1話 精霊契約失敗
お金は最高だ。
お金があればなんでもできる。
愛も地位も友情も、お金があれば買える。
村も貧しく無くなる。
冬の食料不足
薪不足
薬代不足──etc
よって彼女は、精霊魔術師を目指し、勉強を始めた。
彼女の名はエルディア。
どこにでもいる村の少女A。
――春。
雪解け水が村の石畳を濡らし、長い冬の終わりを告げる頃。
エルディアは今日も、壊れかけた石段を登っていた。
「……寒。」
吐いた息は白い。
指先も赤い。
靴は安物で、ちょっと水が染みる。
彼女は、その儀式場へ向かって歩く。
村の誰しもがそうしてきた。
村の誰しもが。
皆が通ってきたように崩れた石段を登り、風の中で、村のみんなから教わった歌を彼女も口ずさむ。
毎年、村のみんなで掃除を行い、儀式場と一緒に手入れをしてきた。その道を。
落ち葉を払い、
苔を削り、
崩れた石を直す。
エルディアも毎年掃除した、その道を。
──ファーストターン。
精霊契約。
光は確かに降りていた。
どこか冷たい、均一な光。
精霊側からの、観測。
静寂が生まれる。
──私のチャートは完璧。
《祈りの言葉》
『さあ、精霊よ。
私の前に跪いて働け。
これで開かれる国家資格への道。
夢にまで見た高給取り。
都市部では超人気職。
上位資格持ちは貴族からスカウトされ、王都勤務なら年収は家が建つレベル。
その栄光の為に
わたしこそが勝ち組となるために
──さあ、跪きなさい。』
そして彼女は、精霊との契約に盛大に失敗した。
精霊たちが散っていく。
精霊とは“概念生命”。
『深淵がいるぞォォォ!!』
『いやあああああ!!」
『目を合わせるな!!働かされるぞ!!』
『この資本主義の化け物が!!!』
『俗世!!
俗世!!
俗世ェェェ!!』
え──?
そして儀式場は爆発した。
村長
近所のおじさん。おばさん。
村の子供達も、全員が沈黙していた。
儀式場の中央には、巨大なクレーターが出来ている。
春の風が吹く。
“災害現場”の中央で、エルディアは首を傾げた。
──あれ?おかしいな。
精霊ごとの個体差に関する運用方法は十分に策定したはずなのに。
接続形式が違うのかなー
でも、精霊側の自由意思に依存してる時点で、システムとして脆弱だし……
村人の一人が震える声で言う。
「エルディア……
お、お前……精霊に何を願った……?」
「何って……
普通に、“安定雇用”と“長期契約”と“福利厚生”を……」
その場にいた最後の精霊が、泣きながら逃げるように消えた。
この日の為に、エルディアは必死に努力していた。
精霊学。
契約術式。
レベル上げ。
熟練度上げ。
──etc
精霊が欲しい。
理由は簡単だ。
『金になるから。』
稼げば冬に飢えない。
井戸だって
道だって
薬も
だから欲しかった。
『ただそれだけだ。』
契約したいほど精霊が好きなわけじゃない。
自然が好きなわけでも。
世界を愛しているわけでもない。
むしろ寒いし。
雪は邪魔だし。
冬は嫌いだ。
自然は思い通りにならない。
それでも。
精霊がいれば村は豊かになる。
村の儀式場が爆発四散してから三日後。
彼女は村の倉庫に引きこもった。
村人達は言う。
「努力家だねぇ……」
「あの子は頑張ってる」
「きっと立派な精霊術師になる。ちょっと失敗しちゃったけどねえ。」
──違う。
“愛”とか“ロマン”とか“詩”とか、フワフワしすぎ。
全部、理論。
全部、設計。
全部、演算。
必要なのは、再現性。
壁一面に数式。
床に魔力回路。
紙束。
古代文字。
術式図。
その中でエルディアは笑っていた。
『一番性能が良い媒体は人体。』
──刻印魔術。
これは古代文明由来の魔術体系。
──泣くほど痛いけど
『コストゼロ』
投資効率インフィニティの直観にしたがい、エルディアは狂気じみた積み上げをはじめる。
鏡の前で立つエルディア。
手には刻印針。
床には大量の設計図。
ある日、幼馴染のアルトがエルディアに聞いた。
「お前さあ、なんでそんな生活してんの?」
「何が?」
「いや、何がって、そんな傷だらけでよ。」
「え……?刻印のこと?それともダンジョンアタックのこと?
いや、好きでやってるだけだけど。」
「そ、そうなんだ。」
事実だった。
別にエルディアはそこまで悩んでるというわけではない。
子供ながらの、浅はかな思考で考えただけだ。
暴力的とも言える魔力で精霊の精神状態を麻痺させ、その隙に強引に契約を取ってやると。
ちょっと指先が焼けても気にしないし、魔力回路が裂けて吐血しても記録を取るし、睡眠は並列演算の練習にすぎない。
エルディアの執念に比例するように刻印も増える。
「次から俺もダンジョンに行くよ。
心配だし。」
「え。いーよ。
だってアルト虚弱だもん。
これしないと戦えないでしょ。」
刺青を見せるエルディアにアルトは、普通に頬を引き攣らせた。
「それは嫌だ。」
「わがまま言わないでよアルト
私たち子供なんだから。」
「いや、絶対嫌だ。
待て。近寄るな
アー――っ!!!」
そしてアルトはそれを刻まれた。
彼は泣き叫んだという。
『さあ、精霊よ。
私の前に跪いて働け。
これで開かれる国家資格への道。
夢にまで見た高給取り。
都市部では超人気職。
上位資格持ちは貴族からスカウトされ、王都勤務なら年収は家が建つレベル。
その栄光の為に
わたしこそが勝ち組となるために
──さあ、跪きなさい。』




