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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔の森攻防戦

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183/191

182話 二度と来ないでもらえますかね

「あなたは、それでいいのかしら。

174。」


白は、答えなかった。


「あの冬は、一回目だった。」


175の視線が、蒸気の彼方に横たわる**亡骸《なきがら》**を捉える。

崩れ落ちたヒュドラ。九つの首。

そして、凍てついたまま時を止めた、あの空。


「アイスワームは、あなたの、私たちの村を、奪った冬。

ループの中で、幾度も殺された。

幾度も、幾度も、同じ雪の下に埋まった。

倒したから、何?

砕けたダイヤが、何を返してくれるというの?」


175の拳が、震えていた。

同じ顔が、吐息の触れる距離で睨み合う。


「奇跡など、起きない。」


「違うよ。一七五。

奇跡は、起きるべくして、起こる。」


「……結果は、結果として受け止める。

無限のループの中で、いずれそれは再現される。

千回目か、万回目か。

試行を重ねれば、いつかは同じ乱数を引く。

私は、それまで続ける。

何度でも、観測と、設計を。」


「やっぱりそうなのね。

あなた……ゼフィラと……」


「ふふ。

――じゃあね。」


淡々とした別れだった。


足元に、青白い術式が広がっていく。

輪郭が、氷の粒子に溶けはじめた。




「まちなさい!!!!」


エルディアの声がその場を貫いた。


「ぜーぜー。

つ、疲れた。

走ってきたから。」


エルディアは膝に手をついて、肩で息をする。


「あなたには言わないとならないことがある。

それを聞いてからかえって!!!!」


175の足元では、術式の青白い光が、さっきから消えかけの蛍のように明滅している。

その上で175は腕を組んだまま、わずかに首を傾げた。


「何かしら。

これでも忙しいのよ。5秒でいいかしら。」


「構わない!!

ゼーゼー。

ただちょっとたんま。

腹が……横っ腹が痛い……

すーすーはー

すーすーはー」


エルディアは右手を前に突き出して「待て」の形を作り、左手で脇腹を押さえた。

腰を折り、肩を上下させ、ひゅう、ひゅう、と情けない音で息を継ぐ。


「まずあんただけど、今後は『黒』と呼称する。

白エルディアが『白』だから丁度いいでしょ。」


「どうぞ。もう5秒立ってるけど。」


「損害賠償よ」


「……?」


「あんたには損害賠償を請求する!!!!」


「……なにそれ。」


「いっておくけど、私には魔王様の事務総括、ゾルグがついている。

175回ループしようが2000回ループしようが、無慈悲なる事務総括の前には何の意味もないんだから!!!

逃げられるとは思わないことね!!」


エルディアは、ようやく息を整えて背筋を伸ばし、そして人差し指を、ぴしりと黒の鼻先に突きつけていた。


黒が目をぱちぱちしていった。


「……ゾルグって誰?」


「魔王城の良心を知らないとは、一七五回が聞いてあきれるわね!!!!

書類はオメガ粒子より強し!!!」


「誰よ。だから。

まあ……次に会うときまでに、覚えておくわ。

ゾルグ、とやらの名前を。

実際知らないし。」


「そうしろ。」


黒は、背を向けかけると、首だけで振り返った。

その目からは、さっきまでの戸惑いが、きれいに消えていた。


「じゃあ、私からも忠告しておいてあげる。

エルディア。

リリは私の指示であなたと一緒にいる。

じゃあね。」


青白い術式が、ひときわ強く瞬いた。

輪郭が氷の粒子にほどけ、蒸気の中へ、音もなく消えていく。

帰ったのだろう。


エルディアは、しばらくその場所を睨んでいた。

それから、ふん、と鼻を鳴らして、腰に手を当てた。


「よし。リリ聞こえる?塩もってきて!!

老害め。

二度とくんな!!」


通信の向こうで、少しの沈黙があった。

リリの声は、いつもの軽さを保とうとして、わずかに乾いていた。


『姉御……あの人のいう通り、うち、スパイっすよ?』


「大丈夫。あなたとは、雇用契約を結んでるから」


『あれ?そんなの結んでましたっけ。』


「そんなのはこれからに決まってるじゃない!!!!

あなたは法という名の鎖でがんじがらめにして、私から一切に逃げ出さないようにしてやる!!!」


『……ひど。』




そして後日。


ゾルグが訪れた。

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