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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔の森攻防戦

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171/176

170話 魔の森ショッピングモール、懸念点しかありません

白のアルトへのセクハラ芸は続いていた。


もはやエルディアは遠い目をしていた。

ぜんぜん話聞かないよこの人。


白はアルトの腕を掴んでいた。

アルトの袖を大胆に捲り上げ、腕の刻印の線を、指の腹で優しくなぞっていく。


──どこかで見た。


(最近。すごく近く。

そもそもこの刻印を私は知らない。

そんなことありうる?この私が?単純生存年数で言えば3000年以上生きてるのに?

……カインの、胸から出てきた175。

未来の私。

あいつだ。)


──思い出せば構造が同じだった。


(百七十五回目ループの刻印。

整理するしよう。)


白は血の気が引いていく。


「……エルディア。

あなたにもあるその腕の数字は、ループ回数を示したものなの。」


「何回目も何も、私はループなんてしてないんだけど。

この腕の数字は生まれた時からある。」


「――そう。

私は174回目。だから174。

刻印の数字に従うなら、『あなた』も174回目だと仮定できる。

けれど『あなた』が幼少期にアルトの腕に刻んだものは、カインの中から出てきた個体である『175回目エルディア』のもの。

数字がかみ合わない。

174と175の間に、0回目が挟まっている。

その0回目は175の刻印を知ってる。

おかしい。矛盾してる。

だとすると、まず前提を疑うべきで――」


エルディアは、静かに聞いていたが、白の様子にやがてぼそっと呟いた。


「これ、白が完全に自分の世界に行ってしまった……

戻ってこない。

へー、まじに周りの言うこと聞いてないね。

いい感じに気持ち悪い。」


「良かったな。自分を客観視できて。」


「だねー」


アルトは肩をすくめた。

白は、なおもぶつぶつと呟き続けている。


白は目を閉じる。


──私ではない。

──なら、私より未来の個体を元にした、一回目か。


けれど、ループ数を示す刻印は174。


指が、茶の器の縁を一度なぞる。

運命をなぞるように



◆



数日後。

拠点の広間に、場違いなほど立派な建材が積み上がっていた。


魔の森の拠点、食堂《ダイニング・オブ・カオス》。


長机の上には、エルディアが持ち込んだ謎の建材サンプルと、カトレアが用意した帳簿、そしてリリの淹れたうさぎ柄のティーカップが並んでいた。


「では、第12回・魔の森経済発展会議を始めます!!」


そして会議は始まった。



「まず、お手元の資料をご覧ください!

魔の森ショッピングモールの人員配置、および店舗の準備の進捗をしましたものになります!」


カトレアが、優雅にティーカップを置いた。

コトン、という音だけが、やけに重々しく響く。


「経営担当のわたくしとしましては、そろそろ懸念事項を共有せねばなりませんの。

エルディアとリリさんが帰還したことで、魔の森のダンジョン権能が扱えます。

すでにこの時点でツッコミどころしかない!!!」


バンッッ!!!


カトレアは机を激しく叩いた。

もはやよーわからんかったからだ。


(全ての建物が、建材を用意すれば数分で生成できるってなによ!!!

物理法則くらい守りなさいよ!!!

なんのチートよ!!!

全ての経営者に喧嘩売ってんのよ!!!)


アスが、恐る恐る手を挙げた。


「あの、聞いていいかな。

そもそも魔の森に商業施設作って誰が来るの?

ここ、魔物しかいないよね?」


「もちろんです。

ここには頭がおかしいほどに魔物しかおりません。

ですが皆様、ご安心を。

わたくし、こう見えて経営には絶対の自信がありますの。

魔の森には希少な素材、危険な迷宮、観光資源。そして何よりも伝説の存在がおりますわ。

というわけで、警備担当兼、目玉として、ゴルドさんに一肌脱いでいただきたく存じます。」


カトレアはゴルドを見た。

そこには鎧を着こんだ2m半の偉丈夫がいた。

どこからどう見てもオークだ。


「ゴルドさん。

本当によろしいのですか?

このショッピングモールの護衛を依頼させて頂いて。」


「構わぬ。魔王様から言われいる。

魔王城の門番をしていたが、今の俺は魔の森の護衛だ。

エルディアは魔の森の管理者となったと聞く。ならこのショッピングモールを守れということだろう。」


「心強いですけど……魔王……」


カトレアは、力強く頷きながらも思っていた。


(魔王!!

