23話 クラス対抗戦開始
──魔術名門校 《アーカム魔術学院》。
中央大闘技場 《オーバー・クレイドル》。
空は晴れている
頭上には巨大な魔法陣がゆっくり回転していた。
金。
白銀。
蒼光。
幾何学模様が空を滑るたび、光の粒子が花びらのように舞い落ち、観客席から歓声があがった。
天候制御。
結界維持。
観客席への温度調整。
中継用記録魔術。
安全術式。
実況補助。
数百に及ぶ並列演算によって成立する、国家級儀式魔術。
まだ幼い頃、都市が祭りの度に遠く、村から見える空に描かれた魔法陣。
昔はただ「綺麗」としか思えなかったが、今はもう、その演算量に検討がつく。
エルディアはそれを見上げる。
──胸にある、学食割引への熱。
そのためなら、どんな事でも……
──悪魔にでも魂を売り渡してやる……!!
「……きれいだね、エルディア。
花火みたい。吸い込まれそう。
隣でアスが、ぼそっと言う。
「私の顔になんかついてる?
エルディアは、なんでそんなに私の顔を見て唖然としてるの!?」
「全く。これだから育ちの良い貴族様は……」
「ねえ!?なんでバカにされてるのかな!?」
爆発音のようなファンファーレが鳴った。
ドォォォン!!
空中に文字が浮かんでいた。
《第九十二回・魔術学園クラス対抗戦 開幕》
観客席は、すでに満員だった。
貴族、魔術協会、商会関係者、そして暇を持て余した上級生たち。
「今年のAクラスは歴代最強らしいぞ」
「ねぇ、見て。Eクラス……」
「いた……“欠陥姫”。魔力不全のくせに、まだ退学してなかったの?」
その下で、魔術学校の各クラスが整列していた。
最初から勝者の顔をしている者達
緊張と計算。あるいは諦めと現実主義。
そしてある者達は
「……帰りたいでござる……」
「でも単位がなー……」
「いや、ここまで来たら逆に楽しもうぜ!」
地獄のポジティブさを隠そうともしない者達。
鐘が鳴る。
カン……カン……カン……
静寂。
そして、司会魔術が響く。
学園長の声が落ちてくる。
「諸君。今年も楽しんでくれたまえ。
死なない程度には、自由にやってよい。
これより──第九十二回、魔術学園クラス対抗戦 を開始する!!」
そして──開幕のゴングが、鳴った。
第一種目。
──《五芒領域・探索戦》
正五角形に展開されたフィールドは「未開拓の疑似オープンワールド」として生成され、五角形の中心地点へ到達することが目標となる。
五角形の各頂点に、A〜Eクラスがそれぞれ配置される。
そこから中央闘技場を目指す。
評価は複合スコア
・到達順位(最重要)
・探索ポイント(隠しエリア・遺跡・魔力反応)
・戦闘評価(魔獣討伐・対人戦)
・情報発見(ギミック解明・ルート開拓)
フィールド構造。
──五角形の各辺はそれぞれ性質が違う。
高難度戦闘エリア(魔獣密度高)
迷宮型探索(視界干渉・分岐多数)
資源地帯(バフ・回復ポイント多)
罠エリア(機動力重視)
不確定領域(毎回地形変化)
つまり中央に近づくほど、混戦していく。
その瞬間に空間がひび割れ、生徒達の前に結界フィールドへの転移陣が展開された。
その先に広がる森、湖、遺跡、塔、砂漠──
あり得ない組み合わせの地形が一つの大地に共存する、競技の為に設定された戦場。
──第一競技は《五芒領域・探索戦》
これは集団競技。
以下個人競技が続き、やがてクラス別対抗戦は、最終競技である《大結界クラス対抗戦》に続いていく。
Aクラス。
学園ランキング3位。
アルト・ウィンドリィ。
競技開始と同時に、彼の声は戦場へ溶けるように広がった。
まるでの風のように。
「さて、まずは拠点の確保からだ。
予定通りクラス30人を、情報収集班・防衛班・探索班に分割しようか。
全員迅速に配置につこう。」
アシュレイン・エーテルヴァイス
学年ランキング15位。
《無式の魔術師》
と呼ばれる彼の索敵。
オルディウス・ヴァン=ヘキサグラード
学年ランキング10位。
《黄昏の城塞術師》
Aクラスにおける、比類なき構築速度を持つ防衛担当
そして作戦を立案、行動を開始する。
この間3分。
──引き続き、五角形領域のAルート
Aクラス面々。
乾いた大地を、まるで一本の槍のように砂塵を裂きながら、Aクラスが進んでいた。
「次、ガーディアン三体出現!」
「予定通りだ。左右から挟め!」
指示は的確で、無駄がない。
前衛が叫んだ。
「コアポイント、視認!」
あまりに速い。
Aクラスがオープンフィールドエリアをクリア。
闘技場内コアポイントへと到達し「ゴール」する
最短ルート
最適解
被害最小
指揮も完璧
いわゆる“理想的クリア”。
最適解を連打し続けた、模範解答そのもの。
その後、空気が弾けるように動く。
「早い!!」
「あまりに早い!!」
誰かの声が、興奮と驚愕で裏返った。
「ガーディアンも全て撃破!」
「これは歴代でも相当優秀だぞ!!!」
記録係の魔導端末が赤く点滅する。
──間違いなく過去最高ペース。
──歴代スコアを大幅に更新。
Aクラスの誰もが、確信していた。
(勝った)
観客の一人が立ち上がり、拍手。
それが連鎖し、大結界闘技場そのものが揺れるほどの歓声へ変わっていく。
「うおおおおおおお!!!」
「Aクラス!!!」
「なんだ今の連携!!」
「化け物かよ!!」
歓声。
拍手。
熱狂。
Aクラスの面々は、ようやく小さく笑った。
Aクラス:最高評価クリア
のちに彼らは語る。
それは、足元が崩れ落ちるような、そんな感覚だったという。
それまで続いていた栄光への梯子が外されたような。
彼らはそれを見上げ、空気が凍っていた。
「……トップ、Eクラス?」




