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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔の森攻防戦

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168話 帰還拠点にて2

エルディアが、木槌をもう一度打ち付けた。


「まず、被告の呼称について。

同じ顔で同じ声、呼びづらくて仕方ないので、以後、被告は『白』と呼ぶ。

あるいは『シロ』。」


「犬みたいに言わないで。実質『白』一択じゃない。」


「異議は?」


「あるに決まってるでしょ。」


「却下。この法廷に、あなたの意志が介在する余地はない。」


長机の端で、オズワルドが小さく手を挙げた。


「エルディア殿。

原告と裁判官が同一人物というのは、法廷としていかがなものかと思うでござる……」


「問題はない!!!

それでは証人。

アルト氏。前へ。

先ほどの運命という名のセクハラを語ってください。」


「セクハラ……

そもそもなんで俺が証人なんだ?」


「被害者兼、証人。

二重の楔を背負うから。」


白が、静かに手を挙げた。


「……弁護人を要求するわ。

だってこの法廷、どう見ても公平じゃないでしょう。」


一瞬、食堂に沈黙が落ちた。

アスがおずおずと手を挙げかけたとき、カトレアが、優雅に一歩前へ出た。


「わたくしが、お引き受けしますわ。

エルディアが二人いる状況、なかなか見られるものではございませんもの。

この稀有なる見世物をぜひ、じっくり拝見いたしたく。

裁判官のクソ女に目にものみせてやる。」


「この弁護人、すでに裁判官に逆らう気しかないじゃん!!」


カトレアは、腕を組んで、にっこり笑った。


「では、検察側にお尋ねしますわ。

被告が抱きついたのは、アルト氏。

原告は、いったい何にお怒りなのでしょう?」


裁判官兼、原告はエルディアだ。


「……何にって、そりゃ、その、風紀が……」


「風紀……

嫉妬ではなく?」


食堂の窓が、またビリッと鳴った。

エルディアは、木槌を握ったまま白を見た。


「被告。動機は?

黙秘は、心証が悪くなります。」


長い沈黙のあと、白は口を開いた。


「アルトは、死ぬ。

いや、アルトだけじゃない。

みんな死ぬんだ。すべてが、終わる。

私が10歳の頃かな。

村の冬が、急に強くなって、それに抗えず。

誰も、それに抗えなかった。」


白の言葉に場が固まった。


──やべえ。こいつ、まじで全部話す気だ。


「……一時休廷します!!

思いもよらぬ事態によって、この裁判は休廷を宣言します!!」


「待って!!

休廷の前に——この裁判に、〈最終裁定〉を下しますわ!!」


カトレアが力強く手をあげていた。


「弁護人。発言を許可します。」


「エルディア。有罪。

罪状は存在が罪!!

これにて閉廷とする!!」


ぱちぱちぱちぱち。


そしてなぜうまくまとまった空気になった。


なぜ!!!!



◆



裁判が終わった食堂には、木槌の転がった机と、片づけそびれたカップだけが残っていた。


カトレアが、湯を替えたポットを片手に戻ってくる。


「二人は?」


「奥の部屋。込み入った話になるから、関係者だけで話すって。」


「……それがいいでしょうね。

同じ顔ってだけでも、ちょっとややこしいのに、明らかにややこしい事情ですわよね。

整理された情報だけを寄越してもらわないと。」


「さすが貴族でござるな、

汚い。」


「オズワルド、うるさい。

貴族はあんたもですわよね。

……実際、アスはどう思ってますの?」


「タイムスリップとか……」


そして一同は申し合わせた意思のように声を揃えた。


「「ないない。」」



「……そもそも、そもそもなんだけどさ。

あの大きなオークの方と、片腕のない重病人の方は、何者なのかな。」


アスの言葉に、食堂が静まった。


「「……確かに。」」


「『白』殿という規格外の登場が強すぎて、誰も聞けなかったでござるな。」


「聞ける空気じゃなかっただろ。それにあの体格だぞ。」


アルトが、首を撫でながら言った。


「片腕の重傷の人は、腕そのものがないというより、あの袖の中に何か剣みたいなものが……

ちらっと見えただけだが……」


「それはうちが説明するっすよ。」


リリが来た。

リリの手には、うさぎの絵が描かれた小さなポットと、お揃いのカップがった。


「取っ手のとこ見てほしいっす。

うさぎの尻尾になってるんすよ。

しかも並べると、みんなでお茶会してるみたいに見えるっていう……

これもう出てこれないっすよ。運命っす。」


「すまん。リリ。

そこは後で聞くから。」


「そーでした。

ついつい可愛いものみると脱線してしまうっす。

まずうちですが、本名はリリ・ヴァルフェリア。魔族っす。」


ぶー!!!