魔族じゃなくてさらにそれをすべる魔王!!!

やっべ。

規模が大きすぎてよーわからん!!!)


だがカトレアに隙はない。


「ダンジョン権能のおかげで建物の維持費はほぼ無料。

内装は豪華絢爛、資金は謎の潤沢さ。

けれど、肝心の警備計画が白紙のまま、とうとう開店日を迎えようとしております。

ですが、ゴルドさんのおかげで全ての懸念点が解消されましたわ!!!」


会議は終わった。


終わった後も、アスは首をかしげていた。


「ホントかなあ……」


「ふ。アス。

私はやけになってるだけ……」


「あ、それってつまり……」


「よーわからんから。勢いでゴリ押してるだけ!!!

懸念点しかないから!!!」



◆



開店前夜祭《プレオープン》。


最初に来たのは、迷子の子供だった。

魔の森に住む、角の生えた幼い魔族の子。


「……ねえ、おっきいおじちゃん。

ママ、どこ行ったかわかんない。」


モールの入口に、ゴルドは静かに立っていた。

鎧姿の巨躯は、それだけで一枚の神話画のように様になっている。

まさに神話から現実に舞い降りた、武の化身。


ゴルドは、片膝をついた。

それだけで、視線の高さが子供と同じになる。


「泣くな。

儂が捜してやる。

なに、任せておけ。」


「うん……」


子供は、ゴルドの指を一本、ぎゅっと握った。

かつて七千の軍勢を退けたその手が、今はただ、小さな手のぬくもりを確かめるように、そっと握り返していた。


「すみません、うちの子が――」


そこで、母親の足が止まる。

子供の隣に立つ、伝説の門番の姿を見て。


「……あ、あの、あなたはまさか、ゴルド、様……?」


「子供は無事だ。

案ずるな

それにここに俺がいる限り、いかなる災厄からも皆を守る。

この門番のゴルドがな。」


ゴルドはただ、それだけを言った。


子供は何度も振り返り、小さく手を振った。

母親は深々と頭を下げ、子供の手を引いて去っていく。


神話的とも言える、一つの完璧な仕事を終えたゴルドは、それに小さく頷き返す。


その様子を、少し離れた場所から、カトレアが唖然としていた。


がびーん!!!


(ねえ!!

ここって人間の領土の、その王都から、ほど近いところなんですけど!!!

なんでそんなところに魔族の親子がおりますの!?!?)


いいの!?




──魔の森、食堂。


「どうしたのカトレア。

そんな血相変えて。こんな優雅なお昼に。

紅茶でも飲みなよ。」


「紅茶なんてたしなんでる場合ではありませんわ!!

魔族の親子が、普通に買い物しに来てましたのよ!!

ここ、王都のほど近くですのよ!?

なんで魔族が涼しい顔で闊歩してますの!?」


食堂に、微妙な沈黙が落ちた。


エルディアが、紅茶をすすりながら、片手をひらひらと振った。


「あー、それリリの転移陣のせいだと思う。

ここって魔王城から直通だから。

ウィンドリィ家ってこの国の外交官として力があるから。

御触れもそこにあるよ。

魔族も人間も、お互い違和感なく買い物できるようにって。」


「聞いておりませんわ!!」


「言ってなかったっけ。」


「聞いておりません!!

……つまり、王都の人たちは、隣で買い物してる横で、魔族が普通に買い物するってことになるんですのよ!?

え……てか魔王城!?!?」


エルディアの隣にはアルトがいた。苦笑している。


「戦争を終えたばかりの種族同士が、同じフードコートでソフトクリーム並んで買ってるとか、想像すると笑えねえ絵面だが、事実だ。

カミラの奴、俺の実家に全部報告しやがって。

ウィンドリィ家から資金援助するついで、異種族交流の雛形《モデルケース》にする気だ。」


「大丈夫ですの?トラブルが起きる未来しかみえませんが!?」


「大ジョーブだとよ。

トラブったら、サキュバスのサキュエラが出張って記憶操作するんだってさ。」


「そもそもわたくし、サキュエラ様の雇用は見送りましたわよね!!!」


「あのねカトレア。

畑飽きたって。あのサキュバス。

ほら、あそこに給仕いるでしょ。背中に羽とお尻にしっぽが出ている奴。

そっこー客をナンパしてる。」


カトレアは、給仕役のサキュバスに指を突きつけた。


「くびで!!!!!」


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