「優勝確定ですね!」

「さすがです、アステル先輩!!」


取り巻くように集まった同学院の生徒たちが、口々に称賛を並べる。

その声援を、アステルは、特に反応を返すこともなく、ただ静かに受け流していた。


視線の先にあるのは、勝利の余韻でも、称賛の輪でもない。

空中に浮かぶ、巨大な魔導映像板。


速報値の一覧、その片隅。


――『アーカム魔術学院、監査中』。


アステルは湯気の立つ茶器を、静かに卓へ戻す。

その所作の一つ一つに、これまでとは違う、微かな緊張が、滲み始めていた。


「アステル先輩?」


「……なんでもありません。」


──エルディア。


あの最凶の魔術師が、こんなところで、沈むわけない。

それは確信でもあった。


控室へと戻る廊下。

アステルの背後で、二人の生徒が、小声で言葉を交わしていた。


「……なあ、聞いたか。アーカムの噂」

「アーカム? どこだそれ」

「ほら、今日ずっと監査中だった学院。昔は強かった、小さいとこ」

「ああ……それが、何か?」

「集計室の連中が、朝まで残業したらしい。……なんか、とんでもない数字が出たとかで」

「大げさだろ、それ。地味な学院が、そんな」

「俺も、最初はそう思ったんだけどな」


(アーカム……エルディア……朝まで、残業。)


偶然ではあるまい。

これだけの規模の大会で、査定官が朝まで残業するほどの案件など、そう多くはない。


(叩き潰してあげますから。

あなただけは、私が。)


いいしれぬ予感に襲われながらアステルは、控室の扉へと静かに手をかけた。

 ――発表は、もうすぐ、始まる



翌朝。


王都中央大競技場。


開会式と同じだけの観客が、再び闘技場を埋め尽くしていた。


64校。


全選手が整列している。


昨日までの熱狂とは違う。

今日、この場にあるのは、緊張だった。


巨大な魔導映像板には、大きく文字が映し出される。


《全国魔術競技大会 予選 総合順位発表》


実況の声が競技場へ響いた。


「皆様、お待たせいたしました!」


歓声。


「これより、迷宮探索戦を含む全競技の集計結果を反映した、総合順位を発表いたします!」


どよめきが走る。


「なお、本大会では監査案件が一件発生しておりましたが、深夜までに全ての査定が終了しております!」


観客は気にも留めない。

監査など毎年ある。

それくらいの認識だった。


壇上へ、大会委員長が姿を現す。

静かに口を開く。


「では――決勝へ進出する十六位より発表する。」


競技場が静まり返った。


「第十六位――」


学院名が告げられる。


拍手。


悔しそうに肩を落とす生徒。

そして。


十五位。


十四位。


十三位。


順位が一つずつ埋まっていく。


歓声。

ため息。

涙

笑顔。


様々な感情が競技場を満たしていった。


第二位。


大会委員長が、静かに告げる。

競技場中の視線が、一斉に壇上へ集まった。

誰もが疑わなかった。


今年も、その名が最後に呼ばれると。


王都最強。

王国最強。

絶対王者。

その学院の名を。


「第二位――」


一拍。


「王立グランディア魔術学院。」


……


…………。


誰も、拍手をしなかった。

競技場全体が、言葉を失う。


「……え?」


観客席のどこかで、誰かが小さく呟く。


その一言が、静寂を破った。


「二位?」

「今……二位って言ったか?グランディアが?」

「いや、聞き間違いだろ。」


ざわ……


ざわざわ……


どよめきは、一瞬で競技場全体へ広がっていく。

実況席ですら反応が遅れた。


「え……えーっと……ただいま、大会委員長より……

王立グランディア魔術学院が第二位と発表されました……!!

資料にも、そのように記載されています。

これは……」


隣の解説者も、珍しく声を失っていた。

実況者も何度も手元の資料を見返して言葉が続かない。


王立グランディア魔術学院が、一位ではない。


そんな事態を、誰一人として想定していなかった。

グランディアの選手席でも、ざわめきが走る。


「どういうことだ?

アステルは大型魔物100体倒したんだぞ……!? それで、二位……!?」


「他競技の結果も、圧倒的だったじゃないか!

陣地制圧戦も、護衛・救助戦も、全部……!!」


「集計ミスか!?」



魔導映像板の隅、これまで誰も気に留めていなかった数字の欄に、今初めて、大きくスポットライトが当てられていた。


《王立グランディア魔術学院・総合得点》

 40,000点。


「――え、あ、こちらもご覧ください!

グランディア魔術学院、総合得点、40,000点です!

間違いなく歴代最高記録です、これは!!」


解説の老魔術師が、震える声で補足する。


「信じられない点数だ。

一競技で得られる標準的な得点は、1000から2000点程度。

四競技を終えて40000点というのは……単純計算でも、標準の五倍から十倍近い数字となる。

しかも」


実況官が、さらに手元の資料を確認しながら続ける。


「そのうちの、実に九割――36000点前後を、アステル選手、たった一人で稼ぎ出している……!」


競技場が、再びどよめいた。


単独選手が複数競技を横断して40000点という得点を叩き出した前例は、王国の記録上、一度もない。


アステルはそれは間違いなく証明した。

それこそが、"王国最強"の称号


だが誰もが、その数字を見上げながら、同時にもう一つの事実を思い出さずにはいられなかった。


 ――このとてつもない、歴代最高記録ですら。

 ――たった今、"二位"に、押し出されている。


「歴代最高得点が……二位。

つまり、一位は歴代記録を更新したということになります……」


実況者が震える声で呟く。

解説者も、資料を見つめたまま固まっていた。


「私は……この大会を三十年見ているが、こんな結果は、初めてだ。」



競技場は、再び静まり返る。


アーカム魔術学院の選手席。


「え? まさか。

嘘、ですよね……?」


リシェルの顔から、完全に、血の気が引いていた。

その声は、これまでの理知的な彼女からは、想像もできないほど、震えていた。



――絶対王者と信じられてきた学院が、二位に落とされた。

その事実だけで、すでに競技場中がこれ以上ないほどの混乱に包まれている。


だが、アーカムの選手席では――その混乱を誰よりも近くで理解している四人が、まったく別の緊張を味わっていた。


「あわわわ。なんてことに」


 リリアが、珍しく、完全にテンパっていた。

 いつもの余裕は、どこにもない。


「グランディアが、二位……ってことは……」


「言うな」


ディオンが、短く静かに制した。

だがその声にも、隠しきれない緊張が滲んでいる。


「まだ、決まったわけじゃ……」

「ディオン。」


リシェルが、掠れた声で、割り込む。


「私たちの提出物、覚えていますか。あの減点の桁と、加点の桁」


「……覚えている」


「もし、あれが本当に、全部通っているなら」


彼女は、そこで、一度、言葉を止めた。

自分の口から、その先を告げることが、どこか恐ろしいかのように。


「二位が、グランディアだとしたら……その上に、いるのは」


誰も、その先を続けられなかった。

当のアーカムの選手たちですら、自分たちの正確な得点を、この瞬間、完全には把握していなかった。


「……来るぞ」


ディオンの短い一言に、リシェルとリリアの視線が、同時に、彼の見つめる先へと向く。


壇上、大会委員長が、静かに、次の言葉を紡いた。

――第一位。

その発表が、今、目の前に、迫っていた。






アーカム魔術学院。

1位。



36万点



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