50話 お客様は魔王様
《DP収支 +300,000》
リリは固まった。
「……」
目を擦る。
もう一度見る。
数字は変わらない。
《DP収支 +300,000》
「……」
壊れたっす。
ダンジョン第一層。アクセサリーショップ。
カトレアが休憩がてら店員をしていた。
ブラックな職場すぎて、店番が休み時間だった。
「……」
男は店内を見回す。
小さな指輪。
髪飾り。
魔石細工。
初心者向け護符。
旅人向けのお守り。
使い物にならないような貴金属を使って、丁寧に作られた商品が並ぶ。
しばらく見て。
彼はぽつりと言った。
「一つもらえるか?」
「はい。銀貨一枚になりますわ。」
そして小さく笑った。
「いい店だな。」
後から来た、アスは聞いた。
「誰?今の人。お客様?
なんかすごい精霊が集まっているけど。」
「さあ?」
男の進路は、立ち入り禁止エリアに及ぶ。
入り口は巧妙に隠されてい、誰にも見つからない道をあるていく。
第二層《作りかけのダンジョン区画》
穴を掘っただけ。
だが、精霊生態の試験実験に運用予定なのがみてとれた。
第三層。
《環境改変区画》
熱暴走や魔力嵐などの環境改変を通して精霊社会のシミュレーターを生成する。
まだ未完成。
中央には大きすぎる魔法陣。
世界を模倣するための機構。
長い沈黙とともに、巨大な精霊シミュレーターの前で男は立ち止まる。
「馬鹿だな。
こんな効率の悪い方法を選ぶか。」
──まわりくどいだろう。もっと簡単な方法などいくらでもある。
「従わせればいい。
徴収すればいい。
奪えばいい。
命令すればいい。
その力のままに。」
それだけで終わる話なのに、目の前の術式は違う。
誰も独り占めせず
誰も従えず
みんなで力を使って、みんなで循環を模索するためのもの。
無限の組み合わせから、その設定した目的を見つけ出すための、無限演算装置だ。
──永遠とも言える時間の果てに
「なるほど。」
──これが貴様の答えか。
リリ・ヴァルフェリア。
その瞬間、背後から声。
「なんのようっすか魔王様。」
「その口のきき方はなんだ?」
そして男は魔力を解放し、リリは一気に地下500m。つまり5層までぶち抜かれた
第一層《癒し区画》
カフェでは、アスがスープを配っていた。
「どうぞー。まだあったかいですよー。」
カップがことりとゆれ、パンケーキのバターが揺れた。
アスは、きょろきょろ見渡す。
「──なんの音?」
「さあ?結構揺れたましたね」
アスとカトレア。
客はパンを食べており、誰も気にしてない。
第2層《作りかけのダンジョン区画》
「さあ、アンデッドども
今日も頑張るでござる!!」
かたかたかたかた
スケルトンは、まじめに土を運ぶ。
「地面がゆれましたな?
……地震でござるか?
まあよい。エルディアどのに崩落防止を進言せねば。」
第5層 最下層。
用途が決まっていない、その広大な空間にリリは叩きつけられていた。
「いたたた……」
天井には巨大な穴が空いており、その巨大な穴から男はゆっくりと下りてくると溜息をついた。
「そのいいかげんな性格を、矯正してやろう。
死ね。」
そして、その魔力をリリに叩きつけようとする。
しかし男は手を止めて、そちらを見た。
「無断立入は、禁止だけれど。
誰よあんた。」
エルディアだった。
リリは声を出そうとする。
「あね……ご……
やめ……。」
ダメージで声が出ない。
──姉御、止めた方がいいっす!!
その方は
その『御方』は──
男は静かに言う。
「なんだ?お前。
『それ』はうちのだ。
邪魔をするな。」
「へえ。奇遇ね。
『これ』は、私のなの。
うちの大家に手を出すとか意味わかんないから。
というか立ち入り禁止なんだけど。
ルールくらい守ってもらえる?」
「ごほっ……
姉御……やめるっす……」
「リリ。ちょっと休んでて。
今って教育の時間だから、
このふてえやろうに、ここのルールを教えてやる。」
──あ、やばい。
姉御ブチギレてる。
「まつっす!!!」
「《刻印全開放》!!」
「どけ。」
男のそれは、それは詠唱すらない魔力の一撃だった。
ダンジョンの壁が崩壊する。
エルディアは、シェイドの影ワープでやり過ごす。
「ポチ。いけ。」
「黒霊暴食狼か。
ほう。深淵の住人が小娘に従うとはな。」
キャン!!
男にポチが弾き飛ばされる。
死神が出現していた。
「リッチか。」
「いけ。我が村の畑の案山子よ。
場を掌握し、死で空間を染め上げよ。
『闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ、彼の者に驟雨の如く打ち付けよ。』」
フォッフォッフォッフォ
超重力空間が展開するが、一蹴される。
影が拡がっていた。
ぷるぷるぷるぷる
「シェイド!!
『我招く無音の衝裂に慈悲は無く、汝に普く厄を逃れる術も無し。』
全力で魔力吸収フィールド!!!」
同時に、エルディアは巨大な闇の刃を叩きつける。
「ダークワンド!!
『我、久遠の絆断たんと欲すれば、言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう。』
終焉剣詠」
ボエー
「ぬるいわ。」
そしてエルディアは壁に叩つけられた。
「げ、げほ……
ねー誰よあの魔族。
強すぎんだけど!?!?
てーかそもそも、黒霊暴食狼も、リッチも災厄指定なんだけど!?!?
それにダンジョン魔力を使った大魔法の三連続よ!?
なんで効かないのよ!!」
「姉御。
……そろそろやめるっす。
魔王様っす」
……は?
悍ましい程の闇の魔力を纏って、それが歩いてくる。
暗い魔力が空間を埋め尽くそうとしていた。
「う、嘘でしょ?」
「……」
エルディアは、ようやく気付いた。
こつ。
こつ。
こつ。
ガチャ。
そして魔王は、落とし穴に落ちた。




