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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔の森攻防戦

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177/188

176話 アイスワーム戦 一七三度の茶番劇(ファルス)

戦場だったはずの空間は、既に静寂を取り戻していた。


175は、誰もいない氷の残骸の中で独り立ち尽くしていた。


砕けた氷の欠片が頬を掠め、儚く融けていく。


(――ディア・ウロボロスだと。)


魔の森の守護者。

あの領域の管理権限を持つ、伝説級の存在。


(どうして、あのような盟約《リンク》を持っている。

私の記録《アカシックレコード》にすら、あの存在が人間との交渉に応じた記録は決してない。

数百の時代《エイジ》を経てなお、そうだ。)


ゼフィラよ。

ここまできて、なお貴様は私を試すか。


――いけすかない、運命の女神気取りめが。



◆



――遡ること、幾星霜。


175は、崩れ落ちた世界の残骸《アルカディア・ルイン》の中央に、一人、立っていた。


(――茶番劇《ファルス》は、終幕。)


握りしめた拳の中で、何かが砕ける感触があった。


それは、かつて「心臓」と呼んでいたもの。

その最後の欠片。


「愛が、絆が、希望が――

それら全てが、判断を鈍らせ、選択を誤らせ、そして、私をそして世界を殺し続けた。

百七十三度も。」


175は、両手を広げた。


かつての自分が、そこに立っていたはずの場所。

凍りついた大地に、無数の術式《ルーン》が、青白く浮かび上がっていく。


「感情。

なんと非効率で、忌まわしき欠陥仕様《バグ》か。

世界という名の、欠陥だらけの実験系など、淘汰しつくしてやる。」


声は静かで、それでいて、どこか芝居がかっていた。


「私はもはや『個』ではない、

無限に分岐する可能性の観測者《オブザーバー》にして、収束点の設計者《アーキテクト》。

最適化計画《オプティマイゼーション》を、今ここに発動する。」


冷たく、乾いた声だった。


――『私、いい子にしてる。だから、大丈夫だよね。』



◆



時は戻る。


「淘汰せよ。真実に至らない全てを。

オメガ粒子、限界濃度到達。

『冬』を、先取りさせてあげる。」


首が舞った大蛇の巨躯が、さらに膨れ上がっていく。

節々から、新たな触手が、幾本も芽吹きはじめていた。


声なき咆哮が、大気を震撼させた。


175はその巨躯を見上げながら、口の端を微かに歪めた。


「さあ、イレギュラー。

あなたの『正解』とやらを、見せてちょうだい。

それを糧に、私はさらに『真実』へと近づく。」


呟きは風に攫われ、誰にも届かぬまま、虚空に消えていく。



◆




エルディアと白の前の空間が、緩やかに揺らいだ。


巨大な古木の輪郭が滲んだかと思うと、その中心に、人の姿が像を結んでいく。


現れたのは、木の葉と苔を纏った、静謐な佇まいの女性だった。


『古代樹統括存在《アーカイヴ・ガーディアン》』


「――久方ぶりだ。

エルディアよ。

ディア・ウロボロスの稼働、確認した。

盟約《コントラクト》に基づき、追加の代償《ライセンス》を要求する。」


エルディアは、普通に顔をしかめた。


「……今なの!?!?

え、今、取り込み中なんだけど。

後にしてもらえる?」


「知ったことではない。

私はお前が嫌いなんだ。

契約は、絶対不可侵の理。」


「後で渡すから!」


アーカイヴ・ガーディアンは、微動だにしなかった。


「早くしろ。森の風紀が乱れる。

これは、森の秩序にかかわる。」


古代樹の化身は、静かに、告げた。


「さあ、キノコの、効率的な繁殖方法を早く教えろ。

菌床《ミセリウム》の理想郷を!!!」



白は聞いて思った。



きのこ!!!!


よりにもよってきのこ!!!!


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