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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
王都ダンジョンあれこれ

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154話 ダンジョン2

大広間の中央、涸れた噴水の跡。

そこに突き立っていたのは、一振りの大剣だった。


刀身は黒曜石のように黒く、しかしその表面には霜のような白い結晶がびっしりと這い回っている。


エルディアの指先で、魔法陣が急に激しく明滅していた。


「――ここ。オメガ粒子の濃度、ここだけ突出して高い。

異常値だ。

オメガ粒子の結晶化……

しかも自然発生じゃない、明らかに人為的な圧縮痕がある……!」


「姉御、待つっす」


「待たない」


ゴツン。


「あだっ」


「サンプルより先に自分の頭の心配をしろ、寄生虫が湧いておるかもしれんぞ」


「わいてるわけないでしょ。

ねえ触らせてよ……お願い触らせて……

そして近くで見せて……ねえ、いいでしょ……」


「やめんか!!気蝕悪い!!」


「……ガーディアンっすね。水路に運ばれたものを仕留める役目です。」


「へー。

罠の配置とか考えているのね。結構。

難しかったからねー」


「そもそも、あの謎解きは、全員溶けるはずっすけどね!!

くるっすよ。

ガーディアンが顕現します!」


いつの間にか出現したのか、地に立つ大剣の柄を掴む姿があった。


鎧の意匠は朽ちかけていたが、まだ判別できる。

以前にリリの部下だった男が身につけていたものだ。


腰から下は、もう人の形をしていない。

胴体はそのまま刀身へと融け込み、まるで最初から一つの武器であったかのように、肉と鋼と氷の境目が消えていた。


「……りり、さま」


声が漏れた。掠れて、水の底から響くような声だった。


リリが一歩、後ずさった。


(ガロ……)


「ずっと、待って、ました……

あなたが、また、来て、くれるのを」


半開きの目が、ゆっくりとリリの方へ動いた。


「――なぜ、助けに来なかった、んすか。

なぜ、あの時、俺たちを、置いて……

……いや、違う。

待っていた、それでいい。

また、会えた、それでいい……」


恨みと歓喜が同じ声の中で交互に浮かんでは消える。


ゴルドが静かに大剣の柄に手をかけた。


「――リリ殿。

所縁のある相手かもしれぬが、あれは、もう……」


「わかってるっす。」


リリの声は落ち着いていたが、その手はきつく握りしめられていた。


彼は大剣を地面からゆっくり引き抜いた。

刀身全体から、青白い粒子がゆらりと立ち上る。


どごおおおお!!!!!


そして、男をエルディアはぶっ潰した。

ミノタウロス・オメガの一撃だ。




「――はい?」


リリの声が裏返った。


エルディアが軽く指を鳴らした、その一瞬後。

床に展開した漆黒の魔法陣から、天井に届くかという巨躯が出現した。


牛頭の顔には眼窩に虚ろな紫の炎が灯り、腐敗と結晶が入り混じった筋肉が、生きていた頃の面影を辛うじて残す。


ぶおおおお!!!!!


「オメガ。うるさい」


ぶもお……


エルディアの声は、なんでもないことのように軽かった。


召喚されたアンデッドは咆哮一つ上げると、迷いなく大剣――否、大剣に融け込んだ男へと再度巨大な拳を叩きつけた。


ゴッ、という重い音とともに、氷の刀身が粉々に砕け散る。

半開きだった目も、掠れた声も、その一撃で完全に沈黙した。


しん、と静寂が落ちた。


「……」


「……」


「……緒──」


リリが真っ先に我に返った。


「な、なにしてくれてんすか!!話の途中だったっすよね!?

今まさに、いいとこだったのに!!」


「ん? ああ、感傷はパスで。」


エルディアはあっさりと言った。


「もうサンプルはとれたし。

これ以上喋らせても、感傷的な繰り返しにしかならないし。

それに――」


エルディアの目が、ミノタウロスの拳の下、粉々になった氷の残骸へと向いた。




「外側を潰しただけ。中身が出てくるよ。」


エルディアが舌打ちしたように言うと、指先の魔法陣に映る数値が、桁を変えながら跳ね上がっていく。


「――さむっ!?」


リリが自分の肩を抱いた。


ピシリ、と壁の一部が凍りつく音がした。

続けて、天井から下がっていた蔦や苔が、瞬く間に白く覆われていく。

息を吐くと、白い塊になって視界の中に漂った。


「な、なんすかこれ!さっきまでこんなんじゃ……」


「体感で、もう氷点下だな。」


ゴルドが吐く息も白く染まりながら、大剣を油断なく構え直した。


「リリは《《循環型温熱結界《スピリット・サーマル・ネットワーク》》!!温度管理をして、生存圏を保って!!」


「そんな持たないっすよ!?!?

仮に温度を下げているのがオメガ粒子なら。それは精霊の動きすら制限するっす!!」


「いいから時間を稼いで!!

ゴルドは突撃。

私が決める。短期決戦。いくよ!!!」


ゴルドが無言で大剣を構え直す気配に、リリは小さく息を吐いた。


「わかったっす……!!やるしかない!!

――展開!《《循環型温熱結界《スピリット・サーマル・ネットワーク》》!!」


リリが両手を大きく開いた。指先から淡い緑色の光が糸のように伸び、床、壁、天井へと蜘蛛の巣状に広がっていく。


光の網が室内全体を覆った瞬間、凍りついていく空気の中に、かろうじて"暖かい層"が生まれる。息の白さがわずかに薄れた。


「――うおおおおお!!!!」


ゴルドが吠えると同時に、床を蹴った。


巨体のミノタウロス・オメガの脇をすり抜け、氷の粒子が渦巻く中心。

巨大な"目"へ向かって、真一文字に大剣を振りかぶる。


刃が"目"の表面に触れた瞬間、金属同士がぶつかるような硬い音と共に、衝撃波が周囲に広がった。ゴルドの足元の床がひび割れる。


「――硬いな!」


「そのまま押し込んで!! 斬るんじゃなく、"抉じ開ける"イメージでっす!!」


リリが網を維持しながら叫んだ。汗が氷の粒になって頬を伝う。


エルディアの魔法陣が、限界まで光度を増していく。


「粒子構造、解析完了……

起動条件、逆算、完了……」


彼女の指先に、小さな、けれど異様に密度の高い光の球が生まれていく。


「――決めるよ。」


その声だけが、凍てつく大広間の中で、やけに落ち着いていた。



領域魔術『不冬式術式・疑似《パクリ》』。


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