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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔術学校学生

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22/76

21話 ルールを改変するー2

学院魔導工学棟《第七演算室》。


高窓から差し込む夕陽が、幾重にも積み上がった術式書類を赤く染めていた。

ここは学院でも特殊な場所だ。


貴族たちが利権を握り、上級生が派閥を築き、卒業後の魔導企業や宮廷魔術院が多く癒着している。

生活指導の教師ですら近づきたがらない“裏”。


生徒は絶対に踏み込んではならない場所。


「特許申請、お願いしまーす。」


その空気を壊したのは、Eクラス所属。

学園ランキング121位


──エルディア。




受付席の向こう側。


銀縁眼鏡。

整えられた黒髪。

腕には風紀委員章。


ルールを愛する風紀委員の男子生徒は、顔も上げずに書類をめくる。


同期システムには特許が必要であり、エルディアはそれを申請した。


「所属を確認する。推薦状は?」

「ないです。」


「貴族家からの後援は?」

「ありませーん。」


「共同研究者は?」

「いませーん。」


「…………」


ようやく彼は顔を上げた。

そして学生証を見て、完全に理解した顔になる。


──Eクラス。

学院ヒエラルキー最底辺。


貴族社会では、才能よりも“血”が重い。

つまり実績よりも“家”が重い。


この《第七演算室》では特に顕著だ。

「誰に支援されているか」は、「どんな魔術を使えるか」よりも遥かに重要となる。


だから彼は、少し笑った。

続く言葉には、揶揄が混じっていた。


「面白い学生がいたものだ。

確かにその通りだ。

魔力位相同期網マギア・フェイズ・ネットワーク》。

共鳴統合術式なんて呼ばれているな。

同期魔術など、Eクラスには分不相応だろうに。

その制御は困難を極める。

貴族派閥ですら扱いきれていない。」


「相応、不相応は問題ない。

Eクラスかどうかも。

特許化の許可が降りるかどうかは、申請するか、しないかでは?

それに認識の齟齬があると思うけど。

見栄えが悪いから同期魔術は、貴族社会では浸透していない。」


その返答に、風紀委員の一人が、露骨に眉をひそめた。


平民は、もっと怯えるもの。

もっと媚びるもの。

もっと“お願いする立場”でいるものだ。


──なのにこの少女は『最初から対等に会話している。』

気に入らない。


「制度を軽く見るな。」


風紀委員の男子生徒は淡々と言った。


「魔術特許とは利権だ。

術式は財産。

犯罪に活用されたり、術式自体が危険なものも多いからだ。

無断使用そのものが違法になるものもある。

だから管理される。

だから貴族が押さえる。

だから金が必要になるんだ。」


彼は書類を軽く指で弾く。


「君の活用しようとしている魔術は、まさに特許制だ。

使用には正式な許可と対価が必要になる。

つまり使用するには金がいる。

到底平民には払えないだろうけどね。」


「いくら?」


「一年間の利用で、銀貨三十枚《約11万円》。

払えなければ没収せざるを得ないし、許可もでない。

なんなら違反すれば罰則に触れる事もある。」


「同期システムだから一人では活用できないと思うんだけど。」


「当然人数分の料金が必要になるね。」


「……そんな。」


「払えなければ、使用許可は絶対に出さない。

学校に掛け合っても無駄だよ。

ビタ一文まけられない。

制度として決まっている。」


空気が静まり返る。


──これは追い返しだ。

周囲の風紀委員たちも理解していた。


貴族価格に値段を吊り上げたのである。

到底、後ろ盾のない学生一人が払える額ではない。



「くっ……」


「帰るといい。」


どさ。

重い音がして風紀委員の眉が動く。


「……何かな?この革袋は……」


「何って、お金だけど。」


「いや…………ねえ、帰る流れだったよね。君。」


彼は乾いた笑みを浮かべる。


「帰らないわよ。

なんで契約してないのに帰るの?そのためにきたのに。

それじゃ契約成立で。

30人分よろしく。」


「はい?」


「あなたが言ったんだからね。

人数分払えばいいんでしょ?

んじゃよろしく。」


沈黙。


風紀委員はゆっくり革袋を開く。

金貨ぎっしり。


室内の空気が変わった。

風紀委員の一人が息を呑む。


「おい……

まさか本物か?」

「……全部、現金?」

「鑑定魔術をかけろ。」


エルディアは、全て事が終わりましたみたいな顔で、彼らを見ていた。



──本当は、さらに釣り上げる気だったんだろうな。

貴族用の値段設定だったけどまー、平民だと思って、財布の想定を見誤ったね。

「んじゃまた。」

エルディアは、特許代を一括で払って去った。


キャッシュで。

唖然とする風紀委員がその場に残されたという。


エルディアの手元にあるのは30人分の証明契約書。




(とりあえず、ここまでが限界だろーなー。)


資金はほぼ使い切った。


制度も、特許も、同期網の基盤も整えた。

ここから先は、もう金では動かせない領域になるだろう。


あとは地道に行くしかない。



すなわち、シェイドのレベル上げだ。



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