70話 依頼5
千蝕魔角鹿が去っていく。
戦闘は終了したと考えていいだろう。
王都ができるずっと昔からある大きな森。
その森を昔から守り続けた大きな獣と呼ばれるだけの事は、確かにあった。
残されたのは、星の魔術と巨獣の砲撃によって削り取られた森。
折れた木々。抉れた大地。
そして、戦略級魔導杖を支えに、どうにか立つアステル。
戦略級魔導杖を用いた封神八十七式烈光流星乱舞。
天翔星装彗身による加速と急停止の反動。
魔力障壁は何層も砕かれ、星属性の演算式は過負荷で乱れている。
──内容的には完全に負けていた。
──この私が、いいようにあしらわれた。
被害は甚大。
ローブは土と煤に汚れ、袖口には裂け目が走っている。
呼吸を整えようとしても、胸の奥が鈍く痛んだ。
森の各所に設置されていた観測用の魔導杭は焼き切れ、補助標も複数が消失している。
戻れば、戦闘の報告だけでは済むまい。
ほうほうのていで、アステルは研究所に戻った。
「ベルク。
終わりましたよ。
なんとか撃退しました。侵食魔術の妨害は成功しました?
……?」
いない。
研究所の周囲に張られていた防護術式は、何重にも上書きされ、強引に補強されていた。
ベルクが、侵食を防ぐために術式を継ぎ足した痕跡だろう。
だが不自然に窓が開いていた。
──まさか。
調合室。
保管庫。
観測室。
仮眠室。
一つずつ確認する。
──いない。
部屋の中には、魔法のあと。
少し開いた窓。
攫われた!?
──疲れた。
何あの化け物。
落とし穴を掘ってなければ泥試合に突入していた。
《魔力位相同期網で同期したダンジョン魔力がなければ相手になんないんだけど?
いわば1人対1000人くらいで戦っていたようなものだ。
もちろん1000人側がエルディア。
エルディアは、ふとローブのポケットを探った。
「あれ?学生証落とした?」
「姉御どうしったすか?」
「なんでもなーい。」
エルディアは首を傾げた。
まあ、逃げきれたのなら勝ちでいいだろう。
リリと合流して、千蝕魔角鹿が走っていた。
「ちなみに姉御が戦ったのはアステル。
18歳。
王国最強の魔術師と名高い、学生さんっすね。
噂には聞いてましたが、化け物でしたね。」
「いやに詳しーね。」
「ベルクから聞いたっす。」
「ふがーーー!!!!!」
そこには、簀巻きにされているベルクがいた。
そんなベルクを横目に見て、エルディアはなんと話に思う。
──ベルクってほんとにりりより弱いんだ。
じゃあしれてる。
「ふがふが(何者だ貴様)。
ふがふが(リッチを従えるなど、どこの魔族だ)。」
「いや、人間なんだけど」
「ふがふが(なわけないだろうが)!!!
ふがふが(災厄クラスのリッチを従えることなど不可能だ)!!」
「いや、まじに。」
「ふがふが(ち、あくまでシラをきりとおすか)。」
リリは思った。
──姉御、本当に人間って信じられてない。
というか、どうやって会話しているんだろう。
フォッフォッフォッフォッ
リッチは、千蝕魔角鹿が暴走した時用にエルディアの傍に控えている。
魔の森の古代樹の付近。
そこには,古代樹統括存在・古代樹古精霊もいた。
ベルクは拘束されている。
「はやく開放しろ。リリ・ヴァルフェリア。
殺すぞ。」
「こーやって顔を合わせるのは300年ぶりくらいっすか?
情緒がないっすね。」
「30年ぶりだ!!
答えを合わせる努力をしろ!!!
あと拘束しておいて情緒も何もないだろう!!
貴様が放置して逃げた王都ダンジョンは広がり続けている。
今更何をしに戻ってきた。」
「耳の痛い話っすね。」
「リリ。
交渉変わるよ。
私に任せて。」
「変わるっすか?姉御は交渉は苦手なんじゃ。」
「私気づいたのよ。
相手が豆腐メンタルだと、ストレスかけすぎて、話になんない、
でもこいつなら大丈夫。
だって同類だから」
「同類?
なんのことだ?」
「30年もせこせこ研究を続けるなんて、自分を見てるようだなと。」
「何をいっている?」
「……」
姉御の、謎の自己投影が始まったっす。
縄を解いてベルクは座っている。
逃げない。
逃げられないが正しい。
「おいで。シェイド。」
「何するっすか?」
「魔王様を呼ぶ。
手っ取り早く仲裁してもらいましょう。」
「は?」
「ひいいい」
数万年の時を生きる古代樹古精霊ではあったが、古代樹統括存在・古代樹古精霊は普通にアーカイブガーディアンが逃げた。
そこには『彼』がいた。
「なあ、エルディア。
お前舐めてるのか?
なんでお前に俺が呼び出されなきゃならないんだ。」
魔王様だ。




