45話 次の大会
入学時 魔力価値ランキング
入学後 学年ランキング
年次が上がると、全校ランキングへと推移する。
そのトップ10が集まるアーカム魔術学園・中枢塔《円卓議場》。
丸いテーブルがあるので、みんな円卓と呼ぶ。
学校選抜。全国大会のメンバー候補。
モニターに映し出されているほとんどが、三年生で埋め尽くされている。
理由は単純。
技術、理論、魔力量、戦術適応。
積み重ねた年次の差は、多少の努力や才能で覆えす事が難しい。
いっぱい勉強して、一杯練習して強くなった為だ。
「納得ができねえな。
三年は分かる。完成度も高い。経験もある。そこそこは戦える。
なんでそこに『1年』の名前があるんだ?」
一部の天才と呼ばれる化け物は、年齢の壁を越える。
ライゼルト・ヴォルトレインもその例には漏れない。
──それであれば問題はなかった。
それであるならば。
そうではなかった。
──魔力ランキング150位。
──同時に学年ランキング150位。
──さらに平民
「なあ、いつからアーカムは仲良しこよしのヘタレ集団になったんだ?
なあルミナス。最強のAクラスであるてめえらは、負けたんだってな。
クソのEクラスに。
この円卓の面汚しが。」
「……やつらは心に剣を持つ。
侮辱するのは許さない。」
「ははは!!!
笑かせてくれる。
まるで弱者の論理だな。
ルミナス!!
アークライト家の天才が聞いて呆れるぜ。」
彼は、獣のように笑った。
「まーいい。
お前は『こっち側』だからな。
尊重はしてやるよ。
俺が確かめてやる。」
円卓はそれを“許可”した。
円卓会議の通達は、担任を通して迅速にエルディアに届けられた。
「は?模擬戦?」
──先生沸いてんの?
獣魔も、刻印魔術も、封じて、ルールに則って新しい戦い方を考えたら時代が追いついてないから
評価できませんとか、のたまう制度に価値なんてないから。
と、言いたくなる気持ちを、エルディアはグッと堪えた。
負けるのは別にいいが、成果を蔑ろにされるのは嫌だった。
努力しても努力しても、精霊には逃げられるし、冬を越えれば村の誰かが死ぬ。
理不尽に。
それを思い出させるから。
──それに、それを変えるためにここにきたのだ。
貴族の瑕疵を指摘するために魔術学園に来たのではない。
「──決闘扱いならいいよ。
その代わり私が買ったら、特許区と交渉する後ろ盾を紹介して。
学校ルールが私に追いついていないんだから、わたしが仕組み作るしかない。」
「それは……
紹介しても無理じゃないか?」
「……じゃ、いい。
いこ。カトレア。」
「お、おい。」
背後から教師の声が追いかける。
「ええ!?
いいんですの?
円卓会議からの話なら。特例処置でランキングにも影響大きそうですけど。」
「ルールって、また後から変わる?
