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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔王様の謁見に向かって

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149話 魔王様との謁見

一同は跪いていた。

魔王が、静かに周囲を睥睨し告げた。


「まあいい。

代理戦争の裁定に入ろう。」



◆



魔王ザガン。


力と知に優れ、無駄を嫌うと称される。

 

魔王ザガンが、玉座の手すりに頬杖をついた。


「此度のエルディアとの代理戦争、ベルクの敗北によって、魔の森の研究一式は正式にエルディアに帰属する。

これは魔族の決闘法における当然の帰結だ。

アステルの潜在能力は、俺に比肩する。

羽虫が勝てる相手ではなかった。

まさか真っ向から戦い、倒すとはな。」


「……御意。」


リリは言葉を発した。それだけだった。


魔王ザガンは、エルディアを見た。

頭を下げ、膝まづいているが反省しているようには、あまり見えない


──こいつは俺が相手だとして、急に礼儀正しくはならない。


(こいつは門番だからといって遠慮せず

魔族相手でも遠慮せず

彼我の力の差があろとと遠慮しない。

こいつが何を作り、そして何を壊すのか興味がないといえば、それは嘘になるか。)


「……三十年前か。

俺は死にかけていたベルクを治療し、その処置の中でベルクの肉体のみを魔族に変化させた。

以後、奴は魔族としてその身を捧げた。」


魔王はそこで言葉を切り、視線は玉座の先の誰もいない虚空の一点に落ちる。


ベルクに対して情がないわけではなかった


人間どもに使われ、愛する者を失ったその慟哭は、飼い主である人間の手を払うにあまりあるものだった。


「奴は自分で選んだ。

魔族として生きることを。

代理戦争で羽虫と戦い、そして負けたことも奴自身が選び取った結末なのだろう。

……なら結末は結末として処理する。

羽虫、そろそろ顔を上げろ。

そもそも反省してないだろ貴様。」


「……してまーす。」


「2度は言わぬ。」


そしてエルディアは顔を上げる。


「ふ。相変わらず厚い面のかわをしているな。」


「いえ。ピチピチの少女です。」


その発言に、ゴルドは声を張り上げた。


「貴様!!」


「良い。

反省の概念を持たないものに反省をさせることなど無意味の極みだ。

話を進めよう。」


「はっ!!」


魔王の目が、細まる。


「羽虫。

ベルクのその執着。

ただの財産として持て余す気はないのだろう?」


「……当然よ。

あれは道具じゃない。

使いこなしてなんぼの代物。」


「ならばいい。

よし。罪人をしょっぴけ。」


「……え?」


「――逃げ出せば意味は分かっているな、羽虫。」


「じゃなくて意味が……」


「貴様、先刻に俺の城の城壁をぶっ壊しただろうが。

それは先の件とは別だ。」


「ええええ!?!?」


そしてエルディアはドナドナされていった。


「えええー流してくれる空気だったじゃん!!!!」


そんな空気などない。



◆



謁見室にはリリをはじめ、数人が残された。


魔王は改めてリリに視線を向ける。


「リリ・ヴァルフェリア。

貴様に問う。

エルディアは、制御できると思うか?

虚偽は許さぬ。」


リリは固まる。

じっとりと汗が滲んでいた。


──ふむ。かなり入れ込んでいるな。


(エルディアはそれほど危険か。

リリは260年生きている。

奴はせいぜい16かそこら。

リリは俺から逃げたにも関わらず、リリがふたたび俺の前に立つのは奴のためと見ていい。

リリがエルディア側に立つこと。それは自体はいい。)


──なぜ大魔族であるリリがわずか16の人間のエルディアを慕い、エルディアの為に命をかける?

──それだけが解せぬ。


「不可能です……

全く制御できないわけではない。

ですが、必要なら誰に対しても自分の道理を通す。

『誰に対しても』です。」


「……ふむ。

ならば、王都ダンジョンを制御できねば、奴は死ぬことになるな。

そして仮に制御に成功しても、そこまでだ。

処理することになるだろう。」


「はっ……」


「……奴に恩があるのではないのか?リリ。

忠誠に近い程の敬意。

雇用契約を結んでいるにしても重すぎるか……」


「延命に意味はないと、姉御はきっとそう言います。」


「そうか。

いずれにしてもベルクの30年は奴に引き継がれた。

考え得る限りもっとも乱暴な引き継ぎだがな。

楽しみにしているよ。

奴が俺の前に立つ時を。」


裁定は下された。


ベルクのあらゆる研究結果、施設はエルディアに帰属する。

また監視のために、数名、魔王の手のものがエルディアの配下に入ることになる。



◆


さらにリリが退出。

裁定を終えた魔王の前に、ゾルグが進み出た。


「魔王様。

一点、上申したき儀がございます。

リリ・ヴァルフェリアについてです。」


魔王の目が、わずかに細まった。


「――続けよ。」


「――リリを、処理いたしますか?」


「様子見だな。

以前のリリとは、明らかに別物だ。」


ゾルグの筆が、止まった。


「……別物とは?」


「30年ほどか。

リリが行方を絡ましていた期間は。

その期間に何をしていたかは、俺は知らぬ。

だが戻ってきた奴からは、以前とは異なる質の魔力を感じる。

戦って得た強さというよりも、生き延びて削られて残った強さだ。

――以前のやつとは、あまりに一致しない。」


「……離反の最中に、何かがあったと。」


「おそらくな。

奴が何を見て、何を失ってきたのか。

見当もつかないほどに。

だが一つだけ分かる事がある。」


魔王は、頬杖をつき直した。


「――今のリリを処理するには、俺が本気を出す必要がある。

俺が本気を出すという事は、この世界が消し飛びかねんという事だ。

先のベルクと羽虫の一件など、児戯にすら及ばん規模でな。」


「……リリ・ヴァルフェリアが魔王様に匹敵すると……」


「――加えて、もう一つ。」


魔王は、頬杖をついたまま続けた。


「羽虫だ。」


「エルディアが、何か。」


「羽虫は情で動く。

羽虫という楔さえ健在であれば、リリがどれほどイレギュラーだろうが、俺の描いた盤の外には出ぬ。」


「ならば。リリは生かしておく方が、こちらにとって都合が良い。」


「そうだ。

羽虫は理屈と好奇心で世界を測ろうとするが、その根の部分は、存外に単純な情で出来ている。

制御は無理でも、行動は予測が容易い。」


ゾルグは、しばし沈黙した。


「エルディア監視役の人選について、御裁可を頂きたく。」


「言ってみろ。」


「候補は数名おりますが……

儂としては、ゴルドを推挙いたします。」


「奴は先の戦いで敗れた側だろう。

敗者を送り込むのか。

……つまり、鎖ではなく、隣に置け、と。」


魔王が、口の端をわずかに上げた。


「隠居はどのみち早すぎたのだ、ゴルドには。

――許可する。

奴を、魔の森付き護衛とせよ。」


「はっ。」


三十年の忠義は、こうして牢屋の外で、新たな役目に姿を変えた。



◆



ゴルドに、ゾルグが淡々と辞令を読み上げた。


「――というわけで、貴殿は本日付で、魔の森研究施設付き護衛に転属となる。」


「聞こえは良いが、要は儂があの小娘の子守だと言いたいのだろう!!」


「よくわかっておるではないか。」


「わかりとうなかったわ!!」


ゴルドの叫びは、執務室の外まで響いたという。


「さて、ゴルド。

貴様はこれから大きな役目がある。」


「小娘の警備であろう。わかっておる。」


「ちがう。」


そしてゾルグはそれを言った。


「奴を見極めよ。貴殿の送別会を開く。」



ん?

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