55話 打ち合わせ2
はっはっはっは
エルディアが頭を撫でると、その災厄級魔獣は子犬のように目を細めた。
エルディアは満足げに頷くと、空いている席に向かう。
先輩の一人が言う。
「待て。
なぜ何事もなかったように席に座ろうとする。」
──ばうっ!!!
ポチが鳴いた。
みんながびくっとする中で、エルディアは振り返らずに言った。
「ってことなんで。
そのうち、みんな慣れるし、先生も目覚めるって。
ポチ言ってた。」
──何が!?!?
「犬の声に、第三者の確認は取れないだろーが!?!?」
アルトは隣で頭を押さえていた。
──初手でやりやがった
エルディア。
初手で躊躇なくやりやがった!!!
気を失っていた顧問はしばらくして起きた。
そしてポチの姿を見て、屈した。
「……分かった。
その魔獣は外で待機させろ。
教室への立ち入りは認めん。
それと……お前も席につけ。」
「はーい。
「ポチ、お外で待ってて。」
「バウッ!」
黒霊暴食狼のポチは嬉しそうに一声鳴くと、おとなしく教室を出ていった。
誰も止めなかった。
止める理由もなかった。
ぶち壊れた教室のまま、それは始まった。
「……では、始める。」
顧問は資料を机に置いた。
「選抜チーム顔合わせ、および今後の日程について説明する。」
顔合わせも終わりに差しかかった、その時だった。
「最後に何か言いたい事があるものは?」
「一つよろしいですか。私はやはり納得できないのですが。」
静かな声が、教室に響く。
全員の視線が一人の少女へ集まる。
長い銀髪を揺らし、彼女はゆっくりと立ち上がる。
「やはり、その方は相応しくありません。
所詮はEクラスの学年ランキング150位。
全校ランキングならば450位。」
全校ランキング12位。
そして、ミレイユ・ラグナエルロードの実姉。
リシェル・ラグナエルロード。
それは“正しさ”の側に立つ者だ。
「あ。先輩も感じてました?
やっぱランキングに納得できないですよね。
やっぱりランキングって中身を現していないと思う。」
「そっちではありません。
ランキングに関係なく、あなたがこの場にふさわしくないと言っているんです。」
「そうですか?」
「理由は簡単です。
この選抜は、アーカムの代表です。
それは国から求められる人材の模範でもあるという事もあります。
実力だけではありません。人格、責任、品位も問われます。
先ほどの一件はなんですか?」
彼女は、エルディアを真っ直ぐ見据える。
「災厄級魔獣を連れ込み、教師を威圧し、建物を破壊する者が、代表に相応しいとは思えませんが。」
エルディアは首をかしげた。
「私、ちゃんと選抜の呼び出し用紙を持って来ましたよね。
これ、紙なんですが。」
机の上に、一枚の紙を置く。
「それがあるのに、最初から『Eクラスだから帰れ』『席はない』『ゴミ』って、そうやって立場の弱い人間を決めつけて排除しようとすることは、人格、責任、品位として問題ないんですか?」
沈黙。
リシェルは、しばらく黙っていた。
やがて静かに口を開く。
「……その件については、顧問に非があります。」
教室がざわつく。
顧問が眉をひそめた。
「ですが。
それと、あなたが代表に相応しいかどうかは、全くの別問題でしょう。
教師の失態を理由に、自分の資質を証明したことにはなりません。
私は見ました。
私だけではない。みんな見ている。あなたは災厄級魔獣を連れ込みました。
そして、その力を背景に発言した。
たとえ意図していなくても、あの場では威圧になっています。
代表とは、力を持つ者だからこそ、その使い方を問われます。」
教室は静まり返る。
「ですから、私は反対ですね。
顧問の対応は間違いでした。
ですが、それでも私はあなたを認めません。」
「教室が脆すぎるんじゃないかな。
そうすれば、犠牲は出なかった。」
「そもそも壊すのが、良くないっていってるんです。
犠牲が出てしまうやり方を、簡単にとってしまう軽率さを指摘しているんですよ。」
エルディアは素直に頷いた。
エルディアは鞄をごそごそと漁る。
一冊の冊子を机に置いた。
全国大会選抜の選抜基準
教室中が固まる。
(なぜそれがそこにある。)
(いや、なんで選抜基準を持ち歩いてるんだよ!!)
「でもさ、お姉さん。これ読んだけど、選抜メンバーは建物を倒壊させて、顧問を攻撃してはならないってかいてないんだけど。」
「書いてあるわけないでしょう!!!
バカですか!?!?」
エルディアはページをめくる。
「これによると──
人格評価は競技運営に支障を来す重大な問題行動がある場合に減点。
責任については競技活動に関する遵守状況。
品位については大会期間中の行動。
今日の私は、まだ大会に参加していないから、ふさわしいとか、ふさわしくないとかではないと思う。」
教室は静まり返った。
エルディアはぱたんと、冊子を閉じた。
「まさか、実力評価と適性評価のところってこと?
気はすすまないけど、いーよ。
どーぞ。」
ミレイユの姉は眉をひそめる。
「……何を言っているのですか。」
エルディアは教室の扉へ向かって手を振った。
「ポチ。
出番だって。
戦いたいんだってさ。」
そろりとポチが入ってくる。
待機していた深淵の魔物が戻ってくる。
「……違います。
誰も戦いたいなんて言っておりません。
あなた、それは結局は脅迫してるのと変わりませんから!!!」
「でも、不満なんでしょ?」
エルディアは首をかしげた。
「それに、私。
ポチより強いけど。
ポチがいるだけで脅しになるなら、ポチとは関係なしに私自身がみなさんを脅してるってことだよね。
でもここまで見る限り、そうは思えないけど。」




