17話 Eクラスの勉強合宿②
森の奥、簡易的に整えられた広場。
すでに夕方の色に沈みかけていた。
その片隅で、ひとりの生徒が膝をついていた。
名はカイゼリオン。
エルディアは彼に声を掛ける。
「もう一回。
ごめん。もう一回だけ。」
「何回やっても無駄なんだよ。
ダメだったんだ。」
その生徒は、地面を見たまま言う。
火も風も水の精霊も、何も反応しなかった。
何度やっても“空白”だけが返ってくる。
Eクラスには、アス以外にも、そういう者がいる。
魔力適性はある。
それでも“発動しない”。
よしんば発動してもカイゼリオンの魔術は、不全。
火は灯ると消え、水は浮かぶと落ち、風は自身の体を打った。
原因不明の不能者。
学院では厄介扱いされる存在。
Eクラスにそういったものが多いのは、厄介なメンツを集められているという側面もあるのだろう。
優秀ではないが、完全に切り捨てるには惜しい。
情は一切ないが、効率的なシステムだとエルディアは冷静に思う。
「わかった。
ご飯を奢ってあげるから、場所を変えてもう一回。
はい差し入れのお肉ね。」
湯気がまだ立っている。
さっきアルトがそこで焼いた。
女子にきゃーきゃーいわれながら。
あいつは料理もうまいらしい。
なんでも超人め。
しかも妙に優しい味がする。
死ね。
「うまいよ。
そりゃうまいだろ高い肉なんだから。」
「じゃあ今日は付き合って。
今日だけでいいから。
お願い。」
カイゼリオンは、距離を詰められるようにお願いされていた。
エルディアは誰よりも真剣な表情だった。
──ふてくされている、自分よりも
(混乱するぜ。
なんでこいつはこんなに真剣なんだ。
そんで、なぜ俺がお願いされてるんだ。
普通逆だろ……)
エルディアの家に移動する。
歩いてすぐの距離なので近所だった。
夕暮れ。そして畑のど真ん中。
巨大な骸骨が、まるで王のように玉座に座っていた。
「なあ、すげえでかい骸骨なんだけど、何これ」
「オブジェ。」
「いや、玉座に座ってて雰囲気すげえんだけど」
「カカシ。」
「例えが、退化してんぞ。」
「使えねー骨。」
「わかった、わかった。置物なんだな。
もー突っ込まねーよ。」
そこで彼は再度魔術を発動するが、その威力はすさまじく低い。
エルディアは、どくろに視線をやる。
(リッチ先生お願いします!)
フォッフォッフォッフォッ
魔法陣の作り。
詠唱の発音。
魔術発動手順。
リッチ先生からの指示が届く。
それを紙にかいて、カイゼリオンに渡す。
修正された魔法陣。
意味が分からないほど削ぎ落とされた構造。
「これがあなたの魔術陣ね。
修正点がこれ。
ここいらない。ここも。」
「すげえ、修正点がおおいな?
ほぼほぼかよ。
でもよ、これ発動しねえよ。
削ったとこ、こいつら全部必要だろ。
みんなやってるし、魔術の授業でもわりと最初に習う、基礎構成みたいな部分だ。
全部ぶっとばしてる。」
「早くやって。
肉、奢ったでしょ。」
「無理だとおもうがなー」
カイゼリオンは小さく呟きながら、手を上げる。
炎。
それも凄まじく大きな。
一瞬で空間を焼き尽くしかねないほどの、凄まじい出力。
できた。
それも、とんでもないレベルで。
制御されすぎた“爆発寸前の純度”を持つ炎
「……は?」
エルディアは、炎を眺めながら首を傾げていた。
「多分あなたって、魔力循環が普通の人と逆回転なんだと思う。
先天性のものかな……
既存の魔術陣は全部ダメかもね。
用意すれば、もっとブラッシュアップできると思う。
うっし。君は火属性。
精霊契約も問題なさそう!
完了!!
よし、次!!」
エルディアの興味は、もう次に移っている。
「なあ、おい
エルディア。」
「何?」
「なんで、ここまで……」
「次のクラス対抗で、いい成績を取って、グレードをあげて、安い学食ランチをみんなで食べるために決まってるでしょーが。
頼りにしてるんだから!
もちろんカイゼリオンの事も!」
「そうじゃねえよ……
みんな諦めたよ。みんなだ。親も……友達も……みんなだ。
俺だってそうだ。
俺自身も諦めてたよ。口ではなんとかなるっていいながら、きっとこのままいくんだろうな。
しょうがねえ……って……
努力もした。
どうにもならなかった。
どうにもならなかったんだ……
意地だけで手放さなかっただけだ。
お前だけだ。
信じてたのは……」
「みんな節穴じゃん!
まとめて目をほじれ!」
「なあ、俺は真面目なんだが。」
「ふーん。
ならよかったじゃん!
魔術ちゃんと使いたかったんでしょ?
にしし。」
なんでもないことのように、彼女は笑った。
彼は声を絞り出した。
「……マジでありがとな。」
「じゃあ契約ね。」
ダメだった。
──精霊契約術式も、逆回転をふまえないとダメなのかよ!!!
「ちょっと待ってて!!すぐに考えるから!!」
「お、おう。」
エルディアは地面に術式を書き始めた。
絶対こんな速度で組み直すものじゃないくらい早い。
異常に早い。
やがて彼は契約した。
「デュフフ」
森の端から、気味の悪い笑い声が聞こえた。
明らかに肥満体型で、動きも鈍い生徒。
魔術学院の中でも、実技評価は最低ランク。
Eクラスの中でも、さらに“外れ”と呼ばれる個体。
エルディアは腕の骨を鳴らした。ぽき、バキ。
──オタクだろうがなんだろうが、どんとこいや。
全員、一流の魔術師に育て上げてやるわ!!!
むうん!!
歓声が上がる中、そこから少し離れた一画でアルトは彼女と対峙していた。
リリ・ヴァルフェリア。
記録上、300年前から存在する名の知れた魔族。




