64話 森開発3
──同期魔術展開。
「さあ、ダンジョン魔力同期によって、拡張されたシェイドの大魔術を存分に味わうがいい!!!!」
ぷるぷるぷるぷる
エルディアの影からシェイドが飛び出す。その全身に魔力が充実している。
それは今までの比ではない。
「『虚空を伝う言霊が呼び覚ませしは、闇の支配者の無慈悲なる顎』」
そして世界の裏側に“門”が開く。
「いでよ。
私のアッシーにして、究極の移動時間短縮魔術。
『イビルゲート』!!!!!」
そこに現れるのは扉ではない。
深淵でもない。
地獄でもない。
概念の裂け目。
――虚空が裂ける。
白い破壊は、黒い門の中へ“流入”していく。
そして反転。
森ではなく。
世界でもなく。
かくして、千蝕魔角の都市崩壊ビームは、巨大なゲートによって、『発射元』へ打ち返された。
「あなたにこの言葉を贈るわ。
深淵を覗き込む時、深淵もまた、あなたを覗き込んでいる。
この魔術を使えば、王都と故郷の村を一瞬で行き来ができる。
だが、残念な事にダンジョンにストックされた魔力を全て使いきってしまった。
つまり!!
歩いて帰らなければならない!!!
私の悲しみを味わえ!!!」
カイゼリオンは叫んだ。
「お、おいエルディアの奴どうしたんだ!!
いつも以上に意味が分かんねーぞ!!」
「ハイになってるっす!!
そして帰りの移動用の魔力を残しておいたのに、それを使ったからやけっぱちになってる状態っすね!!」
「拙者も似たような経験があるでござる!!
馬車代で!!」
あるんだ。
白い奔流が、虚空の門を抜け、それは一切の減衰なく発射地点へ帰還した。
『――――――――!!』
初めてだった。
『千触魔角』が、自らの力によって撃ち抜かれるのは。
幾重にも重なった甲殻が焼き切れ、菌糸で編まれた組織が白熱しながら崩れ落ちていく。
そして『千触魔角』は、初めて“理解したように”沈黙した。
魔の森の数万年の歴史が答えを出していた。
『敵対存在は、必殺技を異空間へ収納し、そのまま発射元へ送り返したあと、自分は帰り道がなくなったと逆ギレする生物。』
完全に想定外。
「森全部だものね、この程度じゃ終わらないでしょ。
さて、次はあなたの番ね。
おいでリッチ。」
穴の底。
千蝕魔角と相対する位置に。
ふぉっふぉっふぉっふぉ。
無慈悲な畑の案山子が降臨した。
『闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ、彼の者に驟雨の如く打ち付けよ。』
フォッフォッフォッフォ
超重力空間が展開された。
エルディアは、穴の底を覗き込む。
暴れる『千触魔角』。
触手が何百本も蠢き、落とし穴の壁を削り続けている。
時間がたてば、超重力空間をはねのけ、落とし穴から出てきてしまうだろう。
「さて。
ようやく落ち着いた。
こいつから森の管理者にコンタクトを取る。」
……
…………。
………………。
全員が固まった。
「「「コンタクトって何!?!?」」」
エルディアはパン、と手を叩いた。
「じゃあ、リリよろしく。」
「何がっすか?」
「いや、何がじゃなくて。」
エルディアは穴の底を指差す。
「ダンジョン機能使って、森の管理者にコンタクト取るのよ。」
「……はい?」
「そもそも、なんでみんなそんな唖然としてるのよ。
この森は、菌糸ネットワークを使って森全体の魔力を同期させてるのよ。
木も、魔力も、魔物も、情報も、この菌糸を通じて繋がっている。
つまりダンジョン構造と酷似してる。
わかった?
りり。」
「……?」
「だからー!!!
魔の森はダンジョンと類似した構造!!
そんで千触魔角鹿っていうのは森の管理システム上位端末。
魔の森全体は広すぎて全部を直接見られないから、管理者は森を階層分けして上位端末をおいてる!!
てゆーか早くして、リッチは持久力があっても、相手は森全部なんだから、このままじゃ出てきちゃうから!!!!」
「……。」
リリは、ぽんと手をたたいた。
「……あ。
ダンジョンも、領域を管理する同期魔術を持っている。
そしてこいつは、森の管理者と同期魔術で繋がっているってことっすね!?」
そういってんだろーがはやくしろやー、
ちょうど二つの円を重なるように、管理者のいる層まで通信路を伸ばせる。
リリは目を閉じ、杖を胸の前で構え、領域侵食を試みる。
弾かれるが、何度も何度も接続し、やがて。
「……姉御。成功っす。」
リリはゆっくりと頷いた。
「拙者、すでに帰りたいでござる……」
「珍しく意見があったな。
全くの同感だ。」
カイゼリオンが無意識に武器を構える。
オズワルドは一歩下がる。
木々の葉が一斉にざわめき始める。
地面を走る菌糸が淡く発光し、一本の光の道となって空へ伸びてくと光が集まり、人の姿を形作る。
長い髪。
木々を思わせる衣。
最初は“影”だった。
次に“輪郭”だった。
そして最後に――
“存在”になった。
「……イレギュラーの来訪を確認しました。
数百年ぶりの“非同期接続”です。
ええホントにめちゃくちゃにしてくれちゃって……」
静か。
あまりに静かな声。。
森そのものが、人の形を借りた存在。
リリがそっとエルディアの袖を引っ張る。
「『古代樹統括存在・古代樹古精霊』っすね。
ね、ねえ姉御……。」
「なに?」
「管理者さん。やっぱ怒ってないっすか?」
エルディアは、きょとんとした。
「やだなあ、リリ。
何万年と続く森の管理者よ?
こんな程度で怒るわけないじゃない。
何言ってんの。
いつも思うけど、冗談上手よね。」
「いや、冗談とかじゃなくってですね……」
リリは森の精霊をちらりと見ると、森の精霊は微笑んでいた。
にこり、と。
優しく。
……優しく。
…………。
彼女は穏やかに微笑んでいた。
目が全然笑ってないっす。




