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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
地区予選

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58話 特許区にて

それは、王都にある。


そう。


特許区である。




もちろん、アーカムにも第七区と呼ばれる特許管理区画は存在する。


有力商会、貴族、工房。

様々な利害が絡み合い、癒着も少なくない。


それに地方は地方だ。

ならば最初から、本家へ。


まあその分、審査は厳しいだろうが、


「望むところだよ。

そんなやわな検証はしてきてないから。」



王都特許区。

王国中の発明と魔法陣が集まり、審査され、保管される知の中枢。

敷居をまたぐだけでも、許可がいる。


持ち込む荷物は検査され、身元は照会され、来訪理由まで記録される。


アルト・ウインドリィの紹介。

そして、各方面への根回し。


それがなければ、平民が正門を見ることすら叶わない。


ここは、王国が「知」を管理する場所なのである。

一歩足を踏み入れれば、そこは国家機密の世界だった。



対応したのは、白髪の老人だった。

資料を一枚一枚めくり、静かに頷く。


「……良いぞ。」


「あ、いいの!?」


「なんじゃ?特許申請にきたんじゃないのか?」


「いや、きたけど、はやいなって。」



思わず身を乗り出すエルディア。

老人は苦笑した。


「と言っても暫定じゃがな。受理だけじゃ。」


「受理?」


「特許の取得は、まだ先じゃよ。」


老人は術式の一節を指差した。


「わし一人では判断できぬ。

王立魔導院。

宮廷魔術師団。

必要であれば騎士団も加わる合同審査に回す。」


「へー。」


「結果が出るまで、およそ三週間。」


「そ、そうなんだ。」


「まあ、結果を待つがよい。」


「数週間後、正式な通知を送る。」





三週間後。


封蝋。


封印は王立魔導院の紋章。

そして軍務局の刻印。

さらに、その上から重ねられた騎士団の封印。


三重封印。


「なんか……すごい重いねこれ。」


「さすがは王都の特許区だな。

なんて書いてあるんだ?」


「来いってさ。

日時の指定がある。」




「では説明する。」


部屋の空気が変わる。

以前と同じ応接室。

特許区の奥から現れたのは、以前エルディアを対応した老人だった。


「じいちゃん。よろしく。」


エルディアはアルトとともに頭をさげる。


老人は封書の写しを机に置くと、静かに言った。


「結論から言う。

循環型温熱結界スピリット・サーマル・ネットワーク》について、以下の通り決定する。

軍事転用可能技術として認定

国家戦略級技術候補として登録。」


「ちょ、ちょっと待って。

暖房だよ?

なんで軍事技術なのよ。

それはさすがに納得ができないんだけど。」


「仮にその技術が、仕組みの通りに働いたとするならば、例えば冬の戦場。兵士一万人を、凍死させずに済むじゃろうな。」


「……あ。

降参。

……よく軍事転用できるって分かったね。」


「過去が教えてくれる。

多くの技術は戦いに使われる。

また、特許審査官が審査中の技術を盗用した場合、死罪じゃ。

人の発明を見て、それが世界をどう変えるかを最初に知るそれには、重い責任があるからの。

じゃがお主のようなものも時折現れる。

それは、面白い仕事じゃよ。

話を戻すぞ。」


エルディアは頷いた。

老人は指を折る。


「まず資金。

次に技術の検証結果。

そして研究仲間と後ろ盾。

これらは、お主が揃えた。

検証は、これからわしらも行う。」


エルディアは姿勢を正した。


「じゃが、お主には明確に足りないものがある。

最後に必要なのは――魔術師としての信用。

つまり実績じゃ。」


「実績?」


「そうじゃ。」


老人はエルディアを見る。


「お主、学生じゃろ?」


「ええ。まあ。」


「つまり、国家がお主という魔術師をまだ知らん。

エルディア。

魔術師としての実績を証明せい。

それで全て揃う。」


──ど、どうすれば?


「……名の知れた魔術師をぶっ飛ばせばいいかな?」


しん、とした。

アルトは固まり、じいさんは、とてもおおきな溜息をついた。


「エルディア。ちがうぜ。

それは、実績じゃなくてただの事件だろ……」


「でも、強い人に勝てば強いってことでは?

論理的に考えて。」


「魔術の実績は強さじゃない。名前が知られてるってことだよ。

──エルディア。全国大会だ。

まさか気づいてないのか?

普段の頭のキレはどこにいったんだよ。」


「……」


「そこで実績を残せば、特許が通るってことだ。」


じいちゃんを見ると頷いていた。


「全国大会で良い結果を残す程の魔術師なら、問題はあるまい。」



魔術師としての実績。

そしてそれが、特許取得に繋がる


……うん。

明確だ。


──そーか。

勝てばいいのか。



「エルディア。」


老人は書類を軽く叩きながら、淡々と言う。


「わしらは、お主の味方ではない

特許区は発明を守る場所ではあるが、同時にそれがどう使われるかを預かる場所じゃ。


暖房のつもりであろうが

村を救う技術であろうが

国家の手に乗る以上、それは“国家の責任”になる。」


目を細める。


「ゆえに

軽々しくは通せんし、

軽々しくは扱わぬ。

お主の技術は、それだけのものじゃ」


エルディアは黙って聞いている。

老人は最後に、静かに言った。


「まだ学生の身でありながらここまできた。

おまけにこの検証量。

お主の村を救いたいという願いは、それほど大きなものなのじゃろう。」


老人は書類を軽く叩く。





「その技術を、預けるに足る秩序を作ってみせろ。エルディア。」


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