5話 ダンジョンコア
「闇属性はこっちだな……って、おい。
うげ。
まじかよ。」
「どうしたの?」
「未踏派領域だ。
この通路、ダンジョンの地図にないんだよ。
よりにもよって深層付近で未知なところを発見しやがった。
危険すぎる。おすすめはしない。」
精霊達も怖がっていた。
アルトの周囲を漂っていた小さな精霊達が、落ち着きなく揺れる。
「危険なんだ。
まあでも、精霊でお金を稼ぐためには、まずは精霊と契約しないといけないから。
戻る選択はないんだけどね。」
アルトは未踏破領域へと続く通路を見つめる。
奥から流れてくる空気が、妙に冷たい。
そこは、妙に静かだった。
魔物の気配がなく、空気も止まっている。
歩く2人の足音が1番うるさいくらいに。
巨大な空洞の中央にそれは存在していた。
「な、なあ、おい……
あれ……まじかよ。」
「アルト。大ジョーブ。
あんま驚かない私も驚いてるから。」
──本当にあるんだ。
ダンジョンコア。
──ダンジョンコアの間。
淡い黒紫の巨大な結晶体が、宙に浮かんでいた。
脈動するように、ゆっくりと光を明滅している。
明滅は弱く、光も不安定。
周囲の岩盤へ無数の魔力線が根のように伸びているが、その魔力線も所々途切れている。
「なんだか、死にかけてねーか?」
「ダンジョンマスターが不在なんじゃない?
そこに骨があるよ。」
巨大な骸骨が、壁にもたれかかるように崩れていた。
王冠。
朽ちたローブ。
そして、禍々しい魔杖。
エルディアは目を細める。
──なんでやられてんの?
まるで巨大な何かに食われたように、体の一部がない……
それに、さっきからアルトの精霊達がずっと怯えてる。
何かいるなこりゃ。
「リッチだろあれ。
都市一つが滅ぼされかねない災厄指定だぞ……
なんで死んでんだ?
エルディア……嫌な予感がする。
早めにここから去った方がいいかもな。」
「同感。
でももう、遅いかもね。」
「珍しい。
ネズミが2体紛れ込んだのね。」
入り口を塞ぐように。
彼女はそこにいた。
「はは。まじかよ……
よりにもよってかよ……
ついてんな俺ら……」
アルトの乾いた声。
エルディアとて同じ気持ちだ。
未踏派領域
ダンジョンコア
ダンジョンマスターであろうリッチ
とくれば次は
肌にまとわりつくような魔力が、肺の奥に沈む圧迫感の正体か。
見た目だけなら、貴族の娘にも見えるが違う。
黒いフリルドレス。
頭の側面から、小さな角が伸びている。
声は幼い。
だがその声にそぐわない肌にまとわりつくような魔力。
「だけど今日はちょっと機嫌がいいもの。
だから跪くだけで済ませてあげるわ。」
魔の眷属。
魔族だ。
首を傾げて赤い瞳が細まる。
「ど、どうしよーか。
魔族とは戦った事ないんだけど。」
「言ってる場合じゃねーだろ!」
魔術は放たれ、戦闘は開始された。
彼女の足元が、影が生き物のように蠢いていた。
壁を這い、床を舐め、エルディアたちに襲い掛かる。
2人は散開して、アルトは風精霊シルフを召喚。
「綺麗ね。
人間にしては、悪くないわ。」
彼女の影が立ち上がり、風を受け止める。
エルディアは観察する。
アルトの魔術は自然そのものを借り受ける、上位魔術体系だ。
ダンジョン内に魔力を伴う風が吹き荒れる。
──魔術は、あまり有効的ではないのかもしれない。
なら。
「物理はどうかな?」
エルディアの刻印が赤黒く明滅。
高められた身体能力のままに、一気に肉薄しながら殴りつける。
──手応えあり!!
どーよ!!
「……やったか!?」
アルトも息をのんでいる。
空気が爆ぜ、魔族の小さな身体が砲弾みたいに吹き飛び、壁に叩きつけられていた。
「……がっ……かひっ……」
小さな咳。
「お。パンチは効果あるんだ。
物理攻撃には弱いみたい!!」
「く。
オーガの攻撃すら完封する魔術障壁だぞ!?
なんだこの化け物は!?!?
本当に人間か!?」
エルディアは思った。
(……口封じのために、こいつは絶対殺した方がいい気がする!!)
──嫁の貰い手がいなくなるから!!
※注、もういない。
──刻印魔術。
人体破壊前提の強化術式の強制駆動を行い、エルディアの赤黒い紋様が、首筋を越えて顔面まで侵食。
「《刻印全解放》。
アルト!!
足止めよろしく!!」
「まかせろ!!」
アルトの契約する精霊が顕現し、《風裂閃光》。
光線じみた暴風が放たれた。
エメラルド色の燐光が渦を描く。
ダンジョンを削る風の奔流を、魔族は黒い影を広げて対処。
筋肉。
骨格。
神経。
エルディアの刻印の魔力がさらにエルディアを深く侵食。
《刻限超過》──!!
それは放たれた。
「ありったけよ!!
《破滅拳》!!!」
「ひ……やめ……」
エルディアの拳が魔族の顔面を殴りつけた。
「はい。
すいません。調子乗ってたんです。」
魔族は正座していた。
顔面には赤黒い打撲痕。
銀髪は乱れ。黒いドレスは裂けている。
「今はダンジョンバトルの真っ最中でして、ええ。
単騎で乗り込んで、あとはダンジョンコアを破壊するところで、あなた達が現れたんです。」
「色々あるのね。
でも私達、ちゃんと話し合いを持ちかけたよね?
なんで話を聞きもせず襲い掛かってくるかな!?」
「さーせん!!
調子乗ったんです!!
気の迷いで!!
ところで姉御、今回のループはそういう感じなんすね?
だいぶ、はっちゃけましたね。
174回目でしたっけ。」
「……どーいうこと?」
「へ?
いや……、
あ……
……こっちの話っす。
能力だけじゃなくて記憶まで……
徹底してるなあ……
今なら悪いことできそうだぞ?
でもなー後が怖いしなー……
でもこんなチャンス滅多にないしなー」
「何ぶつぶつ言ってるのよ。
あなたさ、それに人をオーガだのなんだの、ある事ない事好き勝手言ってさー」
「いや、それは事実では──」
「殺す。」
ひいい!!
やがて。
「その、ダンジョンコアだけでも破壊させてもらってもいいでしょうかねえ。
へへ。」
「どーぞ。」
「お、おい。
いいのかよ。」
「いや、ダンジョンバトルもダンジョンコアも興味ないし。
闇属性の精霊を探してるのに、外れだったみたいだし。
結局コアからの闇の魔力だっただけみたいだし。」
「姉御、闇属性の精霊を探しているなら紹介させてもらっても……」
「え、まじ。
やった。」
「ふぉっふぉっふぉっふぉっ!!」
骸骨は笑っていた。
リッチじゃねえかーよ!!
そこで死んでた!!!!
闇属性だけど!!!
確かに闇属性だけど!!!
獣魔登録した。




