20話 ルールを改変するただ一つの賢い方法
マグナレギウス。
通称、マグ。
志望は魔術調律師。
Aクラスの補助担当に所属する生徒だ。
戦闘科と補助科。
花形と裏方。
補助科は映らない。
誰も見ないし、失敗した時だけ怒鳴られる。
結界維持演習。
戦闘科は前線維持で手一杯
補助科の生徒達が手を血だらけにしながら術式を繋ぎ直し、結界は最後まで落ちずに戦闘科は英雄になった。
だが知っているものは知っている。
『その日、一番戦ってたのは補助科だ。』
カフェ。
エルディアはアルトの手を借りて『彼』を呼んだ。
「マグさん!!わたくし、ずっとお話したかった。
なぜなら、前線が輝けるのは後方があるから!!
英雄が戦えるのは補助がいるから!!
舞台の主役を照らす光は、裏方が灯しているから!!
貴族は分かってないから!!」
「……そんな大したもんじゃないよ」
エルディアの全肯定。そして全力共感の態度にマグナレギウスはわずかに視線を逸らす。
──明らかに褒められ慣れていない反応。
エルディアの獣の嗅覚が反応し、瞬時に目を細める。
これはいける!!!
カフェの脇。
カトレアとアス。
「ね、ねえアス
あれ、なんですの?」
「さ、さあ?」
「あんな媚びるタイプじゃなかったわよね?
エルディアって……」
2人は思っていた。
キャバクラでよく見るやつ!!!
打算しかないやつ!!!!
やがて。
「……今日はありがとう。
打算があるんだろう?
だけど君の言葉は本当に嬉しかった。
だから、君の思惑に乗ることにするよ。」
エルディアは思った。
ばれてーら。
「補助科こそ真の支配階級
インフラ。
物流。
設備管理。
社会を支えているのは、目立たない仕事なんで。見えてるのは、氷山の一角なんで。
誰がなんと言おうと。
たとえ打算まみれだろーと」
「もうちょっと隠そうね。」
だけど補助科の人間なら、その言葉は一度は誰かに言って欲しい言葉そのものだった。
だからそれが打算まみれだったとしても、ほんの少しだけ、マグの胸に刺さった。
彼女はそれを手に入れた。
エルディアは、マグナレギウスがカフェから去る姿を見て思う。
──おだてれば、猿も木から落ちるってね。
危なかった……
慣れないことはするもんじゃないや。
予備ではあるが、エルディアは“そのサンプル”をうまくゲットした。
浮遊する小型魔導球。
黒銀色の外殻。
そして幾重もの魔術環。
それらが回転し、中心の魔結晶が静かに脈動している。
最新式浮遊型魔術杖。
《フロート・デバイス》。
まだ一部の上位貴族と、研究機関しか扱えない超高級機。
「見て。
これが魔術デバイス。
Aクラスの補助科をたらし込んでゲットした。」
「よく手に入ったね。
これ。Aクラスの奴でしょ?
でもエルディア、たらしこめてなかったから。」
「そーよ。
普通に見透かされてたじゃない。」
「……ま、まあ完全か見通しが甘かったのは認めるよ。
だけど成功する見込みは高かった。
なぜなら金額を提示したから。
大体、金貨十枚《約330万円》。」
「へー……?」
「……」
「Aクラスの調律師も平民だからね。
直接的な反抗は貴族に対しては無理でも、物は横流ししてくれるってわけ。
金に目がくらんで。
相場の2倍だし。」
「……」
「ふふん。」
「……え?」
どちゃくそ腹黒い……
貴族も真っ青なやり方だ。
「アルトの護衛のカミラさんに聞いたんだけど、このデバイスって、他のデバイスを制御する同期制御ができるっぽいのよ。
貴族の間では、使えないと切り捨てられてるシステムっぽいけどね。」
アスは頷いた。
「それはたまに聞く話だね。
同期制御は派手じゃないから。
個人の武功に見えない
評価されにくい。
だから意味がない。
確かに貴族は嫌いそうだよね……わかるかも……」
「手に入れたこれを親機として、他のデバイスを調整する。
学年対抗までに。
Eクラス全員のデバイス30個分。」
「え……
無理じゃない……?
作業量が……」
「大ジョーブ!
ほら。見て。」
エルディアはにやりと笑い、
店の奥へ視線を向けた。
「まかせろ!!」
「肉!!」
「ミノタウロス肉追加ァ!!」
クラスメイト達だ。
目に肉と書いてある。
ミノタウロスの肉のおいしさに脳を焼かれた、哀れなEクラスの子羊たちだ。
「夜通し調整!?」
「肉出るなら余裕で徹夜だな!!」
──ふっ。
この様子なら、気が遠くなるような調整作業も安心して夜通しやってくれるだろう。
「やっぱり、みんなで悪巧みするために食べる飯って最高じゃない。」
エルディアは笑った。
何の悪びれもなく。
──アスは思った。
──なんか違う。
何かが決定的に何かが違うと思う!!
すごく青春っぽくない!!
それ、全然青春っぽくないから!!!
「エルディアってさ!?
友情とかじゃなくて最適化の達成感で笑ってるよね!?!?
その楽しいって、絶対に普通とズレてるから!!」
「ははっ」
「聞いて!!」
予算はあるが、金が足りないことが発覚した。
デバイス整備費。
工具購入費。
媒体石購入費。
これらをクリアするための資金だ。
アスの実家は、宝石の取り扱いがあった。
魔術社会において、宝石は装飾品ではなく資源。
魔力結晶や属性媒体となるためだ
店にそのまま出せない原石や規格外の石を、加工し、カフェの一角に販売するために並べていく事になった。
「魔術実技の練習用に欲しかったんだよな。」
「属性実験にちょうどいい。」
「安い。」
売れる。
普通に売れていく。
店の脇でカトレアが寝ていた。
商品は、カトレア監修。
机の上には、山のようなデザイン案と素材リスト。
誰も見向きもしなかった石達を、アクセサリーとして生まれ変わらせる
その作業は、控え目に言って徹夜だった。
その売れていくアクセサリーを見て、カトレアは、小さく言った。
ほら、みなさいよ。
と。
同じ物はない。
だって使えない石ばかりだから。
ひび。
濁り。
色ムラ。
全部違う。
低評価。
期待されない。
でも。
ほら。悪くないじゃないの
魔術社会は合理的。
使えない石は価値がない。
それでも彼女達は嫌だった。
だけど思っていた。
言い出しっぺはエルディアはどこよ!!
なんで私らに丸投げなのよ!!!!
そこにエルディアの姿はない。




