60話 新規事業2
とにかくも、貴族界の中でもエルディアの管理は脅威度と共に把握されている。
リリ・ヴァルフェリアとの接点。
災厄クラスの魔物を複数従える。
エルディア自身の戦闘能力。
何より危惧すべき点は、貴族への忠誠がほぼ0な点。
そのエルディアからの『お願い』の内容は、監視役の貴族からしても、渡りに船だった。
かくして、可及的速やかにエルディアからの『お願い』は果たされた。
エルディアは、王都圏での事業展開を望んでいる。
貴族側はエルディアが怖いので、王都圏に行くのは渡りに船
濡れ手で粟
つまりエルディアが遠くに行けば、みんなハッピー。
ウィンドリィ家の圧力が、確かにそこにはあった。
「……ホントに許可が出るなんて……
今だもって信じられませんわ。」
カトレアは学校の教室で頭を抱えていた。
エルディアはにこにこしていた。
「聞いてみるもんだね。」
「あなた、何かしましたよね?
いくら提案の内容が現実的でも、うちが平民の意見を丸ごと通すなんて、あり得ませんから。」
「アルト経由でちょっとね。」
「巻き込まれるこっちの身にもなってくださいまし。」
「まあ付き合ってよ。」
「しょーがないですわね。」
カトレアの家は商売貴族。
そして王都ダンジョンでも、仕事がある。
エルディアの『お願い』とはその新規事業計画の提案。
アスの家から入荷した使えない宝石を集めて魔道具にする事業。
リリのダンジョンで行われているこれを拡大し、王都兼でも売り出す事業であった。
エルディアは地図を広げた。
「まずは、この辺だね。
今は無理だけど、最終的には宝石をここに集めて、魔道具はここで作って、ここで売って、利益はここで回す。
まずはそのための第一歩として『労働力の一部を魔物へ置き換える』。」
「はい?
つまりどういうことですの?」
「まずはコストを抑える仕組みを作るんだよ。」
エルディアは資料をめくる。
「最初はアンデッドから。
骨が荷物を運び
骨が清掃し
骨が警備し
骨が採掘する
そんな夢の国を作り上げて見せる。」
カトレアが眉をひそめる。
「……夢とは?
死体は夢を見ないと思いますが?
というかアンデッドにこだわる理由は?」
「オズワルドと私で、ネクロマンシーで土木工事を請け負えるから。
そしてその管理者は。カトレア。」
「普通に嫌ですわ。」
「ふ……っ」
──さすがのカトレアもここまでの条件を出せば頷かざるを得ないだろう。
「──って、なんで!?!?
いーじゃん!!」
「見事なのりツッコミですね。
ですけど無理ですから。
普通に学生ですから、私達。
こんな10年計画に付き合ってる暇ありません!!」
「でも、私もオズワルドも控え目に言って〇カ……
現場監督が必要なんだけど……」
「でしょうね!!!!!」
アスが資料を覗き込んだ。
「えーっと……」
──あ、第二期計画があるんだ。
第一期は、まずは王都圏でショッピングモールのモデルケースを作る。
リリのダンジョンを参考に、人を笑顔にする仕組みを作り、これを成功させる。
目標。金貨10000枚。
第二期。
成功したら横展開。
各地に同じ施設を作り、それを全部リリのダンジョン領域として、設定。
地表における、超巨大ダンジョン領域を構築する。
──それを足掛かりに、ゆくゆくは世界を支配する。
アスは固まる。
「……はい?」
世界を支配する?
……
……
アスは資料を閉じた。
もう一度開いた。
「……見間違いかな。」
まさか、
ねえ。
第三期。
各ショッピングモールを拡大しつつ、ネットワーク化を進め、世界規模まで事業拡大し、それらをダンジョン領域で全部繋ぐ。
世界最大の物流網を構築し、地上国家の流通への影響力を確かなものにする。
第4期。
通貨を発行し、独自経済圏を構築。加盟国制度を開始。
全店舗を地下ダンジョンで直結し、またその過程で地上国家の流通を九割掌握する。
それは商業計画ではなく、
国家戦略でもなく、
控え目にいって、単なる覇権計画だった。
アスは非常に嫌な予感がしたので、エルディアを諭す事にした。
ここで止めないと、偉い事になる気がする。
失敗してもしなくても、盛大に巻き込まれる気がする。
「ねえ。エルディア。
世界を支配することはないと思うの。
支配という手段を、人間は安易に選んではいけないと思うの。」
「続きもあるよ。
各国政府へ物流を止めますけど?と言える立場、すなわち外交力を獲得しつつ、世界中の地下を完全接続し、大陸という概念は消滅させ、ダンジョンでの移動手段を人々の当たり前にする。」
──もはや国家になってる……しかもスケールが大きすぎて、出来るかできないかよくわかんない!!!
「無理じゃないかなあ……」
「夢は大きい方がいいでしょ!」
「大きすぎて世界を征服してるから。」
「またまた──」
「いやいや──」
そのやり取りは、一昼夜続いたという。
王都圏の新規事業計画はこうして始まった。
この街はのち大発展を遂げる事になる。




