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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
王都ダンジョンあれこれ

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165話 爆発後3 十分間の賭け

カインの傷口から立ち昇っていた黒い蒸気は、確かに消えていた。

代わりに、周囲の粒子が渦を巻きながら、胸の裂け目の一点へと吸い込まれていく。


『――照合結果、出たっす。

「起爆前配列」に、一致。

システム側が、自動で判定したっす!!

体内のオメガ粒子が、爆発物として、再構成されてるっす!!』


ゴルドが、顔色を変えた。


「爆発物、だと……?」


『規模、試算します……

――大陸規模っす。』


「は?」


「はあ!?」


白いエルディアと表のエルディアの声が、綺麗に重なった。


『大陸規模っす!!

今までの比じゃないっす、これ!!

解除できなきゃ、王都どころか、大陸ごと消し飛ぶっす!!!』


「……あの女。」


白いエルディアの声から、完全に余裕が消えていた。


「最初から、これが目的だった……?

座標保持体としての役目を終えたら、次は、爆弾として使い潰す。

"器"って、そういう意味……」


「解除方法は!?」


表のエルディアが叫んだ。


『わ、分からないっす!!

術式自体、見たことない構造で……!!

というか、こんなの、解除方法があるかすら、分からないっす!!』


「時間は!?」


『――おそらく、十分っす。』


沈黙が、その場を支配した。


「十分で、大陸が、消える。

やるしか、ない。」


エルディアが拳を、握りしめる。



◆



白いエルディアは、崩れ落ちたカインの体に、震える手をかざした。


視界に、術式の構造が展開される。


――白エルディアの表情が、固まった。


(――なに、これ。)


自分が積み上げてきた不冬律術式。百七十三回分の研鑽。

その全てを土台に、彼女は目の前の構造式を読み解こうとした。


読めない。


正確には、文字も、記号も、読める。読めるのに、それがどう組み合わさって、どう作用しているのか、その"文法"そのものが分からなかった。


(不冬律術式の、応用……じゃない。

私の術式を、更に先へ進めたものじゃなくて――

――全く別の場所から、来てる。

多分、カインが用いていた冬式術式。)


「くっ……!?」


(分かる。

分かるのよ、構造の"形"は。

私の術式の、延長線上にあることだけは、辛うじて分かる。

――でも、そこから先の、"詰め方"が。

密度が。

精度が。

――違いすぎる。

私自身に対してのセキュリティが解けない!!)


「解除、じゃなくて……まず、"遅延"を……時限を、少しでも後ろに……

それだけでも、できれば――」






エルディアが、拳を握りしめながら言った。


「リリ。

ここに、来なさい。

――オメガ粒子を、力技で中和するわ。」


『え、でも、私が行っても――』


「いいから、来て!!!」


有無を言わさぬ声に、リリの気配が、渋々といった様子で応じた。


『……転移、開始するっす。

座標がズレてて、少し時間かかるっす。

三十秒もらうっす。』


「充分」


その間に、エルディアは早口で説明を始めた。


「リリの領域魔術、ファンシーショッピングモール。

あれ、オメガ粒子への影響力があるの。

しかも、その強度は思いの強さに、比例する。

だからあんたは、さっさとそのクソみたいな対処の為の遅延をやめてこっちの補助にまわって。」


「……は?」


白いエルディアの声が、初めて明確に間の抜けたものになった。


「正気?

そんな、曖昧な変数に、大陸の命運を賭けるっていうの?

引っ込んでなさいよ。」


エルディアは、平然と続けた。


「いい?段取りを説明する。

リリが領域魔術を使い、私が、その領域魔術をオメガ粒子に影響が出るように補助をする。

あんたは、不冬律術式でオメガ粒子への干渉力を高めるだけ高めて。

理論の部分は、あんたに任せる。」


「――それは、いいけど。

肝心の"思い"の部分は、どうするつもり?」


「リリの、カインへの想いにかける。」


「……想い?」


白いエルディアが、崩れ落ちたままのカインの体に、視線を移した。


沈黙が落ちる。


やがて気づく。


「……あんた、正気?

リリがカインを失ったのはループに入る前だ。

だからゆうに3000年たってる。そんな昔の……

成功可能性は……」


「低いに決まってるでしょ!!!!

さっきからごちゃごちゃうるさいのよ!!!!」


エルディアは、叫ぶように言い切った。


「3000年だろうがなんだろうが信じるんだ!!!

こんな所で終われるか!!

私は冬を終わらせる!!

こんな終わりは認めない!!!!

誰も殺させない!!全員笑ってのハッピーエンド以外認めない!!!!

どれだけ失ってきたと思ってるのよ!!!死んでもやり通してやる!!!」


拳を握る手に、力を込める。


「『私』なら、わかるでしょ!?!?」


「それでも失敗したら!?」


「しょうがないと笑って、終わりを迎えるだけだ!!!」


その叫びに、白いエルディアが、一瞬、言葉を詰まらせた。

やがて、深く息を吐いた。


「……理屈が、通ってない。」


「知ってる。

でも信じるってそういうことでしょ。

力を貸して。

力を貸しなさい!!

てーか3000年ってなんだ……

30年じゃねーんかリリのやつ……260歳じゃくて3260歳だったのかよ……」


「でも――」


白いエルディアは、拳を構え直した。


「反論する時間も、惜しい。」


「いや、やっぱりやめたくなってきた。

3000年はやっぱ無理かなって……」


「ふかしたろ16才。

ひよんな。

賭けるよ。

私が歩んできた3000年を見せるよ。」


「イカれてるこの人……」


「あんたほどじゃないから。」


その瞬間、光の粒子と共に、リリの姿が転移してきた。


「――来たっす!!」


「リリ!!」


エルディアが、すぐさま向き直った。


「聞いて。

今から、カインを助けるために、あんたの力を借りる。

ファンシーショッピングモール、使って。

全力で。」


「で、でも、私の領域魔術でも、こんな規模――」


「規模の話じゃない。」


これは白いエルディア。

リリの目を、まっすぐ見た。


「あんたが、カインを、どれだけ助けたいか。

それだけの話。

私達が力を導く。」


「……私、が。

カインさんを……」


「怖い?」


「怖い、っす。」


リリは、素直に頷いた。


「失敗するとしたら、それは、私たち全員のせい。

あんた一人に、背負わせる気は、ない。

――だから。

思いっきり、やって。」


数秒の沈黙のあと、リリは、ゆっくりと頷いた。


彼女の周囲に、淡い光の紋様が、浮かび上がり始めた。


『――領域魔術、展開。

ファンシーショッピングモール。』



「時間は。」


「――残り8分くらいかしらね。」


「充分すぎるくらいよ。」


エルディアが、静かに、そう言った。


三人の力が、崩れ落ちたカインの体を、中心に収束していく。


風が、その場の全ての音を、一瞬、飲み込んだ。




エルディアが、続けた。


「リリ。

あんたは260歳でありながら、可愛いものが好きで、魔族でありながら230歳頃に出会った青年の人間と初恋みたいな恋愛するような、ショタコンのド変態だ!!」


「――は?」


「さらに260歳と自称しながら本当は3260歳であることが発覚しつつある!!

ショタコンに加えて年齢詐称まで加わっている。

3030年も前の初恋相手に心を動かすその──」


リリの動きが、完全に止まった。


「──その『変態性』に、私はかける!!」


場の空気が、凍りついていた。


言い方。




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