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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
全国選抜戦

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53/69

52話 話し合い

魔王は、視線すら動かさなかった。


白磁のティーカップを優雅に口元へ運び、

長い脚を静かに組み替えたまま。


エルディアが傅いていた。


正確には『傅かされていた』。


王の周囲を満たすのは、言葉ではなく息をするだけで肺が焼ける圧倒的な魔力。

魔力の圧力だ。


リリが青ざめた顔で一歩踏み出す。


「魔王さま!!

お、お待ちくださいっす!

その魔力は――」


「……?

何か言ったか?リリ。」


魔王はティーカップを傾けたまま、小さく首をかしげていた。


「いえ……」


──だめっす。

魔王様、今なら本当に消し飛ばす。

姉御……

地雷を踏んだっす。


「聞きなさいよ。

魔王さま。

そっちのダンジョンと、こっちのダンジョンを繋ぎなさい。」


――ドン。

さらに目には見えない圧力が強まり、空間を押し潰した。


「姉御!!

刻印全開放フルリリース』するっす!!

死んじゃうっす!!」


「もうやってる……!」


──《魔力位相同期網マギア・フェイズ・ネットワーク》起動。


──ダンジョン魔力を全ツッパだ。


死ぬ。

このままでは


「ほう。

なるほど考えたな。

ダンジョンに侵入した際の俺の侵入DPを使ったか。」


「へえ……

口を聞いてくれるんだ……

どういう心代わりよ」


「力だ。

力なき物に価値はない。

喜べゴミムシ。

空気からは昆虫に昇格だな。」


「あっそ……」



ダンジョンが呼吸し、壁が脈動し、満たす魔力が、一斉にエルディアへ流れ込んでいく。

その細い身体が、淡い光に包まれた。

ほうほうの体で顔をあげる。


「あんたのとこのダンジョンと、私んとこのダンジョンを繋ぎなさいよ。」


引かない。

引けない。


──結局その程度か。

そう笑われるのだけは、死んでもごめんだった。


いろいろな理由はあるが、結局は全てはくだらない意地でしかない。


リリを見捨てることになる。

自分が積み上げてきたものを、全部「無駄だった」と認めることになる。


──死んでもごめんだ。


だから、エルディアは笑った。

なんでもないというふうに。


しばらく睨み合う。

魔王は初めて、ティーカップを机へ置いた。


「まあいい。

その戯言の続きを話してみろ。つまらなかったら殺す。」


エルディアにはもう余裕はなかった。

全身の魔力回路が軋み、視界が白く染まり、指先から感覚が消えていく。


「ぐ……」


「どうした?

話さないのか」


魔力の圧力がさらに強まっていた。

相当に。


「慈悲深くて涙でそーだわ。

まおーさま。」





──姉御が死んじゃうっす……本当に死ぬっす……

全然慈悲深くないっすから──

リリは泣きそうだった。


エルディアは話はじめた。


「異物ダンジョンが広すぎる。

監視役が足りない。

リリ一人では処理できない。だから寝ないで働いていたらリリは逃げた。

ダンジョンって、侵入者を撃退するとDPになるんでしょ?

だったら、そのDPを異物ダンジョンにも流せるようにする。」


魔王は黙って聞いている。


「うちのスケルトン。

研究設備。

物流。

全部そっちへ回せる。

つまり異物ダンジョンをうちと共同運営する。」


魔王は肘をついてその言葉を聞いていた。

そしてやっと一言だけ言った。


「お前。

異物空間が何か理解しているのか。」


「全然。

だから今すぐつなげろと言われて、何とかしろと言われたらそりゃ無理よ。

理解してから設計する。

現状。

人手不足。

監視不足。

どのみち、リリで無理なら他の魔族でも無理なんじゃない?

遅かれ早かれ、スタックは飽和する。

キャパオーバー。


つまり。

問題の本質は、現場改善案件。

そこを何とかしない限り、この問題は解決しない。

そしてさらに必要なのは強者ではなく。弱者の論理。」


「利益は。」


「もちろんWin-Win。

あなた達は人手不足を解消。

私は研究素材と研究仲間を得る。

リリは仕事が減らせて眠れる。

魔王様の役目である管理を安心して果たせる。

みんな幸せ。」


エルディアは引く気はなかった。

リリは絶対に必要だったからだ。


「姉御……」

「リリ。あんたは黙ってて。」


「なぜ、そこまでクソガキを庇う。」


「庇う?

必要だからに決まってるでしょ。」


「なら、そいつがもし役に立たなくなったらどうするんだ?

捨てるのか?

悪いが手足をもいでもりリリを連れていく。

その時点でそいつに価値はない。

必要性は消える。役目が消失するからな。」


「捨てるわけないわけないでしょ。

別に。そのままよ。」


「理解できんな。」


「なぜって。

研究に必要だし、面白いし、悪ふざけもできる。それ以上に理由なんてない。」


「雑っすね!?」


リリは思わず叫んだ。


「死ぬぞ。お前。

くだらない同族意識。

共同体への帰属精神の果てに。」


「山の村育ちを舐めないで。

こちらは冬を越えられなくて、何人も殺されてきた。

今更死ぬからって曲げることに意味はない。

ここで曲げたら、きっと受け入れることになる。

みんなで乗り越えるんだ。

もう誰かを置いてくのは、死んでも嫌なんだ。」



時間がたった。

数秒だったのか、数時間だったのか曖昧だった。


やがて空気が変わる。




「……いいだろう。

条件を詰めよう。

死んでも引く気はないようだ。

死ねば楽だったろうに。」


「いや、引くわよ。

死にたくない。」


リリは

その場にへたりこんだ。


──助かったっす……。


魔王は、まだエルディアみていた。


「……だが解せぬな

矮小な人の身で、どうしてそこまでの領域に。」





「さーね。」


精霊が私から逃げまくるから、腹いせに死ぬ思いで鍛えまくったからでーす。


だが、それはまた別の秘密の話だろう。



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