141話 表彰式2
エルディアの目が少しだけ真剣な色を帯びる。
「《循環型温熱結界》
アスがあんな大舞台で、あれだけの規模で披露した。仕組みも難しくないし、絶対に仕パクるやつが出てくるに決まってる。
その前に法的に完全に囲ってやる。
どんな金でも積み上げてやるんだから。
表彰式なんて、誰か適当にやってくれればいー。」
アルトはしばらく黙って串焼きを見つめていた。
「――先生が、表彰式は病み上がりで代わりに、立ってるらしいぜ。
優勝カップを一人で抱えて。」
「まあ、いいんじゃない?
私の名前すら最後まで覚えなかったくそみたいな顧問だけど、全国大会優勝チームの顧問っていうステータスを手に入ったんだし、それで煩わしい事全部やってくれるなら、全面的に支持するよ。」
「身も蓋もねーな……」
「アルト。
これでようやくスタートラインだ。
誰でも越えられる冬が手に入るためのスタートラインにこれで立てる。
それは優勝カップより、よっぽど価値がある。
二度と冬で人を殺させてやるもんか。」
くぅん、とポチが鳴いた。
「――さ、行こっか。」
アルトは肩をすくめた。
「付き合うぜ。」
「もち。
頼りにしてる。
そもそもアルトがいないと権力が足りなくて特許区は門前払いだ。
わたしゃー平民よ。」
意気揚々と向かった先。
――『本日、休業』
扉に貼り紙が一枚。
「……は?
え?
噓でしょ。」
「――ああ、それなら。」
通りがかった、職員らしき人物が足を止めた。
「大会期間中は、こちら休業なんですよ。
みんな警備とか、運営に駆り出されてまして。
再開は来週からですね。」
エルディアは激しくその場に崩れ落ちた。
「ぶっちした表彰式より待ち時間があるじゃんこれ!!!」
アルトは、そっとエルディアの肩に手を置いた。
「ドンマイ。」
「ドンマイじゃないから!!!!
きーーー!!!!
今すぐここの職員を拉致した後で頭の中に直接、私の発明の素晴らしさを叩き込みたいんだけど!!」
「犯罪だろ、やめとけ。
二度と話を聞いてもらえなくなるぞ。
それに多分、職員はここにはいねえ。
休みだから。」
くぅん、とポチがエルディアの足に頭を擦り付けた。
いつもの三割増しでポチをエルディアは撫でまくる。
アニマルセラピーだ。
「くっ……
――しゃーない。
待つしかないのか。
血の涙が出るけど、待てばいいだけのよね!!!!
たかだか数日!!
……死なない。
……絶対死なないから!
呼吸にしたら20×60×24×3=86400回くらい!!」
「せっかちすぎる……
いや、死なねーだろ。」
行くあてもなく、二人と一匹はなんとなく来た道を戻っていた。
気づけば闘技場の外周。
歓声が、また大きく聞こえてくる。
「終わりだな。見てくか?せっかくだし」
「折角だしね。
折角だから。
しぶしぶしぶしぶ。」
人だかりの隙間、遠目に見えた。
特設の表彰台。
杖を握りしめた顧問が優勝カップを両手で抱えたまま「顧問」は、カップを掲げようとして盛大によろけていた。
「うおっ……!?」
観客席から悲鳴とも歓声ともつかない声。
「大丈夫か先生ー!!」
「無理しないでー!!」
「先生ー!!」
エルディアが、足を止める。
それは、ほんの少しの間だった。ほんの少しの。
「エルディア。」
「ん?」
「優勝おめでとう。すげえよ。」
「……ん。
みんなのおかげだよ
……それより先生にはちょっと悪いことしたかな、って思ったけどあの様子じゃ追加の言い訳はいらなそうじゃん。」
「そもそもぶっちすんな。」
「だりーし。」
くぅん、とポチが鳴いた。
エルディアは顔をあげて『そちら』を見る。
人だかりの少し先。
控え室に続く回廊の入り口。
その扉の隙間から一瞬だけ、見えた気がした。
寄り添う二つの影を。
エルディアは、それを見て目を細めた。
「……ま。
それぞれがそれぞれで、いいんじゃない。
頑張ってね……」
「何の話だ?」
「別に。
――行こ。
特許庁がまだ開いてないなら、たまの王都だし、時間潰せるとこを探そーよ。」
背を向けて、歩き出す。
かかる声があった。
「あ、エルディアがいましたわ。アス!!
やらかしすぎて、罪状が限界突破してる、犯罪者がいましたわよ!!
アルトさんとデートしてる!!」
「う、うん。
デートなのかなー?
アルト様とエルディアって、いつもあんな感じじゃない?」
そしてアスはふらっとよろけた。
アスもまた、試合後の疲労で重症だからだ。
それをカトレアは支える。
「ほら!!
誰かの無茶振りで重症患者が死にかけてますわよエルディア!!」
「うるせー」
言いながらエルディアは笑っていた。
「行くのか?」
「うん。アルトも行こ。
みんなで王都をまわろうよ。」
「だな。」
表彰台では、頼まれた大人が。
回廊の奥では、寄り添う姉妹が。
そして雑踏の中では、優勝に興味がない優勝者が。
同じ日、同じ歓声を、それぞれの場所で聞いていた。
歓声は、まだ鳴り止まない。
――だがその音を背に、エルディアはもう次の場所へと歩き出していた。
王国魔術学院総合競技祭
優勝──アーカム魔術学院。
数日後、エルディアはお礼参りを兼ねて、医務院を訪れていた。




