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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔の森攻防戦

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171話 第13回経営会議

『議題134。サキュバスのサキュエラの雇用の継続について。及びプレオープン。及び売上報告。』


「皆様の時間を無駄にすることもないですわ!!」


カトレアは強く頷いた。


そして彼女は、議長であり議題を上げておきながら、一切可決もとらず、秒で解雇のハンコを押そうとした。


「待ってカトレア。

サキュエラに運命の最終決定を下すその前に、これを見て。

昨日の、フロア別売上。」


エルディアが静かに一枚の紙を差し出していた。


カトレアは、渋々その紙を受け取った。

一瞥し、そして二度見した。

紙面の一番上、群を抜いた数字の隣に、小さく名前が書かれていた。


――サキュエラ。


「な、なにかの間違いですわよね。

な、なにこの数字。

昨日は開店したばかりで、しかも彼女、ただナンパしてたりされていただけで――

二枚目もある……何この手紙の山……」


「サキュエラが担当したフロアの売上、リピーター率、フロア全体の三倍を優に越える。貢がれ率もひどい。

指輪、家の権利書、それとプロポーズの手紙が三通、届いてる。」


アスが、横から紙を覗き込んだ。


『すごく親身に相談に乗ってくれた』

『欲しいものが分からなかったけど、的確に選んでくれた』

『また来たときも彼女に見てほしい』


「……これサキュエラのサキュバスの本能でやってる接客が、たまたまナンパになってるだけじゃ……」


「だけど、ナンパでも、事実結果は出てる。」


「ぶっちぎりだね」


「……」


「数字に強いカトレアならわかるんじゃない?

この凄さが」


カトレアは、しばらく黙って、その数字を見つめていた。

経営担当として、数字は嘘をつかないことを、誰よりも知っている。


「でも解雇で!!!」


ばちーん!!!!


ハンコが勢いよく押された音が雷鳴のごとく響いた。

エルディアはたまらず反論した。


「なんでっ!?!?

数字は嘘はつかないじゃん!!!」


「接客中のあの、客の腰に手を回す仕草、私は見逃してませんから!!

営業とセクハラの境界線、彼女の中で完全に消えてますもの!!

絶対トラブる未来しか見えませんから!!!

てーか指輪ってなんですか!!すでにトラブってる!!!!」


「待って!!

畑の案山子であり、彼女の畑先輩のリッチから頼まれてるの!!

あいつを事をよろしく頼むって!!!

このままじゃ、サキュエラが畑に出戻りに!!」


「知るかっ!!!」



◆



モール開業から十日。


王都から、一台の馬車が禁断の魔の森へと入っていった。

紋章は、王家直属〈監査局〉の印


馬車から降りるなり、初老の男を出迎えたアルト・ウィンドリィは言った。


「ようこそおいでくださいました。」


「単刀直入に申し上げる。

魔の森において、人間と魔族が共存し、あまつさえ商業活動を行っている――そういう報告が、王都に相次いでおる。」


ウィンドリィ家の嫡男、アルトが努めて優雅に微笑んだ。


「もちろんです。

おかげさまで、双方のお客様に大変ご好評をいただいておりますよ。」


「好評、で済む話ではない。

両種族は、つい先日まで戦争状態にあった。

血で血を洗う戦の只中にあったのだ。

それが、なぜ今、何事もなかったかのように、隣り合って買い物をしておるのだ。

洗脳か、あるいは何らかの強制がかかっているのではないか、と。

王都では、そう囁かれておる。」


「案内します。」


初老の文官は、視察という名目で、モールのフロアを歩くことになった。

アルトが先導し、監視するような視線を送りながら。


その途中、文官の足が、ふと止まった。


「お客様、何かお探しですの?