オズワルドがお茶を噴き出していた。


一同は思っていた。


──あ、オズワルドはその事実を知らなかったんだ。


オズワルドは口をぱくぱくと動かすが、震える指先で、リリを指差すも言葉にならない。

そのまま、がっくりと肩を落としテーブルに突っ伏すと、額がゴンと机にぶつかる音がした。


リリが、突っ伏したままのオズワルドの肩を、ぽんぽんと軽く叩いた。


「オズワルド氏、まだ続きあるんで、そろそろ復活してほしいっす。

〈真実〉に触れて膝を折るのは、まだ早いっすよ?」


「……リリ、殿……?」


「〈闇〉を覗いた者が、〈闇〉に呑まれてどうするっすか。

むしろここからが〈本番〉っす。

──オズワルド氏の魂、まだ〈規格外〉を受け止める器、残ってるはずっす。

一緒にミノタウロスを〈不死者〉へと堕とす術式考えた仲じゃないっすか。

あの魂の共鳴。忘れたとは言わせないっす。」


「拙者の器、もうとっくに決壊しておるでござるが……

いや、決壊したなら、もう一度〈満たせば〉いい。

それが〈覚醒〉ってやつでござるな。」


「さすがっす。」


一同は思った。何この空気。


うさぎさんのティーカップに、安いお茶を注ぐとリリは続けた。


「あちらの巨躯はゴルドさんっすね。

魔王城の門番。

この度、魔の森勤務になったっす。警備で。

本名はゴルド・バルシャイン。」


アスは思った。

ツッコミどころが多すぎる。

アルトは椅子から腰を浮かせていた。


「ま、待った。

オークの、ゴルド・バルシャインって言ったら……あの、ゴルドか?」


「どのゴルドっすか。」


「かつての魔族との大戦。種族の連合軍を一人で三度、退けたっていう……

歌にすらなってるよな。


 早く寝ろ 早く寝ろ

 灯りを消さなきゃ ゴルドが来るぞ

 泣くのをやめない 悪い子は

 戸の外 影が 立っている」


「その、ゴルドさんっす。」


「…………」


アルトの顔から、すっと血の気が引いた。


──まじかよ……〈伝説〉が、こんな近くに……


(過去の大戦の記録は、一度だけウィンドリィ家の書庫でこっそり漁ったことがある。

子供の頃、あの子守唄の元ネタが、どうしても気になって。)


第1次会戦。約150年前

東翼を単独で壊滅させた〈化け物〉がいる。それが、最初の記述。


第3次会戦。

30年前

「足止め作戦」という、被害を織り込み済みの捨て駒戦術が採られたもっとも凄惨な戦い。


その日、戦場に立っていたのは、ゴルドを殺すために来た七千人と、守るためにそこに立ち続けた、たった一体の門番だった。


この戦いを境に、連合軍には「ゴルドには関わるな」という〈教訓〉が、骨の髄まで刻み込まれたという。


アスとカトレアは、同時に思っていた。


(そもそも魔王軍ってなんですの……?

私ら、学生の底辺のEクラスなんですけど……)


(粗茶出しちゃったんだけど……一番安いやつ。まずかったかな……)


二人の目が、ばちりと合った。


「後で歴史書漁ってみる?」


「そ、そうですわね。」



リリは、ぽん、と手を打った。


「で、寝てるカインさんっすけど。

元『暁の剣』のリーダーっす。

30年前の最前線の冒険者っすね。」


「…………」


食堂が、静かになった。


「暁の剣のカインって、ゴルドを撃退したと言われる、英雄じゃねーかよ……

死んだんじゃねーのかよ……

石像も立ってんぞ」


「生きてたっすね。」


情報量がおおい!!!




寝台には、カインが眠っている。

右の袖の先。本来あるはずのない場所で、〈剣〉の形をした何かが、まるで意志を持つように光っていた。


エルディアは、椅子に腰を下ろした。


「……お茶どうも。おいしかったよ。」


「アスが淹れたからね。」


「あなたが淹れたら毒入ってそうだからね。」


白は、小さく笑った。

それから、笑いが消えた。


「……さっきの続き、聞く?」


エルディアは、窓から目を離さなかった。


「聞く。」



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