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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
王都ダンジョンあれこれ

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159話 未来エルディア ネギの無念

刻印魔術。

幼いころから、村のインフラ整備の為に永遠ともいえる苦痛の果てに完成した千の刻印。


それはエルディアの核となるものだ。


――誰も、褒めてはくれなかった。


便利な道具に、感嘆の言葉はいらない。


千個目の刻印を彫り終えた夜、エルディアは鏡の前で、自分の体を隙間なく覆う刻印を見て、こう思った。


――これでようやく、村の役に立てる。


 「――うそでしょ。」


エルディアが、刻印全開放の状態でなお、じりじりと押し込まれていく感覚に、思わず声を漏らした。





十体のミノタウロスが、一体、また一体と、深淵側の一体に叩き潰されていく。

数の利が、まるで機能していなかった。


ゴルドが、崩れ落ちていく通路の壁に張り付きながら叫ぶのが聞こえた。


「数の差が、まるで意味を成しておらんぞ!!」 


深淵のオメガの拳に、再び光が集束し始めていた。


「この偽物!!

強すぎる!!」


「偽物とは失礼な。フェイクは、そっちでしょうよ。」


鳩尾に突き刺さる寸前、エルディアはかろうじて、杖を盾のように滑り込ませた。


ガギン、と鈍い音。

杖に亀裂が走る。


ぼえー


「くっ……!?

ダークワンドが!?」


弾き飛ばされ、瓦礫の上を転がる。

息が詰まって、まともに声も出ない。


「悪いね。杖まで壊すつもりはなかったんだけど。」


白いエルディアが、涼しい顔で拳を振り抜く。

下から掬い上げるような一撃が、体勢を崩したエルディアの脇腹を捉えた。


「がはっ……!!」


(くそ!!!

手が読まれてる感じ!!!)


召喚のタイミング、刻印の発動順、魔力の流し方――何をしても、まるで筒抜けのように、一手先を潰されていく。


「私にしては素直だね。目をつむっても読めるよ。」


深淵のエルディアが、あっさりと言った。


「ただ初めての手ばかりだよ。……ねえ。次は、何をしてくれるの?」


「あ――」


エルディアの顔が、初めて焦りではなく、素直な納得の色に染まった。


「この性格の悪さ……そして煽りの強さ……まちがいなく私だ!!!」

あと普通に強い!!!」


「気づくの遅い。

百七十三回分、鍛えてきたんだから、それはそうでしょ。」


そして、理不尽な追い打ちをかけながら、白いエルディアは平然としていた。


理不尽なまでに正しい手順だった。

手を読まれている上に、純粋な地力でも劣っている。

勝ち筋がどこにも見当たらない。




白いエルディアが、静かに半身になっていた。

右足の踵が、音もなく浮く。


「くそが!!」


エルディアが、叫びながら杖を大きく振り上げた。


「ジリ貧だ!!

さっきミノタウロスで驚いてたんなら、残りの眷属戦いっちゃる!!」

リッチ!! きなさい!!」


召喚陣が、これまでとは比べ物にならないほど禍々しく展開される。


「畑仕事に培ったあなたの無念を――開放しろ!!!」


「畑仕事!?」


白いエルディアが、思わず聞き返した。


地響きと共に、巨大な髑髏の王が姿を現す。

骨の玉座を纏うような威容。眼窩に灯る漆黒の光が、周囲の空気を一瞬で凍てつかせた。


「いけ。

我が村の畑の案山子よ。

場を掌握し、死で空間を染め上げよ。

『闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ、彼の者に驟雨の如く打ち付けよ。』」


フォッフォッフォッフォ(……ネギの間引き作業、あと三十年は続くと思っていたのに……まさか、こんな形で呼ばれるとはな……)


超重力空間が展開する


「ねえ畑って何!?

リッチに何させてたの、私!?」


白いエルディアが、思わず叫んだ。


「言ったでしょ!!

美味しいものは根絶やしにしてでも確保するって!、

不死属性のリッチなら、天候関係なく一年中畑仕事させられる!!

完璧な効率を、私は理論値で再現する!!」


「あなた、効率の使い方が完全に間違ってるから!!」


リッチ自身もぶんぶんと頷いていた。


ふぉっふぉっふぉっふぉ!!(……まったくだ。ワシも、そう思っていた。話がわかるのう。)


「あんたも同意すんな!!

クソ案山子が!!」


ふぉっふぉっふぉっふぉ(ワシの無念、思う存分、ぶつけさせてもらうぞ。

ネギの分まで。)


「ネギの無念で戦うな!!」


エルディアとのコントのような叫び声と共に、リッチの杖から、漆黒の閃光が放たれた。


白いエルディアは舌打ちする。


緩い畑の話題とは裏腹に、リッチが纏う魔力そのものは、正真正銘、災厄級のそれだった。





漆黒の閃光が、深淵のエルディアへと直撃した。


爆音と共に、土煙が舞い上がる。


「――え?」


エルディアの口から、間の抜けた声が漏れる。


(なぜこの程度の攻撃が……当たったの!?!?)


自分で放っておきながら、疑問符が先に立つ。

文字通りネギの無念を乗せただけの一撃だ。


攻撃の質だけで言うなら、先ほどの《刻印全解放《フルリリース》》状態のコンボの方が、よっぽど威力があったはずだった。


エルディアが、勢いのまま次を召喚する。


「《暴食黒色狼《ドレッドウルフノワール》》!!

きなさい!!!」


召喚陣から、漆黒の巨狼が飛び出す。


血走った眼、涎を垂らす牙。見た目だけは、これまでで一番"まとも"に凶悪な魔物だった。


狼が地を蹴り、深淵のエルディアへと突進する。


はっはっはっは!!!


(この攻撃も直撃!!!!なんで!?)



「な、なぜ『そいつら』がテイムされているの!?!?」


白いエルディアが、瓦礫から身を起こしながら、初めて明確な狼狽を見せていた。


「暴食黒色狼だってリッチだって――世界を滅ぼしかけた前科がある個体でしょうが!!

何度、あいつらのせいで世界が終わったと思ってるの!?!?」


百七十三回のループ。そのうち何度が、目の前の狼種や骸骨によって引き起こされた滅びだったか。


姿を見るのも嫌になるほどだった。


「ふ。

動物や骨は苦手なようね。」


エルディアが、悪びれもせずに答える。


「ポチは、アニマルセラピー用にペットにしようと思って、餌あげたらついてきた!

リッチは案山子として畑に常駐させたところ、畑の収穫量が跳ね上がった!!」


「――は?」


「最初は威嚇され。だけどパワープレイで躾けたら次の日には懐いてた。

あれは、今思い出せば恐怖で震えていただけだった気がする。

今でこそ懐いてるけど……」


「馬鹿な……

餌付けで、世界滅ぼしクラスの魔物が……」


白いエルディアが、額に手を当てた。


「私の百七十三回、何だったの……

死力を尽くして、犠牲を払って、ようやく封印まで持っていった相手が……

餌一つで、なつくの……!?!?」


積み重ねてきた重みが、根底から崩れていく音がした。


「懐くと結構可愛いのに、こいつら。

ただリッチは烏追い払えないんだけど。

いつまでたっても。

案山子なのに……」


エルディアが、狼の頭を撫でながら笑う。

狼の方も、まんざらでもなさそうに尻尾を振っていた。


「可愛くない!!

一切可愛くないから!!

世界の脅威が尻尾振ってる絵面がおかしいと言っているの!!!

それに烏ってなによ!!!!!」


「まあまあ、細かいことはいいじゃない!!」


エルディアが、笑いながら言い放つ。


「――行け、可愛い子たち。」


「可愛い子たちで済ませていい戦力じゃない――!!」





白いエルディアは思った。


こいつ!!!頭がおかしい!!!!


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