34話 決勝
決勝。
額面通りの優勝決定戦と捉えているものは、もはやいなくなっていた。
Aクラスは学院が選んだ才能。
Eクラスは学院が切り捨てた落ちこぼれ。
学院が信じる価値
彼らが証明したい未来
生まれ持ったものだけで、人の可能性は決まるのか。
並び立つことすら許されないその存在が証明しようとする未来が、それを凌駕するのか。
実況席の声は、どこか呆然としていた。
「……信じられませんね。
誰が予想したでしょうか。
アーカム魔術学院、創立以来九十二年。
数え切れないほどの卒業生を送り出してきた魔術学院で、AクラスとEクラスが、ここで向かい合っていることを」
観客席は静まり返っていた。
誰もが理解していた。
「学院は長い年月をかけて証明してきました。
才能ある者により良い環境を与え、優れた者を優れた席へ導く。
それは合理的で、そしてその合理を証明するかのように実際に成果も出してきた。
ですがEクラスは、その前提そのものに喧嘩を売っている。」
視線の先。
伝統と才能のAクラス。
相対する混沌のEクラス。
「ですが、もしEクラスが勝てば、学院は九十二年をかけて積み上げてきた価値観に、一つの答えを出さなければならなくなる。」
『思想の戦い』
Aクラスの圧倒的な優勝で幕を閉じるはずのそれは、いつしか単なる学年クラス対抗戦ではなく、伝統と改革がぶつかり合う、全く別の何かへと変化していた。
──第1競技《五芒領域・探索戦》では学園史上初のEクラストップを成し遂げ
第5競技≪竜・撃退戦≫では学園史上最高である3000点を稼ぎ出し
さらに個人ランキングでは、これまた史上初となるEクラストップを排出し
そして最終競技、大結界クラス対抗トーナメントでは、決勝に名を連ねる、今なおここにいるすべての人間の興味と悲鳴を集めるダークホース集団
すでに92年の歳月を積み重ねてきた伝統は、十二分にコケにされていた。
「さあ、始めましょうか。」
開始前の静寂。
なぜか。
なぜかEクラス代表、エルディアが実況席に向かって歩き出した
実況が困惑する。
「えー……何をされるのでしょうか?
あ、マイクを貸して欲しいんですね?
どうぞ。」
そしてエルディアは実況用の拡声魔導具をひったくるように受け取った。
会場全体に声が響く。
『魔術に必要なのは、研鑽でも、努力でも、絆でもない。
そして伝統でももちろんない。
伝統もまた、金銭と労働力で作られる事をここに証明する。』
沈黙。
数千人規模の沈黙。
風の音が聞こえそうなほどの沈黙。
圧倒的によくわからん空気。
だが誰も理解できないからこそ、勝手に深読みを始める。
「なるほど……九十二年の権威を、経済基盤の上に成立した構造物と定義したのか……」
「伝統の脱神話化……!
恐ろしい思想家だ……Eクラスはそこまで考えて……!」
「まさかこの年齢で、そこまで到達しているとは……」
『以上です』
本人だけが満足そうに頷くとマイクを返却。
そしてそのまま自陣へ戻っていく。
そしてEクラスのメンバーに軽い感じで言った。
「じゃ、いこっか。」
「ねえ、エルディア。今のどういう意味なの?」
「我々Eクラスは、優勝して学食の無料券と優良設備使用権を獲得する。
貴様らはぶっ潰す!!!!
覚悟しろよ!!」
「……宣戦布告だったんだね……」
「えへへ。綺麗に決まったでしょ。」
わかりづれーよ!!!
「……金?」
「今の、どういう意味だ?」
「比喩か?」
「いや、意味不明すぎるだろ」
首を傾げるAクラス。
──いずれにしても、叩き潰すのみだ。
開始の鐘が、高らかに鳴り響く。
アーカム魔術学院九十二年の歴史に刻まれる決勝戦が、ついに幕を開けた。
学年ランキング7位。
ミレイユ・ラグナエルロード
《不落の聖癒》
光属性フィールドを展開。アンデッドが一瞬で封じられる。
学年ランキング15位。
アシュレイン・エーテルヴァイス
《無式の魔術師》
彼の索敵により一気に大地の落とし穴の位置が確かなものになる。
すさまじい手際。
すさまじい合理性。
これがAクラストップ。
エルディアは唖然とした。
え。
手札全部封じられたんだけど!!!!!




