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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
アステル奪還戦

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139話 過去の清算2


トゥーラは勢いのまま地面を数メートル滑り、最後に受け身も取れずに転がって止まった。


「い、た……」


視界がぐるぐる回っている。

けれど、それも一瞬。


トゥーラは、震える手を地面につき、ゆっくりと体を起こした。




顔を上げた先――もうもうと立ち込める青白い光の中心に、ベルクの姿があった。


ベルクは崩れようとしていた。


星の文様に埋もれて。

一度、積み重ねて形にしてきた因子ではない、彼自身の力で。


その二つの力の狭間で。


その瞬間トゥーラの中で、さっきまでのおかしな悲鳴も無様な転げ方も、頭からすっと引いていく。



ベルクはすでにトゥーラを見ていた。

いつもの眼差しだ。

トゥーラを見ているようで見ていない、

あの眼差し。


「アステル計画の目的は星聖獣因子の完全な再現。

そして――30年前に、失われた個体の復元。

因子の器を変えながら適合率を上げ続ければ、いずれ完全な同化に辿り着く。

それが俺の計画だ。

いや、計画だった。」



トゥーラはゆっくりと立ち上がると、独白を続けるベルクに聞いた。


「……辿り着いた先に、何を、見るつもりだったの?」


「……彼女が、戻る。

それだけだ。

魂も、因子も、痕跡すら、残らず消えた者を、器を通じて呼び戻すことなど――

理論上不可能だ

……何度も、思った。

これは、無駄だと。戻らないと、わかっていてそれでも、止められなかった。

止まったら。」


ベルクの、手が、光の中で、微かに、震える。


「止まったら、認めることになる。

彼女が、本当に、消えたと。

何も、残っていないと。

だが、彼女はいたんだな。

他のでもない……俺と一緒に。

俺は気づかず……30年も……

なら、始末はつけないとな……」



その時トゥーラは、姉ではなくて、自分がそこにいる意味を理解した。


もちろん、因子制御の巧出はあるだろう。だがそうではない。


『空の器』が、ここにいる事が何よりも大事だったのだ。


(父さんは三十年前、偶然か必然か分からないけど、同意なく因子を押し込まれていたんだ。

先の継承の儀でその均衡が崩れた。

そして2つの因子が揃い、どちらが「本体」か、確定していない空白状態に入った。)


二つの因子が一つの椅子を取り合っているのなら、私という空の器に父の因子を継承すれば、暴走を止める事ができる!!!!


なら。


「継承の儀を開始します!!!!」


継承の儀とは、実験だ。

トゥーラは道具として、器として「継承」という名の一方通行をベルクとともに積み重ねた。


トゥーラはそれを立ち上げる。

何十回と目にしたそれを。


何百回と積み重ねてきた、父との絆そのものを。


それが歪んだ絆の結実であったとしても。



儀式の綱引きが始まっていた、

その力は、先の綱引きの比ではない。


それでもと、トゥーラは顔を上げる。


(伝えるんだ。)



ベルクは顔を上げて感情のない顔で計算する。


リリが領域魔術で星属性の魔力をとどめ、アステルが因子の力を抑えている姿が見えている。

そして継承の儀を開始するトゥーラ。


「継承か……

無駄だトゥーラ。

星属性の暴走は文字通り星の爆発に等しい。

止めることなどできぬ……

お前でも無理だ。

死ぬぞ。

逃げろ。」


「逃げない!!

逃げるわけなんてない!!!」


「……理解できぬな……」


「繰り返しちゃ、ダメだよ!

口では30年前の悲劇を繰り返さないと言いながら、私達を大事にしてたのは誰!?!?

父さんだよ!!

目を背けちゃダメなんだ!!」


「何度も言っただろう。

実験対象として」


「関係ない!!」


喉が千切れるほどに。


「私はずっと言えなかった!!

何度も言うタイミングはあったのに。

我が身可愛さに。

自分が壊れるのがこわくて!!

今度は、ちゃんと、言えた。

あの時言えなかったことが!

――だから父さんもちゃんと聞いて。」


「トゥーラ……」


ベルクは、動かなかった。

けれど紋様も、それ以上に広がらなかった。

トゥーラの声が留めるように。


「……逃げるのは、駄目だよ……

死ぬことで、終わらせるのも、駄目。

それは結局、また私たちに何も聞かずに勝手に決めることだから。」


「……」


「父さんは、また、それをやろうとしてる。

自分の中に、何が、起きてるのかも、話さずに。

一人で、決めて。

一人で、終わらせようとしてる。

――きっとそれは三十年前と同じなんだよ……」


ベルクの肩が、僅かに震えた。


「……違う。

今度は、俺が、俺自身で俺を始末する。

終わらなかったものを終わらせる事ができる。

それは、進歩だろう。」


「進歩じゃない!!

進歩じゃないよ!!!」


トゥーラの、声が、強くなる。


「巻き込まれたいの!!!!

わたしも、姉さんも。

父さんの、ことなら。

一緒に巻き込んでよ……

娘でしょ……」


紋様が、揺らぐ。

ベルクの姿が形になりはじめる。


「私は何度も言わなければならないことを言わないできた!!

今回、だけは言うことにする!!。

私の言葉で!!

もう二度とないのかもしれないから!!。

行かないでよ!!父さん!!一緒にいてよ!!!!」


涙を、拭いもせずに。


「罪があるなら生きて償って!!!!

私達を置いてきぼりにしないでよ!!!!!

一人にしないでよ!!!!」


ずっと言えなかった。

言ってはいけないと思っていたから。



息が荒い。

涙で視界がにじむ。




「……一人にしないで……か。」


ベルクは困ったように笑った。


「まさか30年ぶりにその言葉を聞くとはな」


果たせなかったその約束。

しがみついてきた想い。


その汚泥の底で彼は見る。



視界の先でベルクは、トゥーラを見ていた。

そして星属性の光を抑え込むアステルを。


妄執の結晶の設備を。


その、30年の妄執の道を。



(俺は、約束を果たせなかった。

文字通り彷徨った……

彷徨い続けた。

なら進歩とは?)



ベルクは顔を上げ、初めて手を伸ばした。


『同意』はなった。


継承は完遂される。






紋様がゆっくりと皮膚の下へ沈んでいく。

完全に消えてはいない。

けれどもう、暴走の光ではなかった。






「終わったな……エルディア。」


アルトはなんとか制御に成功し胸を撫で下ろしていた。

青白い光が、潮が引くように、ベルクの体から抜けていく。


「くそが……ベルクの野郎……最後でヘタレやがった……

あの野郎……」


エルディアは人知れず地団駄をふんでいた。


「ん?」


「ここでベルクが星属性をちゃんと暴走させれば、私がボコボコにしてベルクの星属性のサンプルゲットできたのに!!

お前には幻滅だよベルク!!!

ちっくしょー!!!!」


うわあ……


少し離れた場所で、リリがホイップクリームまみれのクマのぬいぐるみの残骸を、両手で大事そうに抱えて座り込んでいた。


「……このクマ、お気に入りだったのに……

初めてアルト氏から買ってもらった思い出のファンシーグッズだったのに……

こんな姿に……」


「引くわー」


「ひどっ!!!!」


リリは、ぬいぐるみの綿を一房、名残惜しそうに指で撫でてから、丁寧にポケットへしまい込んだ。


「新しいの買うまでの、形見っす」


「大袈裟な……どんだけ気に入ってたのよ……

わかった、わかったから。

今度、王都で一番いい店連れてくから。」


「絶対っすよ!!

指切り!!」


「子供か。260歳。」


そんなやり取りを横目にアルトは、少しだけ笑った。


「いや、何他人事みたいに笑ってんのよアルト。

あんたも来んのよ」


「……」


ですよねー





表彰式が始まる。


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