ああ。私は通りすがりの、つい先日、店員を首になった清掃員です。

ほらこれがモップです。

聖剣です。」


サキュエラだ。



フロアの一角。

人間の初老の女性客が、迷いの浮かべ商品棚の前に立っていた。

そこにしゃがみ込むようにして声をかけていた。

背中に羽の生えていることを隠していない。


「ええ、その……娘の誕生日に何か贈りたいのだけれど、何がいいのか分からなくて……」


「これなど、いかがでしょう。

魔力を込めた髪飾りですの。

つけているだけで、〈冬の冷気〉より護ってくれる加護がありますのよ。

これから寒くなる季節ですもの。娘さんのこと、きっと大事に想っていらっしゃいますでしょう?」


サキュエラは、女性の目線に合わせるように、優しく微笑んだ。慈愛の微笑。

サキュエラは、迷いなく一つの商品に案内した。


女性の目に、涙が浮かんだ。


「……ええ。

あの子、去年の冬に体調を崩してしまって。

それで心配で……」


「でしたらなおのこと。」


サキュエラは、女性の手をそっと両手で包み込んだ。


「大丈夫。

きっと、喜んでくださいますわ。」


女性は、何度も頭を下げながら品を購入していった。

その足取りは、来た時よりも明らかに軽かった。


文官は、その一部始終を黙って見ていた。


「……今の女は、魔族だな。」


「ええ。

サキュエラ。うちの看板の清掃員の一人です。」


ぶっちゃけアルトは思っていた。


(看板の清掃員ってなんだ。)


「人間の客に、あれほど親身に……

金のためか?」


「彼女が清掃を担当するフロアの売り上げは相当に高い。

彼女に会いに、わざわざ遠方から通う客までおります。

彼女は、目の前の人を、大切に想っているだけ。

そう理解しております。」


文官は、しばし黙り込んだ。

その時、フロアの反対側で、悲鳴が上がった。


原因は、後に判明する。

偽ブランド品を売りつけようとした業者が、展示中の魔獣型魔導具を不正改造しており、その綻びが、この日、爆発的に露呈したのだ。


客たちが逃げ惑う。

人間も、魔族も、関係なく。


「お客様!!

下がって!!」


サキュエラは、女性を庇うように前に立った。

その先で、暴れる魔導具の一撃が、彼女に迫る。


警備部隊に鎮圧された巨大な機体が、糸の切れた人形のように、動きを止めた。

静寂が、フロアに戻る。


サキュエラは、庇っていた女性を振り返り、震える声で尋ねた。


「お怪我は……」


「あ、あなたのおかげで……

ありがとう……本当に、ありがとう……」


女性は、涙を流しながらサキュエラの手を強く握った。

魔族と人間、その間に種族の壁はもう存在していなかった。


文官は、その光景を言葉もなく見つめていた。


「……あの魔族の女は、身を挺して人間の客を庇った。

金のためだけに、あそこまでするか?」


「あれは、営業ではありません

ただ、彼女が目の前の大切なお客様だった。それだけでしょう。」


アルトは静かに、しかしはっきりと答えた。


その夜、王都に戻った文官の報告書にはこう記されていた。


――『魔の森における共存モデル。要継続監視。ただし、脅威性はなし。

特筆すべきは種族を超えた信頼関係が、すでに現場レベルで自然発生している点である――』


だが実態は、その母親の子供の一人がイケメンなのを、サキュエラが知っていただけだ。



◆


さらに後日。


「問題なしだってよ。」


アルトの声は努めて軽かったが、握りしめた紙の端はまだ少し震えていた。


「まあ、それは心配してない。」


「いや、ちょっとはしろ。

王都のすぐ傍のショッピングモールでオークが警備してるんだぞ。疑問に思え。」


アルトは肝を冷やしていた。


(……正直危なかった。

ウィンドリィ家の援助が、あれ次第で継続か打ち切りか決まっていた。)


「アルトが段取りするんだよ。

失敗するわけない。」


「だから心配しろ!!

事件は仕込みだ!!

あんな芋演技でなぜうまくいくんだ!!」


「私は成功率100%の些事は一切、考えない!!」


「良かったな!!

見切り発車がうまくいって!!」


同時にエルディアは、アルトから受け取った『先日届いた通知』を見ていた。


それは世界魔術連合から届いたものだ。


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