68話 管理者依頼3
エルディアは、裁定の光の中でダークワンドを掲げた。
ぼえー。
「シェイドも来なさい!!」
ぶるぶるぷるぷる。
「『虚空を伝う言霊が呼び覚ませしは、闇の支配者の無慈悲なる顎』
『イビルゲート』」
彼女の前方に、黒い門が開く。
数千の星槍のうちの一部は、その門へ吸い込まれた。
門の向こうには、星も空も存在せず、ただ、底知れぬ闇だけが広がる。
そこは、絶対に入っちゃ いけない場所だ。
「シェイド気張って!!!」
『ぶるる……!!』
「ぶおおおおおおおお!!」
これは千蝕魔角鹿の叫び。
エルディアの後ろで千蝕魔角鹿に星の光が何発と直撃していた。
でかいから守れきれねーや。
わりーっけ。
裁定が終わる。
千蝕魔角鹿は、ボロボロだった。
120パーセント私のせいだけど、大丈夫かな?
もう再生を始めてるから、被害がわからん。
とはいえ出力がやばすぎる。
全部防ぐのは無理だった。
王国最強。星属性固有魔術
封神八十七式烈光流星乱舞。
星属性魔術とは星の位置を術式へ変換し、天空そのものを巨大な魔力演算装置として利用する、アステルだけが扱える究極魔法。
アステルは静かに息を吸うと、アストラ・レガリアを再度掲げる。
「――天翔星装彗身。」
世界の魔力が反応し、空に浮かぶ星々が一斉にアステルへ収束。
その光は一本の槍のように、彼女の肉体を、音を置き去りにさせた。
「ポチ。おいで。」
「ばう。」
エルディアの声と共に、どこからともなくポチがあらわれ、アステルを迎撃する。
かくして、彼女は樹木に叩きつけられた。
アステルの身体が、星の尾を引いたまま横方向へ弾き飛ばされ、空中で幾度も回転し、木々を数本まとめて薙ぎ倒しながら、最後に太い古樹へと激突した。
パラパラと粉砕された樹皮と葉が、雨のように降り注いだ。
「……殺しちゃったかな……
すご。
生きてるんだ。
リッチ。拘束して。」
フォッフォッフォッフォ。
アンデッドが召喚され、彼女の体を掴む。
ぶおおおお!!!!
「おお。復活したか。クソ鹿よ。」
千蝕魔角鹿が立ち上がる。
傷は負っている。
間違いなく深傷。
だが。それでも、異常なスピードで再生していく。
動けるようになるまで幾ばくもないだろう
そして、その千蝕魔角鹿の殺意の先は──
「あ、私が敵なんだね。
確かにそうだ。
別に、君の調教には成功してなかったや。」
エルディアは、立ち上がるアステルをちらりと見る。
「時間がないんだ。クソ鹿。
手加減はやめだよ。
逆らうなら、ここで終わらしてあげる。
古代樹統括存在に気を使ってだけど、もーいいや。
後であやまろ。」
リリは思った。
姉御。揉めるから
アステルは王国戦略級魔導杖を強く握る。
王国戦略級魔導杖の、杖の中枢で、古代竜の魔核が鼓動。
同時に魔導回路が一斉に点灯し、膨大な魔力が彼女の全身へと流れ込む。
身体強化とは、肉体に魔力を巡らせる補助魔法。
だがアステルの魔力と王国戦略級魔導杖の規模でそれを行えば、骨は魔力で補強され、筋肉は竜のような瞬発力を得る。
神経伝達は極限まで加速。
一歩踏み込み、地面が砕け。
二歩で、木々の合間を稲妻のように駆け抜け。
三歩。残像だけがその場に残る。
ぐるるるる。
アステルの前の『それ』は、ぺろぺろと前足を舐める
巨体は大人の馬を軽く超え、全身を覆う毛並みは、光を吸い込むような漆黒。
四肢は異様に太く、地面へ沈み込む爪の一本一本に、黒紫の魔力がまとわりついている。
黒霊暴食狼。
──なぜこんなところにダンジョン深淵の魔物が。
「去りなさい。
といって聞く相手ではありませんね。
……え?」
アステルの足を掴む骨があった。
アンデッド??
アステルは、足を掴む骨の手を見下ろす。
ふぉっふぉっふぉっふぉ
黒き魔力を持つ骨がそこにはいた。
死してなお魔力を蓄え、知性と術式を失わず、永い時を越えて魔術を研ぎ続ける不死の魔導士。
──リッチ!?!?
ぶおおおお!!!!
その魔物達の先に千蝕魔角鹿が立ち上がる。
四本の脚が地面へ深く食い込み、砕けた岩盤をさらに沈ませ、巨木の枝よりも複雑に枝分かれした巨大な魔角は、空を覆うように広がり、その先端ごとに濁った光を灯す。
いずれの魔物も、明らかに支配されていた。
──誰?
その遥か奥に、1人の少女がいた。
ちょうど千蝕魔角鹿と対峙する位置。
あまりにおぞましい魔力。
アステルの前にいる三体の災厄級の魔物。
それらなどとは、遥かに比べものにならないほどの。
アステルは秒で決断する。
──なら、あれからぶち倒す。
アステルは再度杖を掲げ、流星となって疾走する。
その速度は、すでに音を置き去りにしていた。
「捕らえた!」
その瞬間。
エルディアが、小さく呟く。
「……刻印全開放。」




