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頭がおかしくてお金が欲しいイカれた精霊魔術師エルディア  作者: 無印のカレー
アステル奪還戦

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138話 過去の清算

「バカじゃないの。」


エルディアの声だけが、その場で体温を持っていなかった。



ベルクの体が痙攣するように震え、喉の奥から獣のような呻きが漏れる。

それをエルディアは、冷めた目で見ていた。


『お前たちは道具ではなかった』。


――さっきベルクが言ったあれは、優しさに見えたかもしれないけど『綻び』だったのだろう……



膝から崩れ落ちそうな監査員たちの向こうで、星の紋様がさらに濃くベルクの皮膚を這っていく。

エルディアはその光を睨みつける


――わかってたでしょ絶対。

わかってて止まらなかったんでしょ。クソが。


(そんな難しい話じゃない。

贖罪のために、ベルクは『彼女』の因子を人工的に作り出した。

――でも皮肉なことにベルク自身の中にも、そもそも因子は眠っていたんだ。

継承の儀式を通じて、二つの因子が同じ場所に揃ってしまった。

だから、拒絶反応を起こした。)


ただ、それだけの話。


青白い光が、彼の輪郭を溶かしていく。


「衝撃波来るぞ!!伏せろ!!」


指揮官の声と同時に、監査員たちが盾を構える間もなく吹き飛ばされた。


「くっ……!?」

「隊列、崩壊!! 再編成を――」

「星属性、臨界に近づいています!!

これ以上は……!!」

「下がれ!! 巻き込まれるぞ!!」


かすり傷程度で済んでいるのは、彼らが訓練された監査院だからだ。


拘束用の魔法陣が、展開の途中でひび割れて消える。

ベルクの周囲、半径数メートルの地面が陥没し、青白い光の粒子が噴き上げていた。



エルディアは奥歯をかむ。


(と、まずい。

物思いに考察してる場合じゃなかった。

──あともって数分かな……)


星の光は拡大を始めていた。

30年前と同じように。


そして三角州と同じ範囲を灰塵と帰すだろう。

王都を中心に。

その被害は、30年前の比ではない。


「姉御!!

どうするっすか!?!?」


短く、けれど揺るぎない声でエルディアは答える。


「決まってる!!

あのクソ野郎を連れ戻す!!

リリ。出番よ!!

260年生きた大魔族としてのあなたの魔力を見せなさい!!」


リリは一瞬だけ目を見開き、それから口の端がにやりと上がる。


「ほいほい。

――領域魔術。

夢幻百貨店《ファンシー・ショッピングモール》!!」


領域が展開される。


夢幻百貨店《ファンシー・ショッピングモール》は、領域内で発生するあらゆる攻撃属性の「解釈」を書き換える。


遊園地の花火だと再定義された力は、同じ質量、同じ速度で降り注ぎながら、もう誰も殺せない。


効果は如実だ。

光の奔流は地面をクレーターに変える代わりに、巨大なホイップクリームの山を築いていた。

星属性の暴走が、目に見えて弱まる。

だがその多大な効果に反して、リリは頬を引きつらせていた。


「待ってください姉御!!

なんか私の虎の子のファンシーグッズ達が、えらくぶっ壊れてるんですけど!!!」


粉々になった陶器のティーセット。

潰れて原形をとどめていない、お気に入りのクマのぬいぐるみ。

破れて中身の綿が飛び出した、季節ごとに集めていたクッション。


エルディアは悪びれず、強く頷いた。


「アステルがぶっ壊したのよ!!

大会で、あなたの領域を私が使ったら!!」


「それ、全部姉御のせいじゃないですか!!!」


「うっせー!!

アルト!!《魔力位相同期網《マギア・フェイズ・ネットワーク》を!!!

使えるわよね!?!?」


「お、おう。

誰と誰をだ!?」


「アステル達とベルクよ!!」


「俺、そこまでこれ得意じゃねえんだけど!?

複数の術者の魔力波形を無理やり一つの位相に揃え、擬似的な「共有意識」を作り出すとか、ちょっと危ねーし!!」


「泣き言言わない!!

天才でしょ!?

補助するから!」



アステルは《魔力位相同期網《マギア・フェイズ・ネットワーク》》の干渉が始まる中で、トゥーラの手を力強く握っていた。


「トゥーラ。行くよ。

2人でベルクを止めます!」


「姉さん……

すごく。すごく展開が早くて。

ちょっと意味がわかんないなって。」


「大丈夫。

エルディア達はいつもあんな感じです。慣れて。

私が因子を抑える。

ベルクはトゥーラに任せる!!」


「えーっと。

任せるってなんですかー!?!?

そもそも慣れてって意味が……

わきゃーー!!!!」



短く、笑ったような気配があった。


『良いのか?』


聖星獣の声。

アステルの意識の、さらに奥から響く、あの掠れた囁き。

アステルは一瞬だけ、目を閉じた。


「ふふ。

大丈夫。トゥーラなら。

私の。

私達の妹なんですよ。

あなたにも認められていますし。」


『ふ。

じゃな。』




トゥーラは、理解が追いつく前に体が先に動いていた。


目の前には、青白い光の奔流。

ベルクを中心に渦巻く、星属性の暴走。

その熱量は、遠くから見ていた時よりも遥かに凶暴だった。

肌が焼けるように痛い。

息をするだけで喉の奥が焦げつく。


(これ、普通に触れたら――)


死ぬ。

考えるまでもなく、わかった。


トゥーラは全力で後ずさり、そのまま転びかけて、両手をジタバタと振り回してなんとか体勢を立て直した。


「くっ……!!

あっつ……!!」


肩を光の端が掠め、その場でぴょんと跳ねる。

跳ねた勢いで前のめりになり、そのまま二、三歩たたらを踏んだ。


すっと、目の前の光が割れた。


奔流の真ん中に、一筋の道が開いていく。

まるで嵐の中を切り裂くように、光と光の隙間に、静かな空間が生まれていた。


「――アステル、姉さん……」


呟いた瞬間、伝わってくる。

これを維持している、姉の意志が。


(これ、姉さんが全部受け止めてるんだ。

道を作るために。)


奥歯を、ぎゅっと噛みしめる。


熱が全身を包む。

何度も、道が閉じかけては無理やりに押し開かれる感覚が繰り返された。

姉が、歯を食いしばりながら支え続けているのが、痛いほど伝わってくる。


トゥーラは助走をつけて光の中に頭から突っ込んでいく。

フォームだけは立派なヘッドスライディングだった。


やがて。



そこを抜けた先。



ベルクがそこにいた。




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