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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
魔王様の謁見に向かって

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144話 疑惑

「アルト氏。

感謝するっす。

クマが復活したっす。」


お店から出るなり、リリは言った。


何度も抱きしめては確認している。


「いや、それくらいいーよ。

だけど、復活と言っても、残ってた綿を新しい熊の綿に混ぜただけだけどいいのか?

きいてねー……」


「次はあの店っすね。」


リリはアルトを引っ張り始めた。


リリは悪魔であり、ウインドリィ家の監視を許す代わりに、定期的にファンシーグッズを求めていた。




エルディアは鞄の紐を締める手を、途中で止めた。


視線が、自分の腕――アステルとの戦いで傷を負った箇所に落ちる。

親指でそこをなぞる。


(リリは暢気でいいね。

……いや、違うか。)


リリの領域魔術『ファンシーショッピングモール』は、彼女が所持するファンシーグッズの数に比例して強度を増す。

可愛いだけの雑貨も、使い古されたぬいぐるみも、リリにとっては全て火力であり装甲であり、生存確率そのものだ。


(つまりあの熊も、ただの趣味じゃなくて弾薬なんだよな。

悪魔のくせに義理堅いというか、律儀に集めてる。)


だから今リリがアルトの財布を引きずり回してる光景は、暢気な買い物ではなく、れっきとした戦力増強行動だ。


遠くで、リリがぬいぐるみを両手いっぱいに抱えてはしゃいでいるのが見える。

エルディアの口の端が、皮肉げに一瞬だけ上がって、すぐ消えた。


──そもそも私は自前の武器を持ってない。


(……なくはない。

それは闇属性適正と刻印魔術と魔術分析能力だ

だけど戦闘でも、研究でも、私は今のところ「誰かの土台の上」でしか戦えてない。)


私は、私自身の領域魔術を作らねばならない。


ベンチに座っていたエルディアは『それ』を見上げた。


(まあパクるか。

領域魔術、戦術迷宮《タクティカル・ラビリンス》・冥府耕作結界《ラストハーベスト》はリッチの領域魔術。

夢幻百貨店《ファンシー・ショッピングモール》はリリの領域魔術。

あるものをパクるのは得意だから。)


『それ』は天を貫く塔の形をしており、『万象を廻す春環《ヴァーナル・プロトコル》』と呼ばれた。


何百年ものあいだ大陸を守ってきた人類の奇跡であり、冬を終わらせた偉大な術式。


『不冬律術式』。

大陸を覆う領域魔術の完成形。



◆



『不冬律術式なくば、オメガ粒子が蔓延し、我らは今も長き冬の底に沈んでいただろう』


大陸暦にはそう記される。

かつて世界を覆った冬は、オメガ粒子の中和が間に合わなかった事で起きたと言われている。


それを終わらせたのが、たった一人の魔術師ファティマ・エラが遺した術式――不冬律術式。


以来数百年、大陸に本物の冬は訪れていない。



「ふ……」


エルディアは悟った。


(……これが世界最高領域魔術。不冬律術式。

壊れず、

止まらず、

何百年も大陸規模で動き続け、冬を遠ざけてきた。)


全然わからん。




遠くから鐘の音が届いて、エルディアはわたわたと資料を片付け始めた。


刻限だ。


ベルクとの決闘の報告を魔王様にするために、魔王城へ行かねばならない。


けれど、最後にもう一度だけ空を見た。

巨大な光の環が、今日も静かに大陸を巡っている。


天才っているもんだ。


スケールがちげーや。





魔の森のショッピングモール。

コアルームはダンジョン機能があり、転移設備がある。


「うーす。帰ってこれたね。お疲れ。

リリはファンシーグッズの補充は終わったね。んじゃ、転移の前にそのクマ売り払っていい??」


リリの後ろには、紙袋がおよそ十数個。

さらに段ボール箱がタワー。


(リリの領域魔術の強度は、ファンシーグッズの「所持数」に比例する。

本当のロジックは「大事にしてるかどうか」なのかもしれないが、持ち主の感情そのものが強度に変換されている。

ぬいぐるみ自体の強度はゴミなんだけど。)


リリはクマを守るように抱きしめていた。


「ダメに決まってるじゃないっすか。

これからベルクとの代理戦争の報告に魔王城にいくんすよ?

姉御は決して私物には触れないでください。

絶対に。」


「どんだけ悲しかったのよ……あなた……」


「人でなしで、数字でしか物事を考えない姉御にはわからないっす。

ぐっすん。」


リリは半べそだったので、さすがのエルディアも悪い事したなと思った。


その後、リリは転移陣の調整をはじめた。

てこずっているのか、汗を拭いている。


「実は先日から転移陣の魔力バッファの容量調整だけがうまくいってないっす。

起動した瞬間に陣が息切れして、変なとこに転移しかねないっすけど……あ、聞いてない……」


エルディアの目は、コアルームの窓越しに見える空の虹の残像を追いかけたまま止まっている。


──『万象を廻す春環《ヴァーナル・プロトコル》』。

そしてそれが展開する領域魔術『不冬律術式』


(数百年動き続ける術式に「愛着」なんて概念、あるわけない。

『あれ』は純粋な構造と出力の化け物だ。

でも、リリの魔術は、持ち主の感情そのものが強度に変換されてる。)


エルディアは紙を取り出して勢いのままに書きなぐる。


(巨大な構造自体が、超広範囲な送受信装置になっているとしたら、まさか街の人々の日常そのものをエネルギー源や情報源にしてる?

仮に意思や情報を集めるとしたら、リリの領域構造と酷似している形になる。)


さらに首を傾げる。


(そもそも、王都は年々人口も増えてる。

感情の総体が出力に影響して冬を遠ざけるなら、効果は逆に安定してそうなもんだけど、年々、塔の光も心なしか強くなってる気がする

……おかしくない?

オメガ粒子の中和量が増えてるってことになるんだけど?

人口も精霊も増えて出力の総体が増すなら、逆にオメガ粒子は減りそうなもんだけど……)


──オメガ粒子を中和とは?


「姉御。転移するっすよ。

ちょっと座標ズレるかもっす。」


エルディアは、見た。


「え、なに、どうし――」


轟音と共に光が収縮し、二人の姿がその中心に消えた。




光が収まると同時に、肌を刺すような冷たい空気が頬を撫でた。


「……さぶ」


エルディアは目を開ける。

そこは天頂が見えないほど高い、塔が立っていた。

壁一面に、見覚えのある紋様が幾重にも刻まれている。

体を抱いて温める。


「これ……『万象を廻す春環《ヴァーナル・プロトコル》』?」


「魔族間では、『天照《アマテラス)』って呼ばれてるっすね。」




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