57話 打ち合わせ4
その日、その場にいた者は知った。
成績は、ただの順番ではない。
そして「正しい」とは、時々とても難しい。
学年450位エルディアは、学年3位ディオンに詰め寄っていた。
「いいですか。先輩。赤点ですよ。
赤点。
トップ層にいる方は、夢物語でしか聞いたことがない、そんな伝説的な存在が私ですよ。
先輩は赤点って知ってますか?
それはとても困った人の事です。」
「……あ、ああ一応は
「いや、絶対知ってないと思います。
知識として、知っているだけ。
人格の赤点者とは、学校に禁止されてると知りながら獣魔を学校に連れ込み、
学校のルールになっていないからと落とし穴を持ち込み、
ルールのギリギリでありながら、それを当たり前のこととして、開き直る。
そんな人です。」
一同は思った。
──お前だ。
ディオンは思っていた。
──なぜ俺は、赤点について熱く語られているのだろう
「ここで問題です。
ランキングってなんだろう?」
一同は思った。
──確かに
論理は無茶苦茶。
だけど謎の説得力。
学年の代表を決める大会メンバーに450位の存在。
「……ランキングとは、つまり一元的なものではない。
だから、ランキングを見直しましょうという事か?
それこそ短絡的だと思うが?
魔力量
戦闘能力
模擬戦の勝率
座学
──」
一つ一つ指を折って数える。
「強さとは色々あるものだ。
すなわち、より総合的に上に立つ人間を決めるものだ。
学校の評価ランキングでも。
成績ランキングでも。血でも才能でも。家柄でも政治でも。
上に立つ人間とは須く上位に君臨する。」
一拍置く。
「いわゆる貴族のパワーバランスですね。
私も、別にそれ自体を否定してるわけじゃないです。むしろ反映されるべきです。」
……。
…………。
……………………。
完全に場が凍った。
「……は?」
教室が静まり返る。
「私が問題視してるのは、そこじゃなくて。」
一拍置く。
「精度の甘い評価の中にいるから、だから何年も連続で負けるんじゃないんですか?
中央に。
正確には、不動の最強魔術師アステルに全国二連覇された。
初戦敗退。中央に破れたとはいえ立派なものですね。」
さらに温度が冷えた。
アルトは両手で頭を抱えた。
(エルディア……。
良かれと思って言ってるのに、完全にランキング上位をコケにしてる……。)
ライゼルトは完全に噴き出していた。
「ぶはっ
この一年やべえ!!
「先輩、痛いから僕を殴るな。」
「お、悪いルミナス。」
「つまり俺たちは実力じゃなくて、家柄で上にいると言いたいのか?」
「違います。
こと全国大会を目指すなら、よりルールに特化したメンバーを選ぶべきでは。
家柄抜きに。
勝敗に家柄は関係ないようなので。
ルールブック見ると。」
「なあ一年。」
静かな声には“決定”があった。
すでに魔術は組まれていた。
中空に描かれた魔法陣が、淡く光を帯びる。
「……言いたいことはわかった。
だが、それをここで証明する必要はない。」
ドンッ!!
黒い巨体がエルディアの前へ飛び出した。
黒霊暴食狼。
牙を剥き、低く唸る。
「グルルルル……。」
「どーどー。」
エルディアはポチの首をぽんぽん叩く。
「ダメだって、ポチ。
話し合いなんだから。」
「くぅん……。」
ポチは耳を伏せ、一歩下がる。
一方で、魔術を構えていた先輩の手は震えていた。
「無傷……だと?」
先輩は目を見開いた。
直撃したはずだった。
だが。エルディアは服についた埃を軽く払っただけだった
まるで何事もなかったかのように話を続ける。
「というかですね。
というか、私がここにいることに。
私自身が!
一番!!
疑問なんですけど!!!
これこそがまさに家柄問題の最たるものなんですけど!!!!」
教室がざわつく。
「お前、散々ごねたろうが!!」
そのツッコミは当然といえた。
「あそこで『そうですね』って帰ると
『Eクラスだから追い返していい』
『Eクラスは負け犬だ』。そうなっちゃうんです!
Eクラスにも貴族はいます。
その人に殺されちゃうんで。
カトレアって言うんですが。」
「それで今、まさに今お前はこの場面で殺されかけてるが?」
「つまり私には二択しかない。
この場で殺されるか、
カトレアに殺されるか。
なら、どちらで殺されるのがましか、そんなのは誰でもわかると思いますが。」
「聞いてやるよ。
どっちだ?」
エルディアはため息をついた。
──まあ、こうなるか。
本意ではないが、限界だ。
「やりましょうか。先輩。」
「はいストーップ」
間に入ってくる別の人がいた。
全校ランキング5位 リリア・シルヴァ。
「君の言い分はわかった。
でもここでやるのはなしだよ。
わかるよね?」
「……」
「不満かな?」
「いえ。」
エルディアは指差した。
はっはっはっは。
すでに一瞬で戦闘態勢に入ったポチが、尻尾を全力で振りながらディオン先輩をノックアウトしていた。
ポチが、ふわっととびだし、ディオンをぺしっと叩くと、ディオンは一撃で倒れていた
「おーーーーい!!!!!」
「……いや、先輩が間に入ってくるの遅いっていうかー」
「私のせいにすんな!!!
君、本当に人格赤点じゃん!!!」
「ちょっとエルディア一年生だからよくわかんない。
Eクラスのビリだし。」
「みえみえのすっとぼけすんな!!!!」
カオスになった。
──まあ、この場は、解散しかあるまい
数日後。
選抜メンバーに一通の通知が届いた。
「お。レギュラーが決まったみたいだな。」
「いや,あの話し合いで何が決まるんだ」
「お前、一切話し合ってなかったからな。
なんなら全部ぶっ潰した。」
「善意の提言だったのに……ぐすん。」
エルディアは封筒を開けて見る。
そこには、大きく書かれていた。
全国大会選抜メンバー
先鋒
『エルディア』
…………。
…………。
…………。
エルディアは通知を見た。
もう一度見た。
裏返した。
「……。」
アルトが覗き込む。
「どうした?
選抜落ちか?
そりゃそうだよな。」
エルディアはゆっくり顔を上げた。
そして。
「なんでだよ!!!!!!」
通知表を机に叩きつけた。