また『それは点数にありません』っていう?」
「……」
歩きながら、エルディアは振り返らない。
「どーせさ。
ルールはがんじがらめで、ルールの穴ついて勝ったら、それはそれで無効試合なんでしょ。
魔術で飯食ってくつもりなんだから、いーよ。そーいうの。
ローカルルールの遵守でご飯は食べれないし。
だから、そーゆーのは評価が好きな人にやりなよ。
それじゃ、お疲れ様でーす。」
言いたい放題言ってエルディアは足を止めなかった。
先生は思った。
──うわ。普通に怒っている……
「──話を受けてくれたら、焼肉を奢ってくれるそうですわよ。
先生が。」
エルディアは止まった。
そして振り返るエルディアの顔は、さっきまでの“ぶちギレた制度批判者”の顔ではなく、年相応の現金な顔。
ただ、まじかよと、先生はカトレアを見た。
「え、ホント?」
「ね。先生?」
「お、おう。もちろんだ。」
カトレアが勝ち誇ったように笑う。
──先生。貸しですからね。
ちゃんと奢ってあげてくださいね。
交渉の世界で、焼肉が最強なのは世の常。
焼肉屋さん。
炭火は存在せず、代わりに圧縮された火精霊が“回転炉”として封印されている。
自然とその話になる。
──全国大会選抜のメンバーに、エルディアが候補として挙がっている。
「本当ですか?先生。
いや,無理あると思いますけど。
見てくださいよ、先生。
エルディアですよ?」
アスが指さした先には、タレにつける前に肉を焼きすぎ、“炭化寸前の何か”を生成しているエルディアがいた。
それをオズワルドに押し付けている。
「エルディアどの。
火精霊の火力がおかしいでござる……」
「オズワルド。どうぞ。」
「いやでござる。」
「というか、誰よそいつにトング持たせたの。
精霊が誤作動起こすに決まってますわ」
「……ちっくしょおおお!!!!!」
先生は財布を気にしていた。
どうせなので全員にEクラス全員奢ってもらった。
対抗戦の打ち上げも兼ねている。
「円卓会議でも、かなりもめたらしい。
直々に学年の上位陣が、エルディアと模擬戦することになったんだ。
候補としてふさわしいかどうか。
ルールは、なんでもありでな。」
「……はい?
いえ、確かに手っ取り早いとますけど、大ジョーブかなあ……」
「何がだ?」
「だってルールで縛らないと、多分えらいことになりますよ?
エルディアですよ?」
「さすがに大丈夫だろ。
円卓メンバーだ。
まだ1年であるエルディアは、胸を借りるつもりで自由にやってこいとのお達した。
──まあ逆に言えば、1年のEクラスが何をやろうとも無駄、ともとれるが。」
アスは肉を焼きながら思った。
嫌な予感しかしねえ……
そして。模擬戦当日。
魔術演習場。
地面には円形の巨大な魔法陣。
──ルールの確認をお願いします。
エルディアは、淡々とそう言った。
手元には配布された規約書。
その一文一文を、異様なほど丁寧に目で追っている。
病的。
明らかにサイコなまでにエルディアは念入りにルールを確認していた。
審判の先生が聞く。
「おい。お前まだ読むの?
大した事は書いてないはずだ。」
「まだ。」
「まだ?」
「まだ。」
エルディアはルールを読むのが大好きだった。
──ルールの穴を見つけるために。
対戦相手の男が、わずかに眉をひそめた。
ライゼルト・ヴォルトレイン。
一部の天才は、年齢の壁を越える。
その例外のひとつ。
「お前はどう思う?」
同行していたルミナス・アークライトは答えない。
ライゼルトはその様子を鼻で笑った。
「全国大会だぞ。貴族の遊びじゃねえんだ。
アーカムの看板を背負う。なのにその代表が1年の150位だあ?
笑わせんな。」
ルミナスは静かに言う。
「ルールが彼女に追い付いていない。
本来ならランキングは上位のはずだ。」
「勝負だからな。
負けたなら敗者だ。
俺も負けたらそう呼ばれる。
あの1年は負け続けたから敗者を意味するその番号にいるんだろうが。
それだけの話だ。」
ライゼルトは続けた。
「俺が気に入らないのそこじゃねえ。
その1年が勝った事を見た連中が、まだ言い訳してることだ。
平民だから。
卑怯だから。
運が良かったから。
くだらねえ。
勝ったなら勝った。
負けたなら負けた。
それを認められねえなら、最初から戦場に立つな。
学院もルールをこね繰り返して逃げてやがる。
気に入らねえ。」
ルミナスは少しだけ目を細めた。
「──だから確かめるのか。
エルディアを。」
「──そうだ。
本物なら認めて、偽物なら穴の底に叩き落とす。
それだけだ。それで終わりだ。」
エルディアはまだルールを読んでいた。
ぺら。
ぺら。
ぺら。
そして、模擬戦開始。
……
……
……
どさっ。
「あ。」
「あ。」
「あ。」
そして彼は、落とし穴に落ちた。




