27話 魔導障害物競争
──次の競技が始まる。
Eクラスの探索戦優勝。
そして、その裏で千体もの《屍操術》を運用していたという事実の発覚。
だが、学年クラス対抗戦の競技はまだはじまったばかり。
一悶着はあったが、学園の喧騒が一段落し、ようやく、ある意味“通常の騒がしさ”を取り戻しつつあると言えた。
Aクラス。
学園ランキング三位。
アルト・ウィンドリィ。
淡い翠色の魔力粒子。
翻る制服。
さらりと揺れる黒髪。
「キャアアアアア!!」
「アルト様ぁぁぁ!!」
彼が現れた瞬間、黄色い悲鳴が飛んだ。
『来ました!
《風の貴公子》アルト・ウィンドリィ!!
魔道障害物レースにおいては本命中の本命!!』
《魔導障害物レース》は、速度こそが全て。
風属性の天才である彼は、この競技において“王者”と言っていい。
皆さんはご存知でしょうか!!
人類史とは求愛の歴史である!!
戦争も然り
経済も!
芸術も!!
つまり魔導障害物レースとは求愛の歴史である!!
なぜなら速く!!
美しく!!
そしてモテるから!!
それでは第二種目。
《魔導障害物レース》を開始します!!』
歓声。
悲鳴。
期待。
あらゆる感情が混ざった熱狂が、闘技場を揺らした。
その脇で、五芒星領域の出入り口にたつエルディアの姿があった。
魔術学院の監視の目を向けられたので、会釈で挨拶する。
競技領域は、巨大な半透明の結界によって隔てられ選手以外は立ち入り禁止。
逆に言えば、ここまでは領域の接近は許されている。
「ね、ねえエルディア。
事前に領域に干渉するなんてばれたらまずいんじゃなくて?」
「入ったらね。
ルールブックにも書いてある。
選手は競技開始前、疑似フィールドへの侵入、内部構造の調査、魔術的干渉を行ってはならない。
だけど主体はあくまで選手本人。
獣魔、召喚獣、使い魔については禁止事項が別枠なんだよ。
たとえば、今回の魔導障害物レースでは、事前待機と待機位置についてしか規定されてない。」
カトレアは急いでルールブックを確認する。
『召喚獣、使い魔、獣魔に関しては今回の競技における事前活動の制限が存在しない。』
──マジに書いてある……
「じゃ。やろうか。
シェイドおいで」
エルディアが呼びかけると、足元の影が音もなく広がった。
ぶるぶるぶる
シェイドの影領域だ。
膨大な魔力を漏らさないために、シェイドによる影領域を作り出し、そこに獣魔であるリッチを召喚する。
リッチは高位アンデッドの代表格。
死してなお魂を留め、自我と知性を維持した魔術師の成れの果て。
単純な戦闘能力だけでなく、膨大な魔力と魔術知識を持つことで知られる災害級の存在だ。
──このリッチは魔力タンクにする。
リッチなだけあって、Eクラス全員の魔力の総和を余裕で凌駕する魔力を持つ。
何よりもEクラスは競技の真っ最中。
無理はさせられない。
だからこそ、リッチに1000体のスケルトンを維持する魔力タンクをさせる。
ふぉっふぉっふぉっふぉっ
闇が降臨した。
「え……
エルディア……これ……
ええ……!?」
底が見えない深淵のような魔力。
――災厄クラス。
学院の優秀な生徒たちですら比較にならないだろう
本能が警鐘を鳴らす。
少なくとも、学生が従えていい存在ではない。
──だけど……この骸骨、妙に見覚えがあるよーな……
(まさかこれ、エルディアの家にあったでかい髑髏の案山子じゃない!?
玉座に座って、えらそーなやつ!!!)
よくカラスにつつかれてた奴!!!
エルディアの全身に、無数の魔術刻印が青白く浮かび上がった。
「《刻印全開放》」
それは幼き頃から、魔術を操るカトレアからして、一目で異常と理解できる光景だった。
「あ、あなた……その姿……!?」
「刻印魔術が得意だからね。こー見えて。
この状態なら1000体全てのスケルトンを手足のように扱える。
能力拡張してるから。
これを使い。
そして1000体のスケルトンを遠隔操作し──」
ごくり。
──領域内の土木工事を行う。
え……?
『さぁ!!各クラス代表、スタート位置へ――』
運営魔術師が青ざめた顔で駆け込んできた。
『し、審判長!!
Eクラスから提出された選手登録なんですが!!』
『出場選手。Eクラス エルディア
本人の代わりに浮遊型魔術杖が出ます。
( `・∀・´)ノヨロシク』
『…………』
実況が止まった。
数秒後。
『生徒ですらないぃぃぃぃぃ!!?。
第二種目魔導障害物レース終了。
歓声の他のクラス。
──エルディア失格。
駄目だった。
「さすがにダメだったね。
そりゃ本人が走らないとだめだよ。」
アスのぼやき。
そしてその隣には、カトレアの姿があった。
「ダメ元らしーですわ。
『規約読んだけど“魔術機動による到達”って書いてあって“生徒本人”とは書いてなかった。』ですって。
全く、周りを騒がせるだけ騒がせて本人はどこ吹く風。
相変らずのいい御身分です。」
さすがだなー。
アスは思う。
「その肝心のエルディアは?」
「作業中。
学園が、クラス対抗の前にわざわざ刻印魔術や獣魔を制限したわけがわかりました。
エルディアを自由にさせると、大会が成立しません。」
「そ、そんなに。」
「入学時の魔力ランキング150位なんて、どこの誰がつけましたの……
前にも言いましたけど、完全に詐欺ですからね……
あんなの魔王じゃないの……」
アスは、残る騒動の余韻を見渡す。
ちょうどアルトが爽やかにゴールを決めて微笑んでいた。
「キャアアアアア!!」
「アルト様あああ!!!」
悲鳴。
歓声。
拍手。
失神する女子も出ている。
エルディアからの指示。
──『個人競技は勝てない。適当に流しといて。』
クラス対抗の空気は、少しだけ落ち着いていた。
さっきまでの“崩壊した競技の空気”は、なんとか仮の棚に戻されつつある。
第二種幕
魔導障害物レース終了。
終わっての総合順位。
一位Aクラス。
二位Eクラス。




