↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔の森攻防戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
182/191

181話 永久凍土 冬の終わり

『――カインさんっすか……!?どうしてここに……!!?』


「リリちゃんのピンチには、俺が駆けつける。

聞こえたからな。

リリちゃんの声が。」


『カインさんっ……!!』


リリの悲鳴にも似た声。

エルディアが振り返った。


──あいつら、ここにきていちゃついてるんだけど!!


(さすが変態。

だけど何あの術式。

白でも溶かせなかった、氷の動きが止まってる……)


カインは右腕と一体化した剣の切っ先を、静かに地へ突き立てていた。


足元から白い紋様が奔り、セカンダリーシールドの縁で再生を続けていた氷を「縫い留めている」。


「……冬を、律した。

氷が氷であることを、今だけは俺が決める。

だが、長くは保たない。

刻限は数秒だ。

その間に──貫け!!!!」


エルディアは、唇の端を吊り上げた。


「カイゼリオン!!

商売繁盛砲の制限《リミッター》を解除して!!!

魔力全ツッパだ!!!!!

白さんは中和!!

リッチ、案山子は鍬を一斉に!

粒子の塊を、今のうちにぜんぶほぐす!!

《千蝕魔角鹿《ウロボロス》》、ありったけ魔力を流し込め!!」


「言われなくても!!」


白の焔が、再び天を焦がした。


◆



カイゼリオンは、両手を胸元でクロスさせ、そして《紅蓮狙撃杖《フラム・エクスキュージョン》》を砲へ押し込んだ。


「……大詰めだな!!!

制限解除。

いくぜ。DPモジュール接続。

魔力タービン、全開!!

95……

100……

105……!

110……!!

目覚めよ、《紅蓮狙撃杖《フラム・エクスキュージョン》》!!

商売繁盛砲、発射――この一撃、外しはしねえ!!!!」


かくして、運命の矢は放たれた。



◆



放たれた火矢は綺麗な直線を描いて再度シールドを貫いた。


その瞬間、アイスワームが咆哮した。

九つの首が、狂ったように暴れ回る。


生まれて初めて知る「痛み」に、のたうち回るように。


氷牙が大地を穿ち、尾が薙ぎ払われ、砕けた氷塊が終末の雨のように降り注ぐ


「下がって! 巻き込まれる!」


白が叫ぶ。


『暴れすぎっす! これじゃアス氏の熱が、届かないっす!』


リリの声が悲鳴に近い。

熱を叩き込むには、動きを止めなければならない。

だが、止める術がない。


その時だった。


ショッピングモールでバタンキューしていたサキュエラの瞳が、かっと見開かれた。


眠れる獅子である彼女は目覚めた。

いや、夢うつつであった。


「…………剥かれて、いる。

絶対の護りを、剥がされて……

無防備に、なって……

あんなに、暴れて、恥じらって……

ああ……いい……

影を背負う男が、鎧を剥ぎ取られる、この背徳……!」


──領域展開。

──『桃色盤外戦術《ピンク・アウトオブボード》』。


万年思春期と称されるサキュエラのリピドーにも似た力強い迸りが、夢と現実の狭間の彼女を明確に突き動かしていた。


桃色の霧が、モールを中心にぶわっと爆ぜた。


先ほどまでの比ではない。

術式の花が、氷の大地を埋め尽くすように咲き乱れる。


九つの首が、ぴたりと止まった。

暴れていた巨躯が、桃色の霧の中で、金縛りにあったように固まる。

時を奪われたように


『これはサキュエラの領域魔術!?

まさか復活してるっすか!?

いや……寝てるっすね……

とにかく動きが止まったっす!!

今っす、アス氏!! 今しかないっす!!』


アスは、頷いた。

何も言わず、両手を前に突き出した。


「──精霊たちよ、我が呼び声に集え!

