25話 Eクラス躍進
数値が跳ね、数字がはじき出される。
続いて、内訳が展開されていた。
■Eクラス——総合順位1位
到達順位:0点
探索ポイント:910点
戦闘評価:30点
情報発見:240点
合計:1180点
先生のジト目。
圧倒的なジト目。
「なんですか?
先生♪」
似合わないエルディアのぶりっ子に担任は頭を抑える。
「何やったんだ。お前ら。」
「そもそも先生が言ったんですよね。
身の程を弁えろって。」
「大会が止まるぞ……騒ぎが聞こえるてるだろ……」
「みたいですねー
なら、もう一度やりましょーか。
──同じ結果になりそうですけど。
言っておきますけど、探索する場所とかギミックは全部覚えましたから、次はさらに点数取りますよ。私達。
それでもいいなら。」
妙な迫力があった。
だが、実際そうなるだろう。
『ズルだろこれ!』
その一言が引き金だった。
「そうだ!ズルだ!」
「Eクラスはイカサマをやってる!」
怒りは、すぐに“納得の形”を探し始める。
理解できない結果は、不正の形を借りるしかない。
監視係が必死に端末を操作する。
「一時中止しろ!」
「この競技は無効だ!」
「再審査を要求する!」
声は波のように広がり、収拾がつかなくなっていく。
ついには——
『クラス対抗戦、一時中止』
学校側の判断が下された。
そして休憩後。
闘技場中央。
会場の空気は先ほどよりも冷えているが、熱は消えていない。
そこに、エルディアが立つ。
周囲が一斉に視線を向ける。
エルディアはそれらの中心に立ったまま、周囲を見渡す。
別にエルディアとしては、このままでも良かった。
だが残念なことに皆さん理由を知りたいようだ。
なんか心無しか、会場が気持ち静かになってきている気がする。
「説明したという責任だけ果たす努力をしたいだけなので、別にみなさん聞かなくてもいいですよ。
一応説明はしますけど、別に話は聞かなくていいでーす。」
普通に最低で、普通に言ってることが終わっていた。
色々台無しにしている、本音がダダ漏れた呼びかけだった。
エルディアの意に反して。徐々にざわめきは小さくなっていく
やがて。
──え……
──何この連携……
──あんたら荒ぶってたじゃん……
責任感。
誠意。
やる気。
いずれも0。
呼びかけはマイナス方向に激しく全力だったのに、全部しかとしてマジで静かになりやがった。
エルディアは、少しだけ肩をすくめた。
「自己紹介は―」
エルディアは舞台袖の担任を見る。
しろってことらしい。
「Eクラス所属。
学園ランキング121位
──エルディア。
わたくしとしては、このまま対抗戦が中止されるのは本意ではありません。」
軽い口調。
周囲の生徒が眉をひそめる。
「中止が本意じゃない?」
「こっちは納得してないんだけど……」
そしてエルディアは、静かに周囲を見渡す。
「今回の結果をズルと認めて、みなさんに謝罪しろって言われました。」
──『ならいいか。』
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
会場の全員が“謝罪会見”の流れを期待した。
教師陣ですら、少しだけ安堵していた。
ようやくこの問題児が空気を読むのかと。
そして騒ぎはおさまり、例年通り、滞りなくクラス対抗は進むだろう。
Eクラスをつるし上げ D~Aクラスにこうなりたくないと思わさせるためのカンフル剤。
そのためのクラス対抗戦。
エルディアは全力で頭を下げた。
完璧な姿勢。
「この度は、Eクラスがあまりにも効率良く攻略しすぎた結果、みなさんの精神に多大なる損傷を与えてしまい、誠に申し訳ありませんでした!!!!!」
最低だった。
「煽ってんのか!?」
「してるでしょ絶対!」
「謝罪文の構文だけ借りて中身全部ケンカ売ってる!」
観客席が爆発する。
「あと、“ズル”とのご指摘も大変ありがたく思っています!!!
ズルみたいな効率である事を認めます!!!
ルールブックに則って効率を上げていたため、一切違反をすることはできませんでした!!
