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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
地区予選

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69話 依頼4

声が響いた。

それは詠唱ではく、起動のメッセージ。


一つ一つなら、取るに足らない、魔力をほんのわずかに付与するだけの、補助刻印。

初級魔術師でも扱える程度の、小さな魔術。


だが夥しい程の雪の結晶が空間を埋め尽くすような、その規模で。



仕組みは、見れば誰でもわかるだろう。


微弱な魔術を組み合わせ、無数の補助術式が巨大な魔術を構築。


刻印が刻印を起動し、それをトリガーに別の刻印へ魔力を供給。

その数が常軌を逸していることで、それは神秘とも言える領域を作りだしている。


負荷は膨大。


類稀な魔力制御能力がなければすぐに瓦解する。


その状態のエルディアは、あらゆる能力が拡張し、音速の中にいるアステルすら捉えた。



アステルの一撃を、エルディアはこともなげに受け止める。


「おねーさん。すごく速いね。

すごい身体能力強化魔術だ。

でも直接戦闘は苦手とみた。

動きが甘いよ。

速度に振り回されてる。」


「……何者ですか」


身体強化した自分の速度。

星属性による演算。


そのすべてに、目の前の少女は完全に追従している。


いや。


先肌の動きは完全に先回りされていた。


異常だ。

こんな奴がいるのか。


アステルをして、彼女の身体強化は異常すぎた、


「シフトアップ。」


さらに空間そのものが、淡い光で埋め尽くされ、アステルの顔から血の気が引く。


──全部、刻印魔術!?

まだ上があるの!?


アステルは、全身に鳥肌が立つのを感じた。




エルディアは、軽く後ろを振り返った。


「そろそろ撃てるでしょ。

千蝕魔角鹿ディア・ウロボロス

きなよ。

私を殺したいんでしょ。」


その一言だけだった。



同時に巨獣は静かに首をもたげ、菌糸ネットワークを通じて森全域から魔力をオーダーする。


木々を巡る魔力脈。

地中深くの霊脈。

巨大な魔力プール内の夥しい魔力が、まるで堰を切ったようにディア・ウロボロスへ集束していく。


ゴォォォォォ……。


その1000の触手が、一つずつ淡く輝き始めた。

それが破壊を為すまでは、幾許もあるまい。


「く……!?ここで!?

止めなければ!!」


「さあ、面白くなってきたね。おねーさん。」



千触魔角鹿ディア・ウロボロスは大きく口を開く。

その喉奥で圧縮された魔力が、一つの恒星のように容赦なく収縮を始める。


「……闇を薙ぎ払え。

天翔星装彗身スターライト。」


「『我、久遠の絆断たんと欲すれば、言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう』

終焉剣詠ファイナルチェリオ。」


巨大な闇の刃が生まれた。

それは漆黒の軌道を描き、的確にアステルに直撃する。


「どきなさいっ!!!」


闇の刃を受け止めながら、アステルが叫ぶ。


「出力が互角!?

本当に何者なんですか!?!?

あなた!?!?」


「みたいだね!!

やるね。おねーさん!!

日々の土木工事で鍛え上げられた私の魔術出力と同じなんて!!」


森全体が、その一撃のためだけに呼吸を合わせているかのようだった。

空が震え、大地が軋んでいた。

千触魔角鹿ディア・ウロボロスの喉に集まる光が、ついに極限へ達しようとしていた。


アステルは気づいた。

その『事実』に。

その、恐るべき、信じられない『事実』に。


「あなた!

どこ狙ってるの!!」


「私ら。」


「……は?」


「その鹿って実は制御できてなくてね。

今って内緒なんだけど、三つ巴なんだ。

ごめんね。お姉さん。」


──まさか!!!


千蝕魔角鹿ディア・ウロボロスの喉奥で収縮していた光が限界を越え、ビームは放たれた。


アステルと、エルディアに。



ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!


それは森全域から掻き集められた魔力を、ただ破壊のためだけに圧縮し、解き放ったもの。


世界は光に包まれた。




エルディアは、どこか感心した声をあげた。


「へー。生きてるんだ。

良かった。

まーあれだけの魔術を使えるから、そりゃ大丈夫よね。」


エルディアは、リッチの超重力で魔鹿を拘束する。

ほっとくと見境なく暴れるからだ。

その視線の先には、星の障壁を何重にも展開したアステルがいた


「……当たり前です……」


「無理しない方がいいんじゃない?直撃でしょ?

私は逃げたけど。」


シェイドが、エルディアの脇に浮いていた。

ぶるぶるぶるぶる。


イビルゲートによる転移だ。


地面には深い溝が刻まれ、その底では赤熱した岩盤がじわじわと冷え始めていた。

周囲の空気は歪み、遅れて吹き荒れた衝撃波が、残った木々を大きく揺らす。



「なぜ、こんなことを……」


「……?」


エルディアは首をかしげた。


「なぜこんなことをするのです!!」


「やだなあ。

私も被害者だよ。

この鹿を何とかしようとしていただけだし。」


「魔の森の奥から現れてそれはないでしょう!!」


「濡れ衣だよ。証拠は?」


「捕まえた後で話をききます……」


まだ元気そうだ。

だがエルディアもエルディアで思っていた。


この女やべえんだけど。

すげえ化け物なんだけど。


「それ以上近寄らない方がいいよ。私は逃げるから」


「……逃がすとお思いで。」 


「星の障壁を維持。

千蝕魔角鹿ディア・ウロボロス

ドレッドウルフノワールに、リッチ。

あとは私への対処か。

そりゃハマるよね」


「何を言っているのです」


そしてアステルは、一歩踏み出した。


「え?」


だからこそ彼女は地面に刻まれていた、あまりにも初歩的な『罠』を見落とした。


すなわち落とし穴に。


「んなー!!!!!!」



そして穴から出てきた時、彼女の姿はそこにはなかった。






千蝕魔角鹿ディア・ウロボロスは静かに踵を返していた。


巨体が森の奥へ消えていく。


「そんじゃーね。」


エルディアは鹿の上でひらひらと手を振った。


「森の怒りを買うから、こうなるんだよ。

森の管理者さん、怒らせちゃ駄目だからね。」


そのまま去ろうとする。


「待ちなさい!」


アステルの声が森に響いた。

エルディアが立ち止まらない。


やがてアステルは漏らす。


「……何者なの?」


答えるものはいない。





瓦礫の中に、小さなカードが落ちていた。


「……これは。学生証?」


革張りの学生証を拾い上げる。


表には、見覚えのある顔写真。

間違いなく先ほどまで戦っていた相手。

そして名前。


エルディア


アステルの眉がぴくりと動く。


アーカム魔術学院

──一年


「一年……?

まさか。」


さらに視線を下へ落とす。


学年順位。

百五十位。

アステルが何度も見直す。


「百五十位……。

これ、最下位……。」



しかも


赤点ばっかり!!!!


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