140話 表彰式
闘技場中央、特設の表彰台。
「まもなく、閉会式ならびに表彰式を執り行います
それでは――各選手団、入場をお願いいたします!!」
場内アナウンスが響くと、ざわめきが徐々に静まっていく。
観客の視線は、自然と一組の入場に集中した。
――優勝校、アーカム魔術学院。
「あれ……エルディア選手は?」
闘技場中央、特設の表彰台。
歓声はまだ、鳴り止まない。
「――優勝、アーカム魔術学院!!
選手代表、エルディア選手の登壇を――」
司会の声が、途切れる。
登壇してきたのは杖を、握りしめた、顧問だった。
「……あれは……先生……?」
「エルディアは……?」
司会が、原稿を、握りしめたまま、視線を、彷徨わせる。
表彰式は進行していた。
まだ痺れの残る足を、一歩また一歩と進めながら、顧問は胸の内でひとりごちていた。
(優勝、か……)
毒に倒れてから今まで、記憶は途切れ途切れだ。
だが、覚えている。
生徒たちが、誰一人として音を上げなかったこと。
自分が寝込んでいる間も、あいつらは戦い続けていたということを。
(リリアも、ライゼルトも、ディオンも、リシェルも……
みんな、俺の知らないところで、ちゃんと強くなっていた)
(柄じゃないんだがな、こういうのは)
見せてやる。
教師ってのは、どんな時でも生徒の代わりに、胸を張れる大人のことだってな
時は少しさかのぼり、医務室。
「――先生。
先生、起きてください。
起きてくださいってば!!」
カトレアが、顧問の肩、遠慮なく揺さぶっていた。
「……ここ、は……?」
「医務室です。
毒を喰らって、丸一日以上寝ていたんすよ先生!!」
声の主は、アスだった。
「毒……
そうだ……
俺はたしか……
――大会は……?」
「終わりました。
優勝、アーカムです。」
「な……!?
うおっ……!?」
「無理しないでください。
それより先生、病み上がりで申し訳ないのですが実は一個だけお願いがありまして。
表彰式、出てもらえます?
他の選手はみんな、まだ寝込んでます。先生しか立てる大人がいないんです。」
顧問の目に、静かな決意の炎が灯る。
「行くぞ。
――優勝カップを俺が受け取ってやる。
まだ寝ているこいつらの分まで、な。」
その足取りは、まだ少しふらついていたけれど、誰も止めることはできなかった。
カトレアは思った。
ちょろい。
それに、差別主義でなければいい先生なんだけどなー。
表彰台の裏、控え室に続く回廊。
アステルはそこにいた。トゥーラに寄り添われて。
壇上の歓声が、壁越しに、くぐもって届く。
アーカムの「先生」が優勝カップを抱える音まで、なんとなく伝わってくるようだった。
「……もう少しですよ。姉さん。」
「ありがと。
トゥーラ。」
小さく笑う。
その笑い方に、トゥーラは少しだけ目を細めた。
「――変わりましたね。
姉さん。」
「え?」
「前だったら、そうやって笑わなかった。
自分のことなんか後回しにして、周りの事ばかりだった。
今は自分の気持ちで、笑ってるというか……」
アステルは、少し驚いたようにトゥーラを見た。
それから、視線を自分の手のひらに落とす。
まだ、震えの残るその手を。
「……私たちは、ずっと過去や傷に囚われていた。
それはこれからも、同じかもしれない。
ベルクはもう、私達にはしごをかけてはくれない。
だったら、前を見ないとならない必要性からかもしれません。
ベルクがいない今、私達は、私達が歩む道を自分で決めなければなりません。」
「うん……
父さんはどうなるのかな?」
「監査院の所。
命に、別状はない。
けれど、多くの罪を犯している。生きて外に出ることはもうないでしょうね。
私達の他にも何百人という少女をベルクは犠牲にしている。
命まで失ったものも何人も……」
トゥーラは、頷いた。
「どうなっちゃうのかな……私達……」
アステルはトゥーラの頭を撫でた。
「今までも手を取り合ってきたでしょう?
『父さん』の実験はきびしかったから。
今度はそれが『未来』にかわるだけですよ。
トゥーラ。」
「うん。私達が『みんな』を守らないとね。姉さん。
もう。そんなに強く撫でないでよ。
子ども扱いしないで!」
「ふふ。」
ベルクの歩み方は間違っていた。
『一人にしない』と、ベルクは歩き続けた。
ならその彼に育てられた自分達だからこそ、今度は、自分達から隣にいることを選ぶ。
回廊の奥で扉の隙間から光が漏れている。
歓声が、また壁の向こうで大きくなる。
彼女達は支え合い、その光の向こうへ消えていった。
「――ポチ。
あそこの屋台の串焼き、うまそうじゃない?」
くぅん。
巨大な狼を連れているのでぎょっとして通行人が振り返るが、エルディアは気にせず歩く。
「よし、決まり。
表彰式より、こっちだよね。」
串焼き屋の、椅子に、腰掛けたところで。
「――いいのか?エルディア。
本当に、ぶっちして。」
アルトが、エルディアの隣に腰を下ろしながら聞いた。
「いいのいいの。
優勝は、嬉しかったよ。
でも興味ないんだよね、大会後のあれこれには。
表彰式。
みんなでやったねとか。
そんで学校への凱旋とか。
――名誉とか、そういうやつ。
優勝したことで魔術師としての実績作りは終わった。
これで、ようやくとりかかれるよ。」
エルディアは大き息を吐く。
疲れ切っているのものあるが、完全に中年の仕草。
「実績がなくて、ずっと、止まってた。
――特許。
取るよ、今から。」




