32話 最終競技2
もはやEクラスのお家芸であった。
落とし穴。
竜撃退戦まで含めると、一体いくつ掘ったのだろうか。
競技に利用するエリアを中心に、監視の目をかいくぐり、アンデッド召喚による物量作戦で構築された、戦局を一手で覆す罠。
誰にも気付かれぬまま地形そのものを書き換える。
それはもはや魔術というより土木工事だった。
実際それに落ちた者達の混乱は、推してしかるべきであろう。
会場中が例のごとくブーイングの嵐だった。
観客席。
上級生達
「知ってた!!!!いや知ってたけどさぁ!!!!」
「ま、また落とし穴です!!
Eクラス選手、伝統芸能のように落とし穴を使用しております!!」
そして味方であるはずのEクラス全員もまた思っていた。
あまりに汚い。
あまりにも。
エルディアは、さらにあおっていた。
「地形を利用するのも実力でーす!
人類を支配するのは、魔術じゃない。
それはインフラ!!!
インフラ整備。それすなわち土木工事よ!!!!」
「「「くそが!!!」」」」
おいやめろ。
煽るな。
穴の底。
土煙の中で、Dクラスの生徒達の顔から血の気が引いていく。
──思い出していた。
第5種目――《竜・撃退戦》。
落とし穴によって拘束された竜は、アンデッドの大量召喚と、そして土木作業によって穴に葬り去られた。
嫌な予感がする。
非常に嫌な予感する。
「なあ、おい。やめろ……やめろおおおお!!!!」
エルディアは、ふわりと笑っていた。
「オズワルド。
ようやく準備完了。
決めちゃって。」
「任せるでござる。
デュフフ。」
『屍操術』
《魔力位相同期網》によって、クラス全員の魔力を同期させ、そして召喚される無数の死者なる者ども。
命令は拘束。
それは、いくら倒しても振りほどけない骨の群れ。
それはまさに、せまりくる死の運命そのもの。
穴の底から見上げれば。
空は遠く
光は遠い
骨がまとわりついてくる。
倒しても倒しても決して数が減ることはない。
そして穴の縁には微笑む少女が立っていた。
まるで慈愛に満ちた聖女のように。
その姿を見て。
Dクラスの誰かが呟く。
「なぜだ……。なぜここまでする……。
勝つためか……?
名誉のためなのか……?
あまりに、狂ってる……
こんなやり方で勝って嬉しいのか……!?
誰も認めないぞ……!!」
「ふっ……。
みんな勘違いしてるわ。
強者が弱者を支配するのは社会の基本原則。
人類はずっとそう考えてきた。
でも、真実はまるで違う。
見てみなさい。あなた達が今いる場所を!!」
そしてエルディアは、穴の底を指さした。
「つまり社会を支配するのは『権力』じゃない。
それは『穴』よ。
王様も。
貴族も。
英雄も。
落とし穴に落ちたら終わりでしょ?」
「身も蓋もねえ!!!!!」
「だめだこいつ!!論理が繋がっているようで全然繋がってねえぞ!!」
「だが穴の中から聞くと妙に説得力がある!?」
Dクラス全員が叫んだ。
「でも安心して。
私って、平等主義だから。
竜も埋めるし、人間も同じように埋めてあげるから。
穴は埋めないと。」
こわ。
ここでは終わらないのがエルディアの恐ろしい所だった。
やがて悪魔の指示がくだされる。
「カトレア!!決めるよ!!」
「ええ!?
まだやるんですの!?
もう勝負はついてますけど……!!
アンデッドの時点で十分じゃない……」
アンデッドは、落とし穴にハマったDクラスを拘束すると同時に、周囲の大地を掘り返し、Dクラスを物理的に埋めにかかっていた。
その様子は戦闘というより、もはや公共工事。
その悲鳴はオーケストラ。
《魔力位相同期網》の傍ら、エルディアは同時並行でカトレアに指示を繰り返す。
「何ひよってんのよカトレア!!
ここでDクラスの戦意を完全にへし折る!!
この先Eクラスに二度と逆らわないように、心をぐちゃぐちゃにへし折ってやる!!!!」
「勝負はついてます!!
もう十分でしょう!?
あなたさっきから、発想が魔王ですからね!!!!」
「魔王でもなんでもいい!!
勝つためなら、泥でも啜ってやる!!
言っとくけど、うちの村の冬の厳しさはこんなもんじゃないから!!
こんなの小雨だから!
これで負けたら、カトレアまたご飯おごりだからね!!!」
「あなたの村って一体どーなってるの!?
くっ!!わかりました!
もうどうなってもしりませんからね!!!」
『ウンディーネ』!!!
そして土木工事だけでなく、洪水も併発させた。
穴の底のDクラスは理解した。
水まで流し込む気だ。
「待てぇぇぇ!!!!」
「やめろおお!!!!」
「これ以上何をする気だ!!」
「もう骨やだあ!!」
「おかーさーん!!!」
悲鳴。
怒号。
土煙。
アンデッド。
そして押し寄せる水流。
穴の底は、同情すらしたくなる完全な混沌に包まれていた。
エルディアは、素早くその混沌ともいえる惨状を、ハンターのごとき鋭い目で見渡す。
エルディアの目的は最初から一つ。
勝利条件の達成以外ない。
完全に倫理が終わっていた。
そして。
「見つけたあ!!
結界石保持者『キーマン』!!
シェイド!!!
特訓の成果を見せるよ!!」
ぷるぷるぷるぷる
エルディアの杖が哭いた。
ぼえー
──影魔術による疑似転移を行う。
イビルゲート。
闇魔術だ。
今ならキーマンに対して、どんな魔術も直撃する!!
「アス!!決めて!!!
ダンジョン深層での特訓で、シェイドは擬似転移を会得した!
キーマンの死角に繋いだから!」
「いや、エルディア……やりすぎ……
泣いてるから。Dクラス!!」
「は!?
カトレアに引き続き、アスまで!?
平民を搾取してきた貴族が何いってんのよ!!
平民なんて、金と労働力を落とすだけの歯車だから!!
平等社会なんて、本の中にしかない夢物語だから!!!
競争社会って、鳴こうがわめこうが、勝者は敗者を搾取するだけだから!!!」
「そんなことないもん……
私の家、ちゃんとやってるもん……」
「程度の問題だから!!封建制度取ってる時点で変わんない!!
さあ!!Ⅾクラスが混乱しているうちにどうぞ!!」
「もう!!!
エルディアのバカあ!!!」
アスは風魔術を、シェイドの影空間に向けて放つ。
イビルゲートの出口は、Dクラスのキーマンの真上。
暴風が炸裂し、ぱきりと小さく決定的な音が響いて《結界核石》が砕けた。
そして戦場全域に勝敗を告げる鐘が鳴り響く。
『勝者――Eクラス。』
「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」
「……」
Eクラスが歓喜する中、会場中は静まり返っていた。
こいつら、人間じゃねえ……




