46話 次の大会2。エルディアのペルソナ
ライゼルト・ヴォルトレイン
彼は魔術の名家ヴォルトレイン家の名門の嫡男であり。幼い頃から才能を称賛され将来を約束されていた。
天才。
すごい。
将来は最強。
だが彼自身は、その評価に納得していなかった。
まだ何も成していない。
まだ誰にも勝っていない。
それなのに与えられる称賛に価値を感じられなかった。
何もしていないからだ。
──そんな彼が魅了されたのが魔術だった。
魔術は嘘をつかない。
血筋も名声も関係ない。
術式は完成しているか。
相手を上回れるか。
結果だけが残る
結果だけがもの言う。
負けた人が負けるだけ。
──だから彼は実力を信じて、勝者を尊び、敗者に厳しくなった。
──試合開始。
審判の手が振り下ろされる。
「始め!」
ライゼルトが一歩踏み出した瞬間に、地面が消えた。
あざ笑うかのように、足が行き場を無くす。
「──は?」
ドゴォッ!!
落とし穴。
彼は即座に壁を蹴る。
──こんなものは、障害にもならない。
魔力を脚部へ集中。
跳躍。
その瞬間に、穴の底で魔法陣が起動した。
──《魔力吸収領域》
闇属性の第2トラップだ。
「……ッ!?」
身体が重く、魔力が削られ術式が鈍ると、飛び出そうとした身体が止まる。
その隙。
上から声が降ってくる。
エルディアだ。
「先輩、頑張れー。
Aクラスのみんなもかかった落とし穴だよ!」
「殺すぞ!!!」
そして水が流れ込んだ。
ゴボゴボと穴が埋まっていく。
「──おい待て。」
「……待て?
ルールに『待て』なんてルールあったかなあ……」
エルディアは、模擬線中にも関わらずルールブックをペラペラする。
──書いてなくない?
「そういう意味じゃねえんだよ!!!
何で対戦相手を溺死させようとしてる!?
相手が相手なら死ぬぞ!!」
「はは。おもしろ。
そりゃ殺すつもりで戦うでしょ。
戦いなんだから。
──それに、ルールに殺しちゃだめなんて書いてないから。」
「……」
「まあ、死なないでしょ。
その程度じゃ。ねえ先輩。」
ライザルトは起死回生の自らの切り札。
雷精霊を呼び出そうとする。
──共鳴回路展開。
そして。
何も起きなかった。
「……は?」
エルディアの周囲に展開された、見た事もない術式。
「《精霊絶対拒絶領域》。
友達は選ぶべきだと思うんだ。
先輩の雷精霊は、契約者としての責務よりも、私への拒絶を選ぶ。
なぜなら精霊だから。」
「お前の術式か!?
オリジナルの固有領域クラスだぞこれ!!」
精霊との接続が無残にも切れ、契約が一切届かず、彼の最大戦力が封殺される。
ライゼルトは、泥だらけになりながら壁を登る。
手をかけ、滑りながらやっと登りきる。
屈辱の中でようやく、地上へ手をかけ身体を持ち上げると、やがて這い上がって立ち上がった。
ふう。
その瞬間に審判の旗が上がる。
「場外負け。」
「……?」
彼は周囲を見る。
そこは競技場の外だった。
穴の出口そのものが変形して、場外に接続されていた。
「穴は広めに掘ったんだよ。先輩。
場外に繋がるルートに誘導できるように自然に傾斜をつけてね。
お疲れ様。それじゃ帰るから!!」
エルディアが遠くから手を振る。
「待て!!!
俺は、まだ一発も攻撃受けてねえぞ。」
「だって攻撃してない!!」
「俺はまだ魔術戦をしてねえ!!。」
「使ってないしね!!。」
「……俺は、何に負けた?」
エルディアは首を傾げる。
本気で不思議そうに。
そしてルールブックをバタンと閉じた。
「試合でしょ?
ルールには『地面をほってはいけません』って書いてなかったから。」
審判の先生達は、頭を抱えていた。
またルールを増やす仕事ができてしまった。
帰り道、エルディアはナチュラルに最低な感慨にふけっていた。
──さて、今日も一人の子羊を汚泥に沈めてやった。
また一人、泥沼にごあんなーい。
とてもうれしそうな様子が、普通に最低であった。
──とはいえ今回の相手はなかなか手ごわかった。
そしてこの先、さらに強敵は現れるだろう。
魔術社会は合理的であり、出る杭は打たれる。
そしてそれらすべてを落とし穴にぶち込めるように、私の戦術迷宮『タクティカル・ラビリンス』をより進化させなくては……
よりルールのギリギリをつけるように。
それはサイコなまでに、ルールのギリギリ責める執念。
「私と相対したもの全てを、泥沼の中で這いつくばらせて迷わせてやる……
私と歩む道と同じように……
せめて私と同じ目にあいなさい……」
相変らずエルディアは、哀しくひねくれていた。
目的を確認する。
エルディアの目的は
誰でも冬を越えられる村を作る事だ。
冬が長い村。
作物が枯れ子どもが凍える。
ウィンドリィ家の支援があるとはいえ、あくまでも支援。
途切れたら終わり。
──精霊を呼べる者がいれば……
誰かが言う。
でも誰も呼べない。
エルディアは決断する。
自分しかやらないなら、自分がやるしかない。
才能の証明でも
承認欲求でもなく
「自分しかできないならやるしかない。」
このままだと、あの村は助からない。
いつまでたっても失い続ける。
──泥沼の底を駆けずり回ってもなんとかしてやる。
だから。どれだ泥だらけでも。
笑われても
ルールを読んで
穴を掘って──
そして彼女は、そこに訪れる。
家の近所。
──リリのダンジョン。
ライゼルト・ヴォルトレイン。
「そのうち奴には通知が行く。」
ルミナスが顔を上げる。
「通知?」
「学校選抜だ。
おそらく周囲から反対意見も出るが、黙らせる。」
ルミナスが少し驚いた顔をした。
「意外だった。
先輩がそこまでエルディアの肩を持つとは思ってなかった。」
「勘違いするな。
肩なんか持っちゃいねえ。
奴が俺に勝ったから認めるだけだ。
叩きのめされた覚えはないが、気が付いたら負けていた。
だから余計に腹が立つぜ。」
「……」
ライゼルトらしい理屈に、ルミナスは苦笑した。
「……荒れると思う。
貴族派もいる。
三年も反発する。
教師陣も。」
「知るか。」
ルミナスは肩を竦めた。
「俺たちは今のままじゃ勝てねえ。
勝てねえんだ。
『奴ら』には。
中央の連中は化け物だ。
ランキングなんて当てにならねえ。
才能も。
家柄も。
実績もだ。
だから。
俺たちに足りないものがいるんだ。
アイツがそれを埋められるとも思えねえがな。」
彼は吐き捨てるように言う。
「だが、今度は下もちゃんと見る。」
ルミナスも強く頷いた。
それがいいと思う。




