37話 アシュレイン・エーテルヴァイス2
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
濁流は止まらない。
白く泡立つ水飛沫が戦場を覆い、地形そのものを飲み込み続けていた。
スケルトン達が流されながらも隊列を維持し、なぜか波乗りしている。
まるで波を読んでいるかのように!!
「……おお?」
「おおお?」
「スケルトンが順応してますわ!?」
「骨だから浮力が高いでござるな!。」
「そんな設定聞いておりません!!!
え。もしかして。」
カトレアは固まった。
「まって……これ、拮抗してるんですの!?」
偶然だった。
完全に偶然だった。
だが戦場では時々そういうことが起きる。
濁流の向こうで歓声が上がる。
「うおおおおおおお!!」
「やっちまええええ!!」
「囲めええええ!!」
歓声の正体はEクラスだった。
濁流と丸太で隊列が崩れたAクラスへ、スケルトンを引き連れた連れた生徒達が突撃している。
──丸太に乗って。
Eクラスの戦い方は元々バラバラ。
連携など不可能。
言い換えれば。最初から混乱している。
Eクラスは、底辺を彷徨った経験を活かして、丸太をサーフボード代わりにして突撃する。
アシュレインの索敵網。
Aクラスの連携。
強者同士のフォーメーション。
それらが一度完全に破壊されたそこへ。
アスがが声を張り上げていた。
「みんな聞いて!
今なら勝てる!向こうも状況を把握してない!
戦術が機能してなら、一番混乱してない奴が勝つから!」
「誰だそれ!?」
「決まってる!!」
その瞬間、Eクラス全員の脳裏に同じ人物が浮かんだ。
濁流を発生させた張本人。
丸太を流している犯人。
スケルトンを制御し、丸太をサーフボード変わりに順応させる狂人。
現在進行形で戦場を大災害に変えている人物。
「「「……」」」
誰も名前を言わなかった。
アスだけが満面の笑みで頷く。
「私たちにはエルディアがついてる!!!」
「「「一番混乱の元凶だからな!!!」」」
アスは丸太で濁流にのるEクラスを風魔術で補助する。
――Eクラスに隙はない。
その瞬間。
ドゴン。
さらに。
丸太追加。
――まさかの第4堰襲来。
「まだあるだと!?
貴様!!どれだけの木材を犠牲にしたんだ!?」
「備蓄は大事だからね。
農家だから!!」
「人の心がないのか!!
もっと自然を大事にしろ!!
農家とは、自然を傷つけていい免罪符にはならない!!」
アシュレインは、丸太を飛び移りながらも、周囲の状況を一目で確認する。
なんという混沌。
こんなの経験したことがない。
冷静さはすでに失われていた。
「くつ。
これが、元から統率が存在しないEクラス!!,混沌こそがその生息地だとでもいうのか!?」
「楽しいでしょ!!
名づけるなら、土木災害シミュレーター!!!」
「なぜ人体強化魔術を使用してる俺についてこれる!?
猿か貴様!?
離れろお!!!」
戦場は混沌としていた。
濁流と、丸太が駆け抜ける。
Aクラスが跳ぶ。
避ける。
あるいは、転ぶ。
流される。
もはや誰も優雅ではなかった。
全員びしょ濡れ。
サーフボードのスケルトンのキレの動きが光る。
アシュレインとエルディアは丸太を踏み台にしながら跳ぶ。
そしてそこにたどり着く。
流れの届かない、少し高台になっている場所。
余裕すら見せる態度で、エルディアはそこにいた。
「先に言っておく。
貴様が追いついたわけではない。
このあたりは水は来ない。
ここなら貴様を葬りさるのに丁度よかっただけだ。」
「まあ行き止まりだし。
流れがいきついた場所だね。
そろそろはじめよっか。」
「……もはや疑う余地もないな。
真に警戒すべきは、学年1位オズワルドではない。
121位エルディア。貴様だ。」
エルディアは杖を構えた。
ぼえー。
「馬鹿なふりをしても無駄だ。
すさまじい精度の《魔力位相同期網》。
そしてアンデッド制御。
地形の環境更新。
全て貴様がもたらしたことだ。」
「いや,馬鹿なふりは一度もしてないんだけど……
でもどうしてそう思ったの?
私にはそこまでスケルトンを召喚する魔力はないよ。
余裕があればもっと身体強化してるし……」
「なぜなら、オズワルドがそこに流されているからだ!!」
「デュフフ!!
拙者泳げないでござるよ!!」
「誰か!!
誰かオズワルドを救助して!!
本当に死んじゃう!!」
「オズワルドぉーー!!」
「単純な動きしかできないはずのアンデッドを、丸太でサーフボードさせているのは貴様だ。
なぜならオズワルドが制御術者なら、スケルトンは全てこの濁流で溺れているからだ!!!
以前、Aクラスのマグナレギウスが予備機の魔術デバイスを新調したことがあった……
それも貴様か!?」
エルディアは普通に面白がっていた。
──どうしよう。
この人普通に面白いんだけど。
地頭がいいのだろう。
「──だったらどうするのさ。」
「決まっている。
ここで貴様を屠り、Eクラスにとどめを指すだけだ。」
その光景を見ながら。
エルディアは実に満足そうに。杖に魔力を纏わせる。
──『この辺りかな』
「御託はもういい。そろそろ決めようよ。
学年15位、アシュレイン。
学園は、間違っていたんだよ。
なぜなら治水工事を教えないからこんな事にも気づかない。
普段なら気付けていたのにね。」
「ほざけ。
俺は全てが見えている。
俺の索敵魔術は無敵だ。」
アシュレインも杖を構えた瞬間だった。
――閃光。
白い線が戦場を走った。
学年ランキング148位。
カイゼリオン。
魔術回路が逆回転する異端体質。
彼は決勝戦開始時点から1人潜伏し、長距離狙撃型、魔力デバイス『紅蓮狙撃杖』を構える。
そのデバイスは火魔術を充電し、射程を一気延ばす高級品。
調達に必要なのは、やはり金。
だが発射される魔術は、あくまで術者の能力に依存する。
デバイスは、あくまでも射程上昇の為の補助装置。
発動にはかかる時間は同じ魔術を使用したとして、通常魔術の20倍以上。
威力上昇はない。
通常なら見向きもされない欠陥品。
『その一撃』のために、『彼の存在を隠す』ために、エルディアはこの大会全てを使って、派手に振る舞ってきた。
彼が十全に活躍すれば、Eクラスは他の競技でも戦えた。
だけど彼らは選んでいた。
クラス対抗戦で優勝するために、彼の個人のポイントを全て投げ捨てて、この瞬間に。
全てが、伏線であった。
全てが。
落とし穴も。
アンデッドも、
欠陥姫の覚醒も。
濁流も。
丸太も。
探知外から、致命の一撃を食らわせる為の、全てが下準備だった。
カイゼリオンは、躊躇いなく引き金を引く。
観測手であるスケルトンが合図。
──とっておきだ。
楽しんでくれ。
学年15位。
『ファイア』。
それは放たれた。
次の瞬間。
アシュレインの防御結界が砕け散る。




