19話 カミラ
森の木漏れ日の中に建てられた、ウィンドリィ家経営の森のおしゃれカフェ。
「森で一息つける場所」として評判になり、最近は貴族から冒険者まで幅広い客が訪れている。
今、少しずつ“ホットスポット”になり始めていた。
カップを置く音ともに森の音。
風で揺れる葉。
遠くの鳥の声。
「カミラさん!
俺、焼肉定食!!」
「俺も!!」
「はーい。」
カミラは淡々と注文をメモし、奥へと下がる。
カミラは王都で噂される程の魔術護衛。
冷徹。冷静。危険人物とまで称される。
夕方になると、カミラはその席へ紅茶を置いていく。
まるで、誰かを待つみたいに。
つまり、仕事ができまくるが故に、カミラは学生達の溜まり場になったそのカフェを、ワンオペしていた。
魔力制御、
動線設計、
素材供給、
客層管理
それらを、並列魔術。並列情報処理。身体機能強化などの魔術スキルを用いて捌く。
風魔術よる、
食器・調理器具の即時浄化
温度・湿度設定
なども手抜かりがない。
料理もこなす。
誰に向けたとも分からない思考。
焼肉か。
たくさん食えよ。
若人よ。
慣れた手つきでオリーブオイルを敷いたフライパンを持つ手に力が入った。
何か違うなと思いながら
──休憩時間。
カミラは、客として来ていたエルディアに報告書を提出した。
「エルディアちゃん。
これ、今週の売り上げね。
まとめといたから
後これアルト様から。
直近の魔術学校の生徒会で決まったそうよ。
目を通しといた方がいいって。」
「あ、カミラさんチーす。
ありがとうございまーす
相変らず頭のおかしい魔術運用ですね!
でもいいのに。お金なんて。」
「魔術運用がおかしいのは、あなたでしょ。
何言ってんの……
あーしんど。
まーお金については決まりだから、お駄賃だと思って受け取っときなさいよ。」
そして声が割り込んでくる。普通の店員なら困るような無茶振り。
「カミラさーん。俺お子様ランチ定食!
なんかメニュー増えてんね!!」
──は?お子様ランチ定食!?
「そんなの無理だから!?!?」
「だってカミラさん!
メニューに!!」
「うわっ!?ホントだ!
アルト様ですね!!!また勝手にメニュー変えた!!」
厨房に消えるカミラを見送ると、エルディアは報告書に目を落とした。
手元には紙。
送金明細。
その額、金貨二十枚《約六百六十万円》。
「…………」
エルディアは無言だった。
無言のままもう一度見る。
「え……?」
金が入ってきていた。
脳は理解していたが、感情が理解を拒否していた。
金だ。
──マジに金が入ってきていた。
ウィンドリィ家 → エルディア名義の正式送金。印鑑もある。
明細はやけに丁寧で、逆に現実味がある。
金額は金貨二十枚《約660万円》だ。
桁が明らかにおかしい。
到底、農家の娘が手にしていい額ではない。
──え?何これ……
(は……?)
だが事実なのだろう。
夢にまで見た不労所得である。
軽くアルトから話は聞いていた。
リリがカフェに支払ったアーティファクトや行動による利益の10%がエルディアへ。
またウィンドリィ家が運営するカフェの利益の一部が、エルディアへ流れる仕組みになっている。
結論として、エルディアに対して金貨20枚が振り込まれた。
──さらにアルトからの手紙。
封を開けると、短い文だけがまず記されていた。
『決闘ルールが増えた。
たぶん、お前のせいだと思う。
強く生きろ。』
決闘におけるルール変更。
事前に取り決めは存在するが、今回より変更可能範囲を拡大するものとする。
一つ。
獣魔禁止の有無。
一つ。
杖による直接攻撃の禁止の有無。
一つ。
刻印魔術数の制限の有無。
先日行われたエルディアとカトレアの決闘。
そこでエルディアは、手札を見せてしまった。
エルディアはルールそのものをぶち壊す可能性があり、それを危惧して学園側は早急にルールを、追加。
すでに学園で周知する準備を終えていた。
よって、エルディアは森の中で試行錯誤していた。
手札は全て封じられた。
「真面目に魔術しろってこと?
いや、私、刻印ないど魔術使えないんだけど……」
術式構築能力。
魔力制御。
演算。
普通の魔術師は、それらを訓練で積み上げる。
だがエルディアの本質は“刻印魔術による外部補助”。
つまり、脳の代わりに刻印が強制的に術式を刻む、究極的に命と魂と身を削るタイプのコスト度外視でリソース使い切りの魔術師。
──回路を絞れば魔力流速が上がるから、術式励起速度が跳ねあがって、魔力が低出力でも高圧化できるけど……
その代わり。
超不安定。
暴発。
術式焼損。
身体負荷。
「いっっっっっっっっっった!!!」
可能性だけはあった。
可能性だけは。
使用者が死ぬという可能性が、実現への可能性をそっくり潰している可能性だけどな!!!!
カフェの店員の恰好でカミラは、アルトに話しかける。
アルトはエルディアをただ見ていた。それがどれだけ危険な実験でも。
エルディアは昔からそうだった。
危険な崖。
危険な遊び。
危険な発想。
エルディアは必ず試す。
いつも数え切れない失敗を、諦めの悪さで乗り越えてきた。
そして彼女は、なんでもないような顔をしていつもと同じように笑うんだ。
「アルト様。
今回は無理だと思いますよ。
流石に。
私もアーカム出身です。
あそこは小手先が通じるような甘い場所じゃない。」
「普通はな。」
「アルト様は、エルディアちゃんを買ってらっしゃるんですね。」
「まーな。
イカレてるだろあいつ。」
「え、ええまあ。
昔から見てますし。」
「あいつさ、昔は基本的な生活魔術すら使えなかったんだ。
だけど、少しでもみんなの生活が楽になるからって、刻印魔術を体に刻んだ。
考えられるか?
物心ついたようなガキが、自分で自分に刻印を刻むんだぞ!?何遍もだぞ!?
イカれてるよ。」
「うわ。
……えぐ」
「な。」
アルトのエルディアを見つめる目には羨望があった。
もしかしたら見ているものが違うかもしれないけど、だからといって離れる理由にはならなかった。
「アルト様も物好きですよね。」
「俺には無理だからな。
そういや、やたらお前止めたよな。あいつとかかわるの。」
「そりゃ止めますよ、
ウインドリィ家の嫡男ですよ?」
「刻印魔術刻むしな」
「もう二度やめてください。
ごまかすのに、死ぬほど苦労したので。」
そしてエルディアはそれを言った。
もう答えを見ているような目で。
それはすでに経験した事実みたいな重さがあった。
「精霊魔術を最大限に活かす方法がわかった。
それは金。
やはり金以外ない。」
「は、はあ?」
なんで?
なんでそんなことに?
「やはり世の中金だ!!
Aクラスのキーマンを買収する!!!!
金で!!
それがクラス対抗の必勝法!!」
さすがのアルトも頭を抑えた。
どうしてそーなった。
カミラが耳打ちしてくる。
「アルト様
エルディアちゃんのことを、聖女か何がみたいに言ってましたよね。」
「違ってたな!!!」
俺も予想外だよ!、
バーロー!!!