なんなら、たぶんルールブック読んだ量だけなら、多分学年トップを自負しています!!」
「認めた!?」
「認めてねえだろそれ!」
「まず第3章第12項。
“探索戦において、踏破・情報回収・戦闘行動は独立加点対象とする”」
暗唱だった。
「そして重要なのが第7章第9項。
“他参加者との戦闘音・魔力反応・環境変化を利用した誘導行為を禁止しない”」
静寂。
「戦場で本当に生き残るのは、“強いやつ”じゃなく、“帰って来るやつ”です。
だからルールは、ちゃんと“弱者の勝ち筋”を残してある。
フェアであることがルール書いてありました。」
Eクラスの生徒たちを見る。
「まさにノブレス・オブリージュ!!
そして、それを証明するための、クラス対抗戦です!!」
観客席の空気が変わる。
「……」
「……あいつ」
「ちゃんと考えて……」
感動。
理解。
納得。
学園中が、ほんの少しEクラスを見直しかけた。
そしてエルディアが満面の笑みで続けた。
「なのでわたしたちは、“合法的に勝てる穴”を全力で探しました!!!!」
全部終わった。
「台無しだよ!!!」
「なんで締めで急に犯罪者みたいな言い方するの!?」
「言葉選べ!!!」
「だって、Eクラスが今トップなんですよ。
折角ランキングをぶち上げるチャンスなのに、みすみすドブに捨てる事はないでしょ。
だって結果はもう出てますし。」
一拍。
僅かな間だけ、空気が止まる。
──何をいいたい?
「それでもクラス対抗戦に納得ができないという事でしたら、みなさん棄権ということになります。」
ざわっ、と空気が動く。
「ふざけるな!!」
ついに誰かが叫ぶ。
「納得できないから棄権ってなんだ!!」
「勝手にルール作るな!!」
怒号が再び広がる。
だがエルディアは動じない。
むしろエルディアは、きょとんと目を丸くしていた。
「え?」
そして。
ものすごく嫌な予感を漂わせながら、それを諳んじた。
「第2章第4項。
“参加者は、競技進行に対し異議申し立てを行う権利を有する”」
「そこは普通だな……」
「続きまして第2章第7項。
“異議申し立てに伴い競技続行を拒否した場合、当該参加者は自主棄権扱いとする”」
静寂。
「……は?」
「さらに補足。」
エルディアは追撃した。
「“棄権者が発生した場合、残留クラスを対象として順位点を再計算する”」
監視委員。
震える手でページを確認する。
「あっ……」
書いてあった。
本当に。
書いてあった。
「なお第2章第8項。
“棄権判断はクラス単位で適用される”」
「待て待て待て待て!!!」
観客席が爆発した。
「つまり!」
エルディアは妙に良い笑顔で結論を述べる。
「“納得できないので競技しませーん”を正式にやると、ルール上は自主棄権になります!」
「そんなバカな話があるかァ!!!」
「あります。
書いてあるので。」
「お前なんでそこだけそんな嬉しそうなんだよ!!」
「だって。
Eクラスからすると、“皆さんが帰るなら優勝では?”って話なので。」
「煽るなァ!!!」
教師席。
運営本部。
審判団。
全員が超高速でルールブックを確認していた。
そして。
誰一人として。
反論できなかった。
本当に書いてあった。
そもそもこの条文。
本来は“敗色濃厚になったクラスが暴れて大会を止めないため”の安全装置だった。
歴代92回。
こんな使い方をしたバカがいなかっただけであった。
「えぇ……」
誰かが漏らした声は。
あまりにも正直だった。
「じゃあ、説明終わります。
先生に言われたから説明しただけなんで。
別に大したことじゃありませんでしたね。
誰だってわかることでした。
大体、なんでこんな事を生徒に任すんですか。
大会規定の仕様説明は、そもそも先生達の業務ですよね。
職務怠慢では?
では、失礼します。」
言いたい放題だった。
「ふざけんなーーー!!!」
怒号が会場に響くほど、空気が一気に爆ぜる。
「静粛に!!」
「静粛に!!」
「到達0点で勝って納得できるか!!」
「ルールが壊れてるんだよ!!」
感情がぶつかり合い、議論ではなく“騒乱”に近くなっていく。
《休憩時間:30分》
魔導放送がそう告げると、ざわめきは完全には消えないまま、散るように強制的に分断された。
会場に残るのは、怒りの余韻と、説明を待つ重たい空気。




