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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔の森攻防戦

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185/191

184話 尋問します

薄暗い部屋。


その姿は二十代前半の美丈夫。

だが声は低く、どこか擦り切れていた。


カイン・エルスワース(オメガ粒子に囚われ年齢不詳)。


エルディアとリリに囲まれ、カインは座らされていた。


「……なんだよ、おまえら。

人を呼びつけて、いきなり尋問室たぁ穏やかじゃねえな。

こんな所連れてこなくても何が聞きてえんだ。全部話すぜ。

リリちゃんもいるしな」


「いい心がけだ。

カイン・エルスワース。

今から、貴様にいくつか質問をする。審問だ。

黙秘権など、この世に存在せぬと思え。

リリ・ヴァルフェリア。奴との出会いから禁断の恋愛に至るまでの全軌跡を語れ。

いや──吐け!!」


「……意味が……」


「黙秘権はない!!!!」


ばんっ!!


完全に勢いでエルディアは机に手を叩きつけた。

カインは、リリと目が合うと肩をすくめた。


──なに、これ。


リリは、両手で顔を覆っている。耳が真っ赤だ。


「ご、ご自由にっす……」


「……大したもんでもねえけどな。

最初の出会いは、俺が12歳くらいだったか。

雪の降る、寒い日だった。

仕事が欲しくて冒険者登録したんだ。

その受付が、妙な格好をしていてな」


「妙な格好とはなんだ」


「妙って言わないでほしいっす」


「黙りなさいリリ!!

あなたは黙って記録する!!

余計な茶々を入れない!!」


「これそもそも記録必要なんすか!?!?うちの話なんすけど!?!?

そもそもこの話題選択自体が、絶対、本題にいきつかないやつじゃないっすか!!!

そもそも!!」


「傍聴席が騒がしいが、話を戻す!!

カイン・エルスワース」


エルディアはすでに卓に肘をつき、両の掌《てのひら》を眼前で組んでいた。

完全に、世界の理を見通す者の構え。


「冒険ギルドでの邂逅。

それが、最初か?」


「ああ。それが出会いだ。

そのあとは、冒険者と、冒険者ギルドの受付の、よくあるやつだよ。

リリちゃんが年を取らねえことには、気づいてはいた。

気づいて、何も言わなかった」


「なぜだ。

なぜ聞かなかった。

吐け!

黙秘権はない」


「だから、そこはな……変わらないなら、ずっときれいなままで便利だなと……」


「このド変態が!!!!

尋問を一時中断する!!!!」


エルディアは、リリを置いてその場を後にした。

なんだ、この甘ったるい背徳の空気は。


死ね!!!


そしてエルディアは普通に諦めた。


(こいつらから事情を聴くのは、事実上不可能だ。精神が崩壊する。

後で報告書にして提出してもらおう。)



◆



後日、提出してもらった。


エルディアは、食堂で資料を読みながら、指で自分の頭を、とんとんと叩いて難しい顔をしていた。


白にも、その資料を渡す。


「なにこれ。恋愛小説?

……ああ、リリとカインの出会いの話ね。

私が知ってることと大差ないかな。」


「白のループに、リリが付き合っていたとすると、カインがリリと会ったのは、ループに入る前。」


「そうね。ループを終えると、次のループのスタートは、私の生誕が開始。」


「さらに報告にあるけどリリの一七五からのスパイルールは二つ。

一つ、世界救済のために力を尽くすこと。

二つ、大きな差異は一七四回目のルートに誘導すること」


一七五は未来からきた。

その一七五のスパイなら、リリは白の未来を把握している事を意味する。


「すでに相当、ズレてるんでしょうね。」


「そこはそう思う。

あのおばさん、イレギュラー、イレギュラー言い過ぎて、イレギュラー芸だったしね。」


白は首を傾げた。


イレギュラー芸?


「エルディア。

この状況について、知っていそうな人が、一人いる。

……私の彼氏なんだけど。」


エルディアの手から、羽根ペンがするりと滑り落ちた。


ある意味ではここ最近で、最も大きな衝撃だった。

世界が崩壊しかねない。


「…………は?」


「だから、彼氏。

……『彼』なら、この状況について知っているかもしれない。

ううん、知っていないとおかしい。」


「待って。

白は百七十三回ループして、ちょっと前にアルトに全力でセクハラして、その上で彼氏?

おかしいでしょ!!

聞いてないんだけど!!」


「聞かれてないもの。」


エルディアは戦慄した。


「……惚気話は、ないよね?」


「どうかしらね。」


「あるのか……」


エルディアは、天井を仰いだ。



◆



食堂の机に、うさぎ柄のポットが置かれた。


リリが、人数分のカップを並べていく。

取っ手の尻尾が、ぴょこぴょこと揃って並ぶ。


「長い話になるんすよね。

なら、ちゃんと淹れるっす。」


「リリ。

期待してる。

頭の中が桃色のお花畑のあなたの存在が、未だかつて、これほど心強く思った事はない。」


「いや、褒めてないっす。それ。

それに姉御は、一体何と戦ってるっすかね?」


「うるさい。死ね。」


「ひどっ!!!」


白は、自分のカップを両手で包んだ。

指先が、少しだけ温まる。


「じゃあ、一回目の続きを話すよ。

彼の名前はファティマ・エラ。」


「それって……」


「そうね。世界ではこう呼ばれているわ。」


白はカップをそっと置いた。


「冬を終わらせた男」



◆



一回目。十歳の冬。


その冬、雪は止まなかった。

10日が経つ頃には誰も笑わなくなり、間を置かずして体力がないものから死にはじめ、白も死んだ。


──あれは確かに、死んだのだと思う。


「動かないんだけど。

ねえ、体が動かないんだけど!!!」


「そりゃそうだよ。

君は一度死んだんだ。」


「生きてるんだけど!!!」


三日目の朝、彼が眠っている隙に、戸を開けた。

雪は変わらず白かった。

井戸の前まで歩いて、座った。


十歳でも、わかることはある。

みんな、どこか遠い彼岸《かなた》へ行ってしまった。


みんな死んだのに、自分だけ温かい寝台にいる。

それが、ひどく間違っているように思えていた。


「……寒いだろ」


「いらない。」


「せめて涙はふこうか。

凍ってる。」


彼は私を連れ戻さず、隣に腰を下ろして、黙って雪を見ていた。

肩に掛けられた外套で、涙を拭いたが、拭いた涙も凍った。




旅に出て、最初の季節が過ぎた。


「ファティマ。ほら見て。

人間の氷の彫像だよ。

いきがいいね!!」


「エルディアは、もう少し常識を覚えようね?

あと死体で遊ばない。」


「この下に奥さんと子供が埋まってるって。

ねえ。弔ってあげようよ。」


「そうか。君には聞こえるのか。」


一度死んだせいか、エルディアは闇属性魔力に目覚めていた。



その夜、焚き火の前で彼がまた指を折っていた。


「……お礼言ってたよ。そしてどっか行った。あの家族。」


「そ、そうか。それは良かった。」


「ファティマは今日も街を助けたね。」


「一万人。この街の人数。

でも二百人、間にあわなかった。

もっと早く、駆けつけることができれば……」


「無理なんじゃないかな。

ファティマが行く頃には、みんな死んでる。

おかげさまで友達には困らないよ。私。」


「……君は、非常に危うい冗談をさっぱりやめないね。エルディア。

僕が間に合うのは、一日に一つの村だ。

冬は、同時に百の村を襲う。

どれだけ走っても、数は永遠に追いつかない。」


「死んだら、寒くないってさ。」


「……それは良かった。」


十年が過ぎた。






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