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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔の森攻防戦

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174/186

173話 アイスワーム戦 騙されればいい

拠点の屋上・見晴らし台。


白が、指を組んだまま、静かに外を眺めていた。

エルディアは、その隣で、欄干にもたれかかっている。


(売り上げは年商で10万枚にいきそう。

ま、当たり前か。

禁断の魔の森なんて、普通は誰も来ない。

そこに強引に動線を用意した。

「誰も来ない」から「競合もいない」。

人間と魔族、両方を客にしたこと。

市場が単純に二倍。)


そして原価0。商品の材料は、ほぼダンジョンの生成品。


「おほほほ。

風の囁きがここちよろしいこと。

は。

しまった。カトレアの真似をしてしまった。」


顎に手を当ててエルディアは笑っていた。


「学生なんじゃないの?あなた。

大変ね。よく働くわ。」


「まーね。

見張りお疲れ様。白。

そのうちあなたにも仕事を振ってあげるよ。」


白は、客の前には出さない。

一度だけ接客をやらせた。その結果、三分で客が泣いたからだ。


愛想は最悪。

そして、ひとたび戦わせれば完全に過剰戦力。

ならば見張りこそが完璧な適材適所。


自分の才能があまりに怖い!!

くーっ


白は首を傾げた。


「遠慮しとくわ……

……?」


その時、けたたましいベルの音が、魔の森の拠点全体に鳴り響いた。


「緊急招集の合図……

このベルが鳴るのは、初めてだけど。」


アルトが、息を切らして飛び込んできた。


「エルディア!

モールの方面から、ゴルドさんが救援要請を発した!

『氷の大蛇』がきてるらしい!」


エルディアは、欄干から身を乗り出し、遠くの木々の向こうに目を凝らした。


(大蛇か。

魔物かな?)


「よし。

ま。ちゃっちゃと片付けますか。」


「まあ待ちなさいエルディア。

氷の大蛇なら、オメガ粒子関連。

なら、順当にいけば原因は175。

悪いけど、あいつを処理する前に、リリを処理する。」


「……?」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。

頭の中で、白の言葉をもう一度そのまま並べ直す。


「あ?」


エルディアの声は低かった。


「……?

リリを処理するのよ。聞こえなかった?

まさか感情移入してるの?

スパイに。

甘いものね、初めてだから?

175は、まともにやって勝てる相手じゃない。

背中に刃を残したまま、敵には向かえない。」


「リリは、私達と死線をくぐりぬけた仲間だ。

敵じゃない。命を張って。そこにお前もいただろ。

あれを共闘と言ったのは、他ならぬ白自身だ。」


「いたし、言ったし、見てたわ。」


白の声から、熱が消えた。


エルディアが拳を振り上げた瞬間、白の足元から漆黒の影が立ち昇る。

牛の頭蓋を戴く巨大な輪郭が、音もなく背後に重なる。


白の獣である『ミノタウロス・オメガ・ゼロ』

その一撃が、エルディアを薙ぎ払った。


エルディアの視界が、ぐるりと反転した。


殴打されたのだと悟ったのは、背中が床に叩きつけられた後だった。


肺から全ての空気が逃げ去る。刻印が断末魔のように明滅し、術式がいくつか勝手に砕け散った。


「ポチ! リッチ!」


呼び声に応えてエルディアの契約の眷属《テイムモンスター》が現れる。

白は視線すら向けなかった。

指を一度、払っただけだった。


薄炎の結界が、波紋のように外へ膨れ上がる。触れた瞬間、ポチもリッチも、抗う間もなく弾き飛ばされた。


「……は?」


ちらりと目をやる。

ポチは2,3度跳ねて動かなくなり、リッチは、杖ごと砕かれた骨の腕が乾いた音を立てて床に散らばる。


くそが。強すぎる。


「あなたは、負けたことがないでしょう。

戦い方が、おままごとだもの。」


「お前、一人で百七十三回もやって、他人を信じ方まで忘れたのかよ!!」


白は苛立ちに顔を歪めた。


「……悪いけど、説明してる時間はない。

その感覚だけで動くの本当に腹が立つ。

最初会った時からそうだった。

あなたのそういうところ、私がどれだけ……」


白は歩いてくる。

急ぐでもなく、怒るでもなく、畑の草を刈る人のような歩き方だった。


「私は百七十三回、負けた。負け続けた。

数えきれない死を味わい、それでもここにいる。

あなたと私では、賭している業の重さが違う。」


白の手に、白炎の刃が現れた。

あらゆる迷いを焼きつくす、不冬の白炎《ヴァイス・ヴィント》の剣だった。


エルディアは初めて、はっきりと理解した。


こいつは、本気だ。


脅しでも、なんでもない。

殺すと決めた人間の目だった。


本気でリリを殺す気だ。


リリの顔を浮かべ、エルディアは、顔をあげる。


刃が、止まった。


「リリは殺させない。」


「リリは殺す。」



◆



「リリは時間隔離体なんでしょ。

白と一緒にループしたんじゃないの?173回も。

だったら何千年も一緒にいたんじゃないの? なんでそんなこと言うの?」


「悪いけど」


白の声は静かだった。


「まともな神経じゃ、百七十三回も輪廻を繰り返せないから。

リリはループの記憶がある。

にも拘わらず私ではなく、記憶のないあなたの傍にいる。

あなたがループを知らないってことは、リリは隠してるってことだ。」


「確かめればいいじゃん」


「あっさり言ってくれるけど、確かめて、その言葉が偽りだったら、どうするの?

今まで私たちを欺いていたのかもしれない。

私自身、3000年の輪廻の中で何もかもリリとはお互い知ったつもりなっていたけど、あなたの存在をリリは認知していた。

なら、導かれる答えは一つだ。」


「だからリリは、今回のループのリリは、174回目じゃなくて、175回目のスパイだって?」


「ええ。その通り。

リリの行動はあまりに矛盾してる。ゆえに処理する。」


「騙されればいい。

白の危惧はあまりに無駄すぎる」


一拍、空気が止まった。


「…………は?」


「嘘だったら、そのとき怒ればいい。騙されたら、そのぶん殴り返せばいい。それでいいじゃん。」


エルディアには、深い意味などなかった。感じたままを言っただけだった。だからこそ、それは白の一番柔らかい場所に、まっすぐ刺さった。


「私が……」


白の瞳が揺れていた。


「私が、どんな想いで……!」


叫びかけて、白は口をつぐんだ。


「おいお前らやめろ!!」


吹き飛ばされたエルディアにアルトが追いついた。

怒りより先に、呆れが来ていた。


(こいつら、内輪もめしてやがる。

エルディアと同じなら、白も引かない性格だ。)


──だが、今じゃない。今だけは、絶対にないだろ。


「エルディア!!

あなたは、間違えたら、責任なんて取れないじゃないの……!!あなたには!!

全部失って!!!

何度最初からになったって!!

私ならやり直せるんだから、責任は私がとるのよ!!

部外者は引っ込んでなさいよ!!!!」


アルトが息を呑んだ。


意味がわからない。

論理が途中で破綻している。

ただ意味はわからなくても、それが比喩ではないことだけは、伝わる。


その孤独と、永遠の重さが。


「取るよ責任。

私の決断だ。

あんたじゃない。

私が取る。

人任せには、しない。」


「軽く言わないで」


「軽くない。

それでも軽く聞こえるのは私の喋り方がこうだからだ」


白は、じっとエルディアを見た。

嘘を探す目だった。

百七十三回、嘘と裏切りを見てきた人間の目だった。見つからなかったのか、見つけたうえで飲み込んだのか、白は先に視線を外した。


「……無理よ。

大団円のハッピーエンドは、もうない。

ループを終わらせるには、世界を救済するには犠牲が必要なのよ……」


「無理じゃない。

それこそが思い込みであり呪縛だ。

前にあんたが言ってたじゃん。アルトは生きてる。それこそが証明だよ。

だったら、私がなんとかする。何とかして見せる。

全員で生きて、全員でハッピーエンドを迎えるんだ。

脱落者なんて、1人も出させてたまるか。」


『それ』は、白も確かに思い浮かべていた未来だった。


何度となく失って、多くの人間を犠牲して、原型がわからなくなるくらい汚れてしまったかもしれないけど。


それでも。




◆




リリと合流した。


「姉御と白さん。

特に姉御、傷だらけですけど。何かあったすか?」


「別に何も。

おばさん、更年期障害みたいで。」


白は思ったという。


言い方。


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