15話 Eクラス
一人3個の質問×29で87個の質問。
「87個も質問ねーよ……」
誰かがぼそっと言った。
実際その通りだった。
そんなに疑問は、どうひねってもさすがに87個はいかない
教室の空気も、だんだん落ち着いていく。
要するにエルディアの言いたいことは単純だ。
放課後に魔術訓練をやる。
ついでに精霊契約も試す。
それだけの話である。
「いや、でも精霊契約って普通そんな軽くやるもんじゃ……」
「そもそも契約できるのか?」
「できなかったら?」
「その時は気合い!!」
「雑!!」
だが質問は止まらない。
途中から方向性が完全におかしくなっていた。
やがてその質問に、教室は静まり返る。
「3サイズは?」
「企業秘密です!!!
ナチュラルにセクハラすんな!!」
脱線していた。
「好きなタイプ。」
「そういう質問しないやつだ!!
おめーわかって言ってんだろ!!」
「ちなみにどんな?」
「聞いてんじゃねー!!!!」
教室が爆笑に包まれる。
カトレアが頭を抱えていた。
「なんなんですの、この地獄……」
そして彼女は、ホームルームをそう締めた。
「ちなみに参加者は、全員にもれなくご飯を奢ります!!
カトレアが!!
だって彼女に決闘に勝ったから、私。」
──数秒の沈黙。
うおおおおお!!
「まじか!!」
「神!!」
「参加します!!!」
「Eクラス始まったな!!」
それは、その日一番の歓声だった。
カトレアは信じられないものを見る顔をしていた。
「は、はい?
ちょ、ちょっと待ちなさい!?」
「大丈夫!!
多分なんとかなる!!
多分!!貴族だから!!」
アスは言った。
「すごい子だね。エルディアちゃんって。」
「……めちゃくちゃなんですけど……この女。」
そして放課後。
彼らは集められた。
エルディアの家の近所のダンジョンに。
石畳は途切れ、土の道。
風が通るたびに、木々が音を立てる自然豊かな場所。
生徒の一人が足を止めていた。
「こんな場所、まだ残ってるんだ……」
「なんか……癒されるな」
その言葉に、周囲も少しだけ頷く。
そんなに遠くない。
自然が豊かな村にたどり着く。
その外れ。
森。
「やっほ。
リリ。」
「姉御お久しぶりです。」
森の入口近くで待っていた少女が、ぺこりと頭を下げた。
森の入口に立っているには、あまりにも場違いすぎるフリル付きのゴスロリ服。
そして白い肌。
長い銀髪は腰近くまで流れ、その隙間から覗く瞳の深紅に、ぞわりと背筋が粟立つ。
可愛いが、どう見ても不審者だ。
「……」
誰も言わない
だが全員が思っていた。
――怖。
「どー?
リッチの働きは。」
「まあまあっすね。
アンデッドドッグの郵送量を増やしたいとこっすね。」
リッチのカカシとしての働きは並だ。
正直あってもなくてもカラス被害に違いはあんまりない。
近所のじいちゃんがびっくりして腰を抜かしたくらいだ。
ダンジョンは、そこそこ広くなっていた。
森の広場では、生徒が思い思いに過ごしている。
木陰で休む者。都市では見ない“ただ休むための休息”が逆に新鮮なのだろう。
魔術の練習をしている者。火花が散り、風が揺れている。
「ここ、思ったより落ち着くな……」
誰かの呟きが風に溶ける。
──まあ、ダンジョンフロアなんだけどさ。
一見するとそこはただの森だが、だが立派なダンジョン。
環境に擬態する特殊構造である、領域指定型。
バレにくいがバレたら防衛もしづらく、コストもクソ高い。
エルディアがセコセコDPをリリに献上して作らせたロマン階層。
「お客様たくさんきてるけど、大ジョーブ?」
「お任せ下さい。
姉御の親しくしてる学生さん達に、精霊の契約をあてがえばいいんですよね?」
「そうそう
でも暗くない?
なんか。」
「以前姉御と闇属性を召喚しまくったせいで属性が偏ってるんすよ。」
「殺せばいーじゃん……
必要時にまた呼び出せば」
「ひど!!!」
闇属性の精霊達や魔物達が、リリの後ろに隠れた。
みんな怯えていた。
「姉御の悪魔!!」
「いや、魔族はあなただから。」
あー愛着持っちゃったのね。
リリはしゃがみ込み、そっと手を伸ばしていた。
……うーむテイムバグかな?
精霊契約自体の難易度は、高くない。
精霊は魔力に干渉する存在
契約するだけで、魔力に関する能力にバフがかかる。
足りないのは機会だ。
あらゆる魔力運用能力に補正がかかる故に、貴族に機会が独占される。
結果。
平民は“契約の場”そのものに辿り着けない。
──本来ならば。
森の一角。
椅子と机の簡易契約スペース。
「じゃ、次の人ー。
属性希望ある?」
「え?
あ、風……?」
「リリ。どうぞ。」
「了解っす。」
闇属性の魔族が、風属性精霊を呼び出していた。
明らかにおかしかった。
何がおかしいか逆に整理できないくらいおかしい。
なぜこんなにも精霊が生息しているのか。
なぜこんなにも簡単に精霊を使役する者がいるのか。
このリリという少女はなんなのか。
──そして、なぜ本当に精霊契約ができてしまっているのか。
──DPはレベル上げの過程でたんまり溜め込んである。
魔物の殺害数=DP。
エルディアは、日々ダンジョンにサーチアンドデストロイに出かけ、それを全てリリのダンジョンコアに食わせていた。
30人程度の学生へ、適性に合わせた精霊を用意するくらいのDPなら余裕である。
さらにエルディアはリリに伝えていた。
──あの伝説の術式を。
すなわち《高速省略型・条件提示式・最低限相互利益契約》。
訳してQSB。
ただそれを伝えた時リリが変な事を言っていた。
『姉御、どんな状態でもこれは開発するんですね。
やっぱりイカれてますね。』
「よしみんな!
大体問題なく精霊と契約できたわね!!
できてない人は焦らずともよし!
シェイドや、サラマンダーと言った、形ある精霊を使役するのはまだむりだけど、下級精霊ならすぐできると思うから。」
ダンジョンの芳醇な魔力。
そして正しい精霊との対話方法を学べば、さほど時間はかからず契約は叶うだろう。
──全く誰だろうか。
(精霊を魔力で威圧して、いうこと聞かせるなんてやばい事を言ってる奴は!!)
──私だ!!
シェイドはそんな邪念の塊である私とも契約してくれた数少ない精霊。
大事にしなければ!
クソよえーけど!!!
エルディアの影で、シェイドがちょっと傷ついた感じでぷるぷるしていた。
それでも離れないのがQSB契約の、少し歪で、少し優しいところだろう。
カトレアがいう。
「でもエルディア。
私達は、精霊魔術が専門ではありませんよ。
ここから先は専門家の教えが必要になります……」
「それも任せて。
助っ人用意したから!」
「助っ人?」
その瞬間。
森の奥から、ひらひらと手を振る人影。
「ういーす。」
「な、なんでアルト様がここに!?!?」
人はこれをコネという。
確かにEクラスは走り始めた。
どうせ落ちこぼれ。
どうせEクラス。
そんな空気が確かにあって、どこか冷めていた。
けど、今は違う。
精霊契約。
学年三位の教え。
意味不明な行動力。
めちゃくちゃだった。
全てめちゃくちゃだったが、だが確かにEクラスは、走り始めていた。
そう思えるくらいには
確かに何かが変わり始めていた。




