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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
間章

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144/168

143話 ●●と、とある一つの終わり

「始めるでござるよ。

アステル殿もよろしいでござるか?」


「……いいですよ。

自分で決めたので。」


アステルは小さく笑う。


オズワルドの指先から黒い糸のような気配が伸びていく。

円陣の外側でエルディアが、静かに見守っていた。


紋様が、深く沈み込むように輝きを増していく。


「――呼び声よ届け。

30年前、この地に消えた聖獣の魂。

輪郭、まだそこにあるならば。」


オズワルドの詠唱が低く響き、アステルの体が僅かに震えた。


「……っ。」


やがてアステルの瞳の色が変わった。

言葉にならない何かが、その瞳を満たしていく。



◆



監獄の独房。

鉄格子の向こう。

ベルクは、壁に寄りかかったまま動かなかった。


足音が近づいてくる。


「……何の用だ。」


溜息をつくように、ベルクはそう答えた。

顔をあげすらしない。


「――久しぶり。」


「……!?」


その声にベルクの体が凍りついた。


おそるおそると顔を上げると、アステルの姿を纏った、けれど確かに違う誰かがそこに立っていた。


「……アステル……

いや違うのか……まさか……『お前』なのか……」


「うん。」


その瞳が静かに彼を見つめる。


「久しぶりだね。ベルク。

――ずいぶん、待たせたね。」


ベルクは鉄格子に、縋りつくように手を伸ばした。


「どうして……

ありえん……どうして……こんな……事が……」


「……」


彼女は寂しげに微笑んでいた。


「――すまない……本当に、すまない……

俺は、ずっと……

守れなかった……

1人にしないと約束したのに……」


「ベルク。」


その声は、とても静かで優しかった。

そしてどこか、悲しかった。


「もう、いいんだよ。」


「……何が……」


「あなたが探してたのは、もういない私。

私はあの夜、確かに消えた。

今ここにいるのは、ほんの少しの時間だけあなたの娘を借りている輪郭にすぎない。」


「……」


「あなたが、続けてきたこと。

トゥーラも、アステルも、他のたくさんの子たちにしたこと。

――私はそれを喜べない。

一つも。」


ベルクの肩が震える。


「……悪かった……本当に……」


「謝る相手が違うよ。

あの子達に。

それから、あなた自身に。」


長い沈黙。


「……もう時間、ないみたい。」


瞳の色が、揺らぎ始める。


「最後に、一つだけ。

笑ってよ。ベルク」


「――俺は失ってしまった。何もかもを……

笑えるわけが……」


「ベルク。

あの時も私達は何もなかった。

何もなかったんだよ。

でも笑ってたじゃん。

あの時と同じ顔してるよ。

道がわからない。

先なんてない。

だけど。」


輪郭が揺らめき、薄れていく。


「一人は怖いよ……ベルク」


困ったように。彼はひねくれて笑った。


「俺もだよ●●

一人にはしないよ。

約束したろ。」


◆



アステル自身の意識が静かに戻ってくる。


――さようなら。


それが声に出される事はなく、最後の声が独房に溶けることなく消えた。

アステルがその場に崩れるように座り込む。


「……終わりました。」


ベルクは、鉄格子の前で崩れ落ちたまま動かなかった。


「……余計なお世話を。」


「やっぱバレてた?」


物陰から、エルディアがひょこっと姿を現す。

その声は静かに笑っていた。


「当たり前だ。

彼女は死んだ。

こんなバカげた事を考え、非現実的な事を実現させてしまうのは貴様くらいだろう。

お節介女め。

俺が因子に目覚めたということは、彼女の魂は、俺のそばにあったのだ……ずっと……

それは、見つからないわけだ……」


ベルクの口から、乾いた笑いが漏れる。

エルディアは肩をすくめた。


「……夢は見れた?」


「――夢から、覚めたよ。」


ベルクの顔が、くしゃりと歪んでいた。


「別に、あんたに同情したわけじゃない。

あんたがどうなろうと興味ない。

あんたはこれから国の道具にされる。一生使い潰される。

だけど、研究が終わったよって、ちゃんと教えてあげたかった。

あんたはクソ野郎だけど、研究は本物だ。それに掛ける想いも。」


エルディアは思いのほか真剣な顔をしていた。


「あんたほどの、腕、才能。

30年を幻に注ぎ込めるほどの執念深さ。

このまま何にも気づかずに腐っていくのは、勿体ないなって」


「……傷口に塩をぬるか……

みっともない男の、くだらない無為なあがきに」


「夢から覚めたんでしょ。」


「……」


「あんたがこれからどう償うのか。

何を思うのか。

そんなの、知ったこっちゃない。

ただ夢から覚めたなら、あとは自分で何とかしなよ。」


それだけあっけらかんと告げて。

エルディアは踵を返した。


振り返らずに独房を後にする。


アステルも少し迷う素振りを見せたが、それに続いた。


残されたベルクは、崩れ落ちたまま長い間、動かなかった。




顔を覆うその手の隙間からは、涙が伝っていた。





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