189話 円卓会議
円卓に沈黙が落ちた。
理事の一人が絞り出すように言った。
「証拠は?」
「出していいの?」
エルディアは小首をかしげていた。
「いや、私はいいんだよ?
ただ、出したら、ここにいる何人かの顔が、ちょっと困ったことになると思うんだよね。」
「……っ」
学院長は静かに言った。
「そこから先は、私が預かる。
内容は、いずれ必要な範囲で開示する。
今日の議題には含めない。」
「……学院長」
「異論は、記録に残す。
だが、今は議題を進める」
リリアは、卓の下で、エルディアの裾を引っ張った。
『どういうこと?』
『もう、証拠は、学院長に提出済みなんだよ。昨日のゾルグさんの黒い封筒の奴。
学院長はあえて理事会を庇ったんだ。
借りを使った形だね。』
レオンハルトは、立ち上がった形を維持したまま続けた。
「見直しと、穏やかな言葉を選ばれたようですが、この嘆願書に書いてあるのはもっと大掛かりなものだ。
『家の名前や爵位を評価に入れない』
『現行の順位を白紙に戻す』
これでは見直しではなく、事実上解体でしょう。」
レオンハルトは、立ったまま、卓の上の嘆願書を指で叩いた。
家紋の指輪が、こつ、と乾いた音を立てる。
「そもそもなぜランキングを是正する話になる。
ランキングのありのままを見せればいいだろう。」
──……うまい。
リリアは、唇を噛んだ。
リリアは手をあげて発言した。
「魔術は、才だけでは回らない。そこは同意する。
ただ、世界魔術連盟の定義では、家の名と、積み上げてきた寄付は、庇護にあたるのよ。
利権として処理され、学院の認可に関るというのが、シルヴァ家とラグナエルロード家の見解。」
「……リリア……しれっとラグナエルロード家も巻き込まないでください……
胃が……」
「認可だと?」
「そう、アーカム魔術学院が終わるの。」
「はーい。私もいーかな。」
エルディアがびしっと手をあげた。
リリアは普通にひくついた。
「許可しません。
あんたは黙ってて。
絶対引っ掻き回すんだから──」
「リリア先輩の説明で、生徒側の問題は片付いたよね。
だけど、その前にまだ残ってるでしょ。
一番大きいのが。
理事会だよ。
反対でしょ?」
「我々は反対と決めているわけでもない。
……理事会として、持ち帰って検討する時間を、いただきたい。」
「時間はないって言ってるよね。
ねえ。学院、潰したいの?
持ち帰って、誰かに相談する『誰か』が、連盟の誰かさんと繋がってない保証はあるの?」
「エルディア……
それ……」
──一番、言っちゃいけないやつ
(理事会の狸どもと真っ向から殴り合う奴しかなくなる……
どうすんの!?)
理事会席の、数人の肩が、はっきりと強張った。
学院長が、ゆっくりと、目を閉じる。
エルディアは黒い封筒を取り出した。
「ごめんね理事会の方々。
もう、世界魔術連盟の記録が手に入ってるんだ。」
「でたらめだな。」
エルディアは手で制した。
「今は真偽はやめとこうよ。
本当に終わるよ?
世界魔術連盟の監査の宛先は学院じゃなくて、理事会になるかもよ。」
「……譲歩しているとでも?」
「譲歩でしょ。
これが脅しに聞こえるなら、後ろめたいことがあるって宣言しているようなものだし。
『連盟が来る前に理事会が自主的に是正を決議する。』
『監査の許可は、拙速だった。』
『我々は学院の将来のため、制度の見直しを自ら発議する』。
これだけ。」
「……生徒総会だ。
嘆願書にもある。そこで決めよう。
一つだけいっておく、エルディア君。
身の程を弁えた方がいい。
平民の身の程を。」
「あら、どうも。
どっちの身の程かな。貴族様。
是非教えて欲しいね。」
ふふふ
ふふふ
その場にいたものは思っていた。
やだこの人たち。怖い。
──学食。
「さっきあなたが持ってきた資料がこれね……
うわ。えぐ。理事会真っ黒じゃん……」
リリアは先ほどエルディアが出した黒い封筒の中身を見ていた。
学院長にも同じものがいっている。
「これを、さっきの円卓会議で出せば、向こう詰んでいたんじゃ。」
「それじゃ学院は変わらないよ。
リリア先輩。
みんなで決めないとだめなんだ。みんなでね。
じゃないと学院は変わらないと思う。」
「……学院はあんたに対してすごく厳しかったと思う。
それは今回だけじゃなくて。
入学してから今まで。あんたは、どうしてそこまで?」
「これでも学院には感謝しているんだ。私。
さあ、先輩。
理事会の本格的な妨害が始まるよ。
これを潜り抜けて生徒総会で勝負をきめよう」
「まずは、どうする?」
「リシェル先輩が寝返らないように、もう少し肉をあげる。」
「……」