《循環型温熱結界《スピリット・サーマル・ネットワーク》》!!!!!」




アスの両手の先で、空気が歪んだ。


叫んだ瞬間、モール全体が唸りを上げる。

壁を這う魔術回路が、血のように赤く灯った。

冷暖房のために張り巡らされた術式が、モールの内から逆流を始め、外界への干渉を開始する。


『《循環型温熱結界《スピリット・サーマル・ネットワーク》》、全出力。

方向、暖房――最大。

作用点、調整するっす!』


熱が、走った。


見えない奔流が、モールから戦場へ。

凍てついた大地の氷が、ぱきぱきと悲鳴を上げて剥がれていく。

吹雪が蒸気に変わり、視界が白く煙った。


『干渉開始。

アイスワーム。温度、上昇中確認!

五百……千……まだ上がるっす!』


リリの声が、上ずる。

アスが、歯を食いしばった。


「千数百度なんて、通過点。

千数百度なんて、通過点。

千数百度なんて、通過点………」


額から汗が噴き出し、そのそばから蒸発していく。


熱の束が、剥き出しのヒュドラの巨躯の中で膨れ上がっていく。


氷が、膨張する。

逃げ場を失った力が、体内へ、内側へと押し潰していく。

オメガ粒子ごと、圧縮されていく。


『圧力、上昇っす! 五万気圧……まだ、まだ来るっす!』


九つの首が、桃色の霧の中で、身動きひとつできずに震えた。


「ごめん!! エルディア……!

持たない……かも!

やっぱむりー!!!!」


アスの腕が、震えていた。

リミッターを外した魔術は、術者すら焼く。


「大丈夫。」


エルディアが、彼女に手を重ねた。


「アス、一人じゃないから!!!!」


その言葉に、アスは、目を見開いた。

それから、笑った。


「……そうだね。」


──限界稼働《オーバーロード》。

熱が、さらに跳ね上がった。


ヒュドラの胸の奥で、何かが、きらりと光った。


透明な、硬い、小さな光。


『ダイヤモンド……生成開始確認っす……!

ヒュドラの核が、内側から、結晶化していくっす!!』


リリの声が、震える。



◆



『冬』が、終焉を迎える。


白は『それ』を見届ける。


崩れ落ちていくヒュドラの残骸から、蒸気が立ち昇り、ダイヤの粉が、陽の射さない空に散っていく。


白はそれを、確かめるように見ていた。


幾度も挑み、幾度も殺された。

殺された果てに世界は冬に閉ざされ、また、はじまりが始まった。


二枚の絶対障壁。

オメガ粒子の限界濃度。

世界の崩壊そのものの密度は、絶望と等しい質量で白の前に常に立ちはだかっていた。


サキュエラの変態性

ゴルドの矜持

カインの復活

そして、商売繁盛砲。

『《循環型温熱結界《スピリット・サーマル・ネットワーク》》』

『千蝕魔角鹿《ディアウロボロス》』

そしてエルディア……


どれか一つでもピースが欠けていれば──


(……違うのか。

欠けていても、きっと『あなた』ならなんとかしたんでしょうね。エルディア。

運命ごとねじ伏せていた。)


白の頬を、氷の欠片が掠めた。

儚く融けていく。



◆



「くだらない。」


175は、吐き捨てた。


崩れ落ちたアイスワームの残骸を背に、氷の刃のような眼差しで、白を見ている。

蒸気の向こうで、砕けたダイヤの粉が、まだ舞っていた。


「再現性のない奇跡が、たまたま重なっただけ。

こんなもので、世界の理を超えたなどと言えるはずがない。

もう一度やれば、同じ結果にはならない。

サキュエラの魅了も、ゴルドの斧も、カインの適合も。

全て、偶然の産物よ。

偶然という名の残滓に過ぎないわ。」


白は、黙って聞いていた。

それから、ゆっくりと口を開いた。


「そうかもね。

次は、同じにはならない。

たぶん、あなたの言う通り。」


175の眉が、わずかに動いた。


「……」


「百七十四回も、百七十五回も、ないんだ。

本当は、誰にも、そんなのはわからないんだ……

人生って、一回なんだよ。

……私は、『私たち』は、それを百七十三回分、忘れていただけなんだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